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徹底比較!『弁当曼荼羅展』の弁当 VS モチーフ作品

2022年10月16日~11月30日開催のオンライン個展、前衛弁当作家nancyさんが手がける超絶弁当ワールドを、モチーフになった名作たちとともに並べてみました。オンラインだからこそ実現できるスペシャル企画!

お馴染みの超有名作品も、改めてじっくり見てみると、意外な事実に気が付きます。

さらに、『弁当作品』を見てからモチーフになった作品を見みてみると、絵を見る視点が違ってくるから不思議です。

弁当制作のウラ話はnancyさん自身の解説を、有名絵画の解説はウッドワン美術館学芸課長の重藤さんの解説を、HASARDの個展からご覧ください。

個展を見ていない方は、まずはこちらをどうぞ👇

『曼荼羅弁当展』展示作品35点のうち、近代アートや、作品の撮影写真に著作権の問題があるものはここではご紹介できませんが、掲載可能な作品27点を一同に集めてみました。じっくり見比べてみてください。
(番号は、オンライン個展での展示番号です)

それでは、スタート!

1.『曼荼羅弁当』 VS『胎蔵界曼荼羅』

個展のTOP画像にもなっているこの弁当は、nancyさんが今回のHASARD個展のために作られた新作です!
『胎蔵界曼荼羅』は、414尊が描かれた大作。中央に大日如来を配し、その周りを四如来、四菩薩の八尊が取り囲み、大日如来の慈悲が伝わっていく様を表しています。
『曼荼羅弁当』は砂絵曼荼羅を思い出して作られたとのことで、モチーフの曼荼羅は同一のものでないかもしれませんが、今回の弁当展のDMにもなった作品、やはりご紹介しておかねばなりません。

『曼荼羅弁当』
『胎蔵界曼荼羅』

2.『大豆の耳飾りの少女弁当』VS『真珠の耳飾りの少女』

お次はフェルメール。弁当のお顔の方がちょっと大人っぽい感じ。
フェルメールの作品は、よく見ると、真珠がほとんど見えないのです!
学芸課長の重藤さん解説にもありますが、フェルメールは真珠を描いていないのだそうです。
反射したわずかな光だけで、珠の大きさや質感までも感じさせる画力に感服するとともに、白い真珠がそこに描かれていると思い込んでしまう、注意力と観察眼の欠如を思い知らされます。
そして再び弁当に戻り、大豆の耳飾りがしっかり存在感を主張している様子に、妙に安心するのです。

『大豆の耳飾りの少女弁当』
フェルメール『真珠の耳飾りの少女』

3.『星月夜ぐるぐる弁当』VS『星月夜』

ゴッホの星月夜は、弁当になっても美しい。

『星月夜ぐるぐる弁当』
ゴッホ『星月夜』

4.『メドゥーサ菜めし弁当』 VS 『メドゥーサ』

カラヴァッジォは、かなり手強いです。
本物のインパクトが強烈すぎ・・・それでも弁当は負けません。
蛇となった髪の毛の麺は、首より下の画面いっぱいに伸びる2匹の頭の方向までオリジナルに忠実であることがわかります。
そして、首から噴き出す血しぶき!
モチーフの絵を見てから弁当に目を移すと、赤ピーマンがより鮮明に浮かび上がります。出血大サービス!

『メドゥーサ菜めし弁当』


カラヴァッジオ『メドゥーサ』

5.『ヴィーナスの昼食弁当』VS『ヴィーナスの誕生』

細部までこだわり抜いて作られた美しい弁当です。
容器は弁当箱では小さすぎるので、モロブタを使用とnancyさんの解説にありますが、モロブタとは、コウジブタとも呼ばれ、麹蓋と書きます。日本酒の麹を作るための容器です。モロブタ弁当、ボリューム満点で食べ応えがありそうです。

そして、本家『ヴィーナスの誕生』。海の波の線や、海の中央は水の色が白っぽいこと、左下に生えるガマのような植物なども、よく再現されています。ボッティチェリがどう描いているかも、じっくりご観察ください。
学芸員の重藤さんの解説にもありますが、お昼ご飯のおにぎりと、差し出された水筒が大きなポイント。ヴィーナスも、やっと岸に流れ着いて、お腹もすいた頃でしょう。

『ヴィーナスの昼食弁当』
ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

6.『ナス・メニーナス弁当』VS『ラス・メニーナス』

イヤそうに「ふんっ!」とそっぽを向く表情が、モチーフの絵以上にしっかり描きこまれた弁当のマルガリータ王女。ベラスケスの絵も同じ部分をクローズアップしてみました。

『ナス・メニーナス弁当』
ベラスケス『ラス・メニーナス』(部分)
ベラスケス『ラス・メニーナス』(全体)

7.『大きな魚より小さな煮干しを食べる弁当』VS『大きな魚は小さな魚を食う』

寓意画を得意とするピーテル・ブリューゲルの絵は、HASARDでは『ウイーン美術史美術館展』で、トップの「バベルの塔」を含む5点を展示しています。
ここに出ている作品は、ブリューゲルの絵を基にピーテル・ファン・デル・ヘイデンが作成した版画です。大きな魚は小さな魚を食べ、その魚がさらに小さな魚を食べているという弱肉強食の世界ですが、結局人間に腹を切られる様子は、奢れるものはやがては滅びることを表しているのだそう。
弁当の煮干しがリアルです。

『大きな魚よりも小さな煮干しを食う弁当』
ピーテル・ブリューゲル『大きな魚は小さな魚を食う』

8.『ミルクカレーを注ぐ女弁当』VS『牛乳を注ぐ女』

フェルメールの絵では、女性は粛々と作業にいそしみ、チョロチョロと牛乳を注いでいますが、弁当の女性は、ざばっと勢いよくミルクカレーを注ぎ出して、なんだか楽しそうです。フェルメールブルーが、一層鮮やかに目に映ります。

『ミルクカレーを注ぐ女弁当』
フェルメール『牛乳を注ぐ女』

9.『クリムト母子弁当』VS『女性の三時代』

クリムトの絵は、母子の部分だけ切り取ると、本当にやすらかで幸せな絵になるのだな、と気付かされました。佐々木しずさん作の白い陶器が宝石箱のように美しく、器の清楚な面持ちが母子の幸せ感を醸し出しています。
問題は・・・弁当を見たあとにクリムトの絵を見ると、背景の赤い粒粒がイクラに見えてしまうこと。この先ずっと、この絵を見るとイクラを思い出してしまいそうです。

『クリムト母子弁当』
グスタフ・クリムト『女性の三時代』

10.『ゴッホの自画像フォカッチャ』VS『包帯をしてパイプをくわえた自画像』

パイプの煙がゴッホの鼻から出ていたとは、nancyさんの解説で教えられました。モチーフの絵の背景色も、同色の素材で再現されています。帽子のモジャモジャ感がイケてます。

『ゴッホの自画像フォカッチャ』
ゴッホ『包帯をしてパイプをくわえた自画像』

11.『ハラハラドキドキの接吻弁当』VS『接吻』

「接吻」がハラハラドキドキ?なのではありません。詳しくは本展の解説をご覧ください。弁当もモチーフの絵と同様、ただただ幸せ感が漂っています。

『ハラハラドキドキの接吻弁当』
グスタフ・クリムト『接吻』

12.『サロメとサヨリ弁当』VS  ビアズリーのサロメ

HASARDでも人気だった『オーブリー・ビアズリー展』(現在は終了)。nancyさんのインスタ動画のBGMになっている、ヘレン・メリルの歌声 
♪ I 'm a fool to want you~が、歌詞・メロディともにハマり過ぎていてコワいです。nancyさんの音楽の知識の幅広さにも脱帽です。動画は個展のリンクからどうぞ!

『サロメとサヨリ弁当』
オーブリー・ビアズリー『お前にくちづけしたよ、ヨカナーン』

13.『ムンクのシャケび弁当』VS『叫び』

nancyさんの弁当は、毎週金曜日がシャケ弁だそうです。
リクエストが一番多かったという「ムンクのシャケび」・・・ここはやはり、避けて通れない道だったのでしょう。

『ムンクのシャケび弁当』
エドヴァルド・ムンク『叫び』

16.『おかかは踊る弁当』VS『エトワール』

バレリーナの華やかさとは裏腹に、ダークな雰囲気に彩られるドガの代表作。後ろにいるパトロンらしきオヤジの姿を、おかかがふんわり隠してくれているかのようです。カリフラワーの可愛らしいチュチュの周りを、温かいご飯にふりかけられたおかかが、楽しそうにくるくると踊る様子が目に浮かびます。

『おかかは踊る弁当』
エドガー・ドガ『エトワール』

17.『モディリアーニドッグ弁当』VS『黄色いセーターを着たジャンヌ』

モディリアーニの絵のモデルは、内縁の妻ジャンヌ・エビュテルヌ。写真を見ると目力抜群の超絶美人です。画家に描かれた面長の顔と青い目。この時期のモディリアーニの作品には、目の中に瞳孔がありません。そんなジャンヌの顔も、ドッグ弁当では上品でかわいらしい作風になっていますね。

『モディリアーニドッグ弁当』
アメデオ・モディリアーニ『黄色いセーターを着たジャンヌ』

18.『モナ・リザも微笑む日本のキャラ弁』VS 『モナ・リザ』

しゃもじと割烹着姿が、モナ・リザには似合う、という新事実。

『モナ・リザも微笑む日本のキャラ弁』
レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』

19.『コーンを食らうサトゥルヌス弁当』VS『わが子を食らうサトゥルヌス』

ゴヤの絵は、かじりつかれる首なしの血塗られた背中が、強烈に恐ろしい作品。直視するのも気が滅入りますが、弁当のサトゥルヌスがひょうひょうとコーンをくわえる姿に、ホッと救われた気持ちになります。

『コーンを食らうサトゥルヌス弁当』
フランシスコ・ゴヤ『わが子を食らうサトゥルヌス』

22.『証拠隠滅オムライス弁当』VS  バンクシー

オブラートアートは、バンクシーのステンシル作品を再現するにはうってつけの素材の様です。「Sweep it under the carpet」は、不都合なことを隠す、という意味で、まさに証拠隠滅。
バンクシー弁当は、ナンシーさんの著書『弁当美術館』では「弁クシー」シリーズとして紹介されています。赤い風船の少女や、シュレッダーずたずたバージョン、Flower Throwerなど、代表作がカバーされています。ぜひそちらもご覧下さい。

『証拠隠滅オムライス弁当』
バンクシー『Sweep It Under The Carpet』

23.『三美神弁当』VS『プリマヴェーラ』

踊る三美神を切り取った弁当。薄い春巻きの衣が、モチーフの絵以上に軽やかで素敵。

『三美神弁当』
ボッティチェリ『プリマヴェーラ』

24.『衝撃注意のオフィーリア弁当』VS『オフィーリア』

モチーフとなったミレイの絵は、緻密な描写に見入ってしまう写実的な作品ですが、この弁当も一際芸術的。ミレイモチーフの弁当、もっと見てみたいです。

『衝撃注意のオフィーリア弁当』
ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』

25.『風神雷神弁当』VS『風神雷神図屏風』

風神雷神とも、爽やかで食欲をそそられます。

『風神雷神弁当』
俵屋宗達『風神雷神図屏風』から「風神」
俵屋宗達『風神雷神図屏風』から「雷神」

27.『国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助弁当』VS  歌川国芳の浮世絵

野晒悟助の着物の模様、猫がタックを組んで形作る骸骨まで、弁当にもきちんと描き込まれています。漆の弁当箱は色英一氏作。

『国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助弁当』
歌川国芳『国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助』

30.『宮島じゃけぇ弁当』VS『六十余州名所図会  安芸 厳島祭礼之図』

中央にドンと鎮座するゴボウがインパクト大の宮島の鳥居弁当は、nancyさんの広島への郷土愛を感じる作品。
それはそうと、厳島神社の大鳥居は、昔はこんな姿であったのか・・・

『宮島じゃけぇ弁当』
歌川広重『諸国六十余州名所図会  安芸 厳島祭礼之図』

31.『空也上人カレー弁当』VS『空也上人立像』

六波羅蜜寺を建立し、「南無阿弥陀仏」を唱えるとその一音一音が阿弥陀如来になったという、空也上人の像をモチーフにした弁当。口から出てくる6体の阿弥陀如来ごはんが、ありがたく並んでいます。
「ナムアミダブツ」って7音じゃないの?と思いきや、南無阿弥陀仏はサンスクリット語「ナモアミタバ」に由来し、当時は「ナモアミダブ」と唱えられていたそうです。

『感謝をこめて 空也上人カレー弁当』
康勝『空也上人立像』

32.『麗子ほくそ笑み弁当』VS『麗子微笑』

モデルとなっている岸田劉生の娘、麗子は美しかったとのことで、おどろおどろしい背景に負けず、じっくりお顔を拝見すると、実は非常に整った顔立ちで描かれていることがわかります。対して弁当の麗子のほくそ笑みは・・・ひたすらかわいいですね。

『麗子ほくそ笑み弁当』
岸田劉生『麗子微笑』

34.『諸国瀧廻り木曽路ノ奥阿彌陀ヶ瀧弁当』VS  北斎の浮世絵

早口言葉のようなこのタイトル、名前をすんなり読めたらスゴイです。
作品は、色英一氏作の美しい蛸の弁当箱から現われる、色鮮やかな北斎の滝見弁当。
器のイメージから中身を即座にこの絵に決めたというnancyさん。幾筋にも分かれて流れ落ちる滝が、タコの足を連想させたのでしょうか。北斎に蛸はないけれど、漆器と弁当、ダブルの蛸に魅せられた作品でした。

『諸国瀧廻り木曽路ノ奥阿彌陀ヶ瀧弁当』
葛飾北斎『諸国瀧廻り木曽路ノ奥阿彌陀ヶ瀧』

35.『土偶弁当』VS『遮光器土偶』

宇宙人のような顔つきは、土偶の画像を見てご確認ください。左足が元々ない状態で発掘されたとのことですが、威風堂々の姿です。

『土偶弁当』
『遮光器土偶』


以上、27点の弁当とモチーフとなった作品をご覧頂きました。

いかがでしたでしょうか?

こうして見比べてみると、弁当自体の完成レベルの高さは言うまでもないですが、「これをモチーフに弁当を作ろう!」と考えつくnancyさんの感度の高さ、古今東西ジャンルを問わない幅広い知識に改めて驚かされます。

弁当は「食べてなくなるもの」ではありますが、作品の画像は永遠に残ります。きっとお味も絶品でしょうから味わえないのは残念ですが、アートの世界にひとつのジャンルを確立したと言えるでしょう。

さらに、見たような気になっていた名画や名作も、実は見ていなかったんじゃないか、もっとじっくり観察してみようという気にもなります。

世界の名作を日常生活に取り入れて毎日の生活をハッピーにする方法は、工夫次第でもっとたくさん作り出せるのかもしれませんね。

みなさまは、どんなことに気付かれましたか?

オンライン美術館HASARDの個展『弁当曼荼羅展』はこちらからどうぞ!
会期:2022年10月16日~11月30日

HASARDトップページはこちらから

ナンシーさんの本はこちら


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