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"彼はね、あんたなんかとケッコンするより、私に騙されたいのよ。"_"Destry Rides Again"(1939)

戦間期の大女優:マレーネ・ディートリッヒが38歳の時に主演した西部劇 ジョージ・マーシャル監督「砂塵」より。

悪徳町長が牛耳る西部の街に、ジェームズ・スチュアート演じる凄腕のガンマン:トムが、不正をただしにやってくる…なんてプロットはどうでもいい。重要なのは、情婦でダンスホール・クイーンのフレンチーを、ディートリッヒが演じている、ということ。
同時代の西部の街でも、ざらにいなかったろう、男勝りで、男の尻に敷かれるなんてまっぴらごめんの、狡くて図太い女だ。彼女がダンスホールで、のん兵衛の男どもと祝杯を挙げる時:そこはまさに女王の支配する王国。心がいくら浮かんでいても、いつもきりっと引き締まっている口元と眼差し、それが彼女の強さの象徴。

よそ様の嫁っこの主人のハートを奪うことなど朝めし前。妻が抗議しても知らぬ存ぜぬで、あっさりこの調子。

Lily Belle: Hey you! Give me those pants. And from now now on, leave my husband alone.
Frenchy: I don't want your husband, Mrs. Callahan - all I want is his money... and his pants.
Lily Belle: And how'd you get 'em? By making eyes at him while you cheated, you gilded lily!
Frenchy: But Mrs. Callahan, you know he would rather be cheated by me than married to you.

https://www.imdb.com/title/tt0031225/quotes/

男に抱かれたり、着替えたり、笑ったり、酒を飲んだり、歌ったり、画面中央に坐するディートリッヒ、もとい、フレンチーがウキウキしているだけで、見ているこちらもうれしい気分になってしまうのだ。

そんな彼女が、フレンチーが詐欺師と組んでまんまとせしめた大牧場の、牧場主の抗議を受けて立ち上がり、そして返り討ちにさせられた保安官 の代わりにやってきた保安官、の息子トム(ああ、ややこしい!)の優男ぶり、酒場でミルクを頼む下戸ぶりと、自分が今までにあったことがない人種には、コロリと参ってしまうのだ。 そこが、かわいらしい。
自分のままにならない態度に思わずかっとなって、少しべそかきそうになりながら、酒場にあるもの、椅子やグラスやナプキンを絶えることなく(演技とは思えないマジぶりで)トムに延々と、数分にわたって小言もなく投げつけるシーンは、本作のハイライトだ。

最終的に、フレンチーは、悪党の銃弾からトムを庇って、あっけない死を迎える。
あく朝、平穏を取り戻した町をトムはしみじみと歩く、本人は惚れさせる気もねんごろになる気も全くなかったおかげで小ざっぱりとした表情を浮かべている。
イダイなる正義の光が街路を照らす。
ああ、しかし、町にとっては、太陽を失ったのと、同じことだろう。

画像引用:Criterion公式サイト

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