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心の師匠

 私は普段ボサノバを歌っている。つい体が揺れてしまうリズム。ポルトガル語の甘い響き。目をつぶると、瞼の裏に映るブラジルの空や海。目を開ける。するとそこにはなぜか、落語家さんの写真が付いたチラシ。

 そのチラシは2年以上前、ある落語会に行くつもりで、部屋の壁のコルクボードに貼ったものだ。ある日、いつものように歌の練習をしていると、ふと、その落語家さんに稽古をつけてもらっている気分になった。落語家さんがボサノバを歌う私に稽古・・・この不思議な妄想に、私は違和感は感じなかった。

 芸の道を究める人。この落語家さんもそうだ。そういう人達の芸を見る時、私はいつも、その裏にある努力の姿を想像してしまう。そして身の引き締まる思いがする。私も精進しなくてはと。

 私がボサノバを歌い始めて、何年経っただろう。芸の道を究める人達の足元にも及ばないが、少しでもそういう人たちに近づきたいと思う。

 ボサノバを歌う私の、心の師匠は、なぜか落語家さんである。

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