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花に嵐の映画もあるぞ(洋画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦… もっと読む
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#戦争映画

"機関銃を止めずにはいられなかったんだ。だから俺はやり遂げた。"_Sergeant York(1941)

実在の第一次大戦中の英雄の伝記映画である「ヨーク軍曹」より。 テネシーの田舎町に生まれた無頼漢 ヨーク(ゲーリー・クーパー)は、ある時、信仰に目覚め、改心する。やがて、戦争が始まり、戦争と宗教の矛盾に苦悩するも、真の自由を守るために銃を取る。 皆さんお分かりの通り:「ハクソー・リッジ」とやってることは同じである。シモ・ヘイへよろしく、一歩間違えればマンガの世界から出てきたような活躍ぶりを見せる一兵卒を、ハワード・ホークス監督はどう描いたか。 ヨークは農夫として育ち、若い頃

砂漠で絶賛迷子中。映画「肉弾鬼中隊」

「The Lost Patrol」(邦題:肉弾鬼中隊)は、1934年に公開された戦争映画だ。監督はジョン・フォード。 物語は第一次世界大戦中のメソポタミア(現在のイラク)で展開される。 イギリス陸軍のある部隊が、敵のアラブ反乱軍との戦闘中に道に迷ってしまう。彼らは自分たちの部隊とは完全に切り離され、迷子になる。 11人の兵士たちが砂漠のオアシスにたどり着く。彼らは生き残るための戦いを続ける。しかし、過酷な気候条件、食糧不足、何より、見えない敵兵の襲撃前に、兵士たちは次第に疲

「アメリカ人だと、バレるじゃないか」「アメリカ人だから、ここにいるのさ。」_“Where Eagles Dare”(1968)

無口な男、おしゃべりな男。クリント・イーストウッドとリチャード・バートンが「荒鷲の要塞」で共演。 無口なのは、もちろん、どっち? ドル箱三部作でノリに乗っていたイーストウッドが、初めて挑戦した戦争映画だ。 「ナバロンの要塞」の原作者アリステア・マクリーンが原作・脚本を担当。同じく難攻不落の要塞をターゲットに、スリル満点の冒険活劇が繰り広げられる。 第二次世界大戦、連合軍がようやく反撃に移ろうとしている頃、“鷲の城”と呼ばれる難攻不落の ドイツ軍要塞に、アメリカのカーナビー

WW1の忘れたい/忘れられない記憶。「彼らは生きていた」と、3つの「西部戦線異状なし」。

悲惨な記憶、というものは、いとも容易く忘れられる いや、本心では忘れたがっていることに、そろそろ気づくべきかもしれない…。 それを考えるべく、今回は計4つの第一次世界大戦の記憶 を紹介する。 ピータージャクソンのドキュメンタリー 「彼らは生きていた」 2020年2月公開の「彼らは生きていた」 皆様はご覧になっただろうか? イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた西部戦線で撮影された未公開映像を元に、ピーター・ジャクソン監督がモノクロの映像をカラーリング。大戦当時は音を録音

フランスのトラウマ。ベト戦映画な「いのちの戦場 アルジェリア1959」

国家の恥。 「なかったことにしたい」有事は、どの国にも存在する。 フランスの場合、それは1954年から1962年にかけて長く続いた植民地:アルジェリアの独立戦争だった。 19世紀以来フランスの植民地であったアルジェリアでは、独立を求めて1954年にアルジェリア民族解放戦線(FLN)が結成されフランスとの間で戦争が勃発する。ゲリラ戦を展開するFLNに対し、フランスは武力による弾圧を強め戦争は泥沼化する。57年に「アルジェの戦い」(2)と呼ばれる仏軍とFLNとの間で激闘が展開さ

ソ連製戦争映画「誓いの休暇」_帰郷、たった3分間だった。

わたしは厳寒を冒して、二千余里を隔て二十余年も別れていた故郷に帰って来た。時はもう冬の最中で故郷に近づくに従って天気は小闇くなり、身を切るような風が船室に吹き込んでびゅうびゅうと鳴る。苫の隙間から外を見ると、蒼黄いろい空の下にしめやかな荒村があちこちに横たわっていささかの活気もない。わたしはうら悲しき心の動きが抑え切れなくなった。 おお! これこそ二十年来ときどき想い出す我が故郷ではないか。わたしの想い出す故郷はまるきり、こんなものではない。わたしの故郷はもっと佳いところが多

暗中模索。アンジェイ・ワイダが刻んだポーランドの記憶、「地下水道」。

ワルシャワ蜂起とは、第二次世界大戦後期の1944年、ナチス・ドイツ占領下のポーランドの首都ワルシャワで起こった武装蜂起のことを指す。 ナチス・ドイツを押し返し、赤軍占領地域がポーランド東部一帯にまで及ぶと、ソ連はポーランドのレジスタンスに蜂起を呼びかけた。7月30日には赤軍はワルシャワから10kmの地点まで進出。占領も時間の問題と思われた。レジスタンスたち:ポーランド国内軍はそれに呼応するような形で、8月1日、ドイツ軍兵力が希薄になったワルシャワで武装蜂起することを赤軍と打ち

脱走映画の古典「第十七捕虜収容所」_抜け出したい、と男たち騒めく。

巨匠:ビリー・ワイルダーというと「喜劇」のイメージが先行。 それだけで語るのは:もったいない! どんなジャンルでも一流に仕上げてしまう巨匠。 本作は、おおよそワイルダーらしからぬ、男、男、男! の戦争アクション。 後続の「大脱走」の様な派手なアクションはないけれど、最後まで手に汗握らせてくれる、男ばかりの骨太脱獄映画だ。 第2次世界大戦中、ドイツ軍の捕虜となったアメリカ兵は悪名高き《第17捕虜収容所》から脱出なるか!?鬼才ビリー・ワイルダーが、得意の話術を駆使し、圧倒的な

映画「まぼろしの市街戦」_これはおとなの寓話。ハートのキングよ何処へ行く。

かつて、作家の坂口安吾は、自ら精神病院で治療を受けた経験をもとに、こう記した。 人間はいかにより良く、より正しく生きなければならないものであるか、そういう最も激しい祈念は、精神病院の中にあるようである。もしくは、より良く、より正しく生きようとする人々は精神病的であり、そうでない人々は、精神病的ではないが、犯罪者的なのである。 坂口安吾「精神病覚え書」 ※青空文庫から引用 余談ながら、坂口安吾が入院した経緯は、このnoteの記事に詳しい 清廉潔白に、誰に対しても優しく、自