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渋谷のユーロスペース

前日に区役所に行って諸々の手続きを済ませ、晴れて東京都民になった。
近くに自転車屋があったのでその足で入り、4万円で自転車を買った。
後ろの車に怯えながら、歩行者を避けながら走った。
久しぶりの自転車は少しドキドキしたけど東京での生活がスタートしたんだなと胸が躍った。
家の近くの蕎麦屋に入り、いつもの癖で天ざるとビールを頼んでしまった。
食べている時に自転車で来た事を思い出して結局引いて帰った。

次の日は7時ごろに起きて身支度をしてホットドッグとコーヒーを買いに行った。午前中に荷物を受け取って自転車で渋谷に向かった。
例の商店街を抜けて駅前に出ると、昔よく聴いていたアーティストの女の子が髪を結いながら通り過ぎていった。
画面の中で見ていた凛とした彼女とは別の印象を受けた。
華奢で普通の女の子という感じだった。
少し早くなった鼓動のまま、奥渋の魚力で鯖の味噌煮と鮭のハラス定食を白髪のおじさんの隣で食べた。

ユーロスペースに着くと大学生のカップルの他に4、5人ほどの客がいた。
初めて来た時からずっとどこかで見たような懐かしい匂いのする素敵な映画館だ。
立地も素晴らしく、円山町のラブホテルとクラブに囲まれた場所は混沌としていて何十年も変わらない渋谷という感じがした。
壁にくっついた長い椅子の左端に腰掛け、上映前に自販機で水を買おうとしたが、5000円札が2枚と小銭が72円しか無かったのでせっかく100円にしてくれているのに水は買えなかった。

シアター1のE-14
3つに分けた一番右のエリア
そのエリアには自分1人だった。
椅子はいつも想像しているよりも低く、座り方も少しコツがいる愛くるしさ。
その日は零落を見た。
斎藤工は素晴らしかったし、主人公にはひどく共感した。

堕ちよ、生きよ!

外に出るとすっかり夜だった。
帰り道は久しぶりに彼女の曲を聴いた。
少年のようにワクワクして乗り回していた自転車はその日も結局引いて帰った。

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