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花に嵐の映画もあるぞ(洋画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦… もっと読む
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#西部劇

「俺は馬1頭あたり25ドルより、35ドルを取るんだ」 "The Undefeated"(1969)

いささか油の乗り切った時期からやや離れた、それでも年に一つは自らのプロダクションで西部劇を製作し、アメリカン・ニューシネマの波に対して持ちこたえていたジョン・ウェインが、 今回は名優ロック・ハドソンを迎えた1969年制作の西部劇「大いなる男達 」より。 牛を運ぶ大規模なロングドライブの物語なら「赤い河」「ローハイド」他多数あるが、馬を運ぶとなると、なかなか珍しい。 ベトナム戦争真っただ中のくら~い時代を暗示するかのような、ジョン・ウェインらしくない導入部である。舞台は南北戦

"彼はね、あんたなんかとケッコンするより、私に騙されたいのよ。"_"Destry Rides Again"(1939)

戦間期の大女優:マレーネ・ディートリッヒが38歳の時に主演した西部劇 ジョージ・マーシャル監督「砂塵」より。 悪徳町長が牛耳る西部の街に、ジェームズ・スチュアート演じる凄腕のガンマン:トムが、不正をただしにやってくる…なんてプロットはどうでもいい。重要なのは、情婦でダンスホール・クイーンのフレンチーを、ディートリッヒが演じている、ということ。 同時代の西部の街でも、ざらにいなかったろう、男勝りで、男の尻に敷かれるなんてまっぴらごめんの、狡くて図太い女だ。彼女がダンスホールで

“その手でお前の愛馬を埋めるんだ!”_”Bite the Bullet”(1975)

「スティール・ボール・ラン」の元ネタ。だけどジョニー・バレンタインも、リンゴォ・ロードアゲインもといチャールズ・ブロンソンも、出てないよ。 喩えるなら、ノリスケ・ヒガシカタを主役に置いたような映画。 1908年の西部。 デンバー・ポスト新聞の主催による、踏破距離700マイル、賞金2000ドルの人馬による 過酷なレースが始まろうとしていた。 それは、山あり谷あり砂漠ありという定められたコースを6日半で踏破しなければならず 、馬を乗りかえることは出来ず、もし事故に遭えば生きては

“月曜日はユウウツだ!”_だったら、西部劇を観よう“The Harder They Fall (2021)”

映画の誕生から半世紀以上にわたる長い間、西部劇は「白人」の専有物であった。1947年生まれのNBA殿堂入りプレイヤー:カリーム・アブドゥル=ジャバーは、自叙伝でこう語っている。 Sammy Davis Jr. アメリカの歌手、俳優、エンターテイナー。60年代アメリカを席巻したシナトラ一家に迎入れられ「オーシャンと11人の仲間たち」に出演したり、 obsession 【名】 〔頭から離れない〕強迫観念、妄想 〔人が強迫観念に〕取りつかれていること 「ハーダー・ゼイ・フ

十字架をどう使う?「続・荒野の用心棒」

この地上には、10万もの十字架で埋め尽くされた丘が存在する。 Simultaneously 同時に salvation 救済、救助、救済物、救済手段、救い、救世(主) triumph 勝利,征服 agonizing 【形】 〔あまりに〕苦痛な、苦しい 不快感[困難]をもたらす 勝利と救済の象徴 であると同時に 想像を絶する災いとあまりに苦しい死の象徴 でもある 十字架の立つ墓場。 死と生の境目、というに、これ程絵で見て相応しい場所はないだろう。 さすがにHill o

名作西部劇「シェーン」。 歳を取ると、ただのお父さんもカッコ良く見えてくる不思議。

今や、ジョーイ少年が「シェーン・カムバーック!」と叫ぶ、ラストシーンばかりがネタにされている西部劇だ。その一言で片付けるのは:もったいない! まずは、誰もが知っている様で、実は誰もよく知らない、本作のあらすじ・キャスト・スタッフを。 1890年、初夏。ワイオミングの高原に一人の流れ者がやって来た。シェーン(アラン・ラッド)と名乗るそのガンマンは、開拓民一家のスターレット家に立ち寄り、一晩泊めてもらうことに。一家の長ジョー(ヴァン・へフリン)は、妻のマリアン(ジーン・アーサ

西部劇「ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯」_ 生き急いだあいつと、無為に生きながらえた俺と。

無念、という言葉が、この世には存在する。 なぜ、命を奪われた。 なぜ、命を奪った。 という無念が。 アメリカ西部開拓時代の保安官、パット・ギャレットの一生において痛恨の無念が、当時21歳のビリー・ザ・キッドを射殺したことだった。 「血まみれ」サム・ペキンパーが、その道行を映画化した本作。 かつて「ワイルドバンチ」で情け容赦ない無差別殺戮を描いたこの男が、こんどは、ただひとりのアウトローの死、それを殺した保安官の無念を、描く。 物語は1909年、老境のパット・ギャレットが、

西部劇「ガンヒルの決斗」_"うちの子に限って"に立ち向かえ!

いつの時代でも、自分の子供は、目に入れても痛くないもの、可愛いものだ。 だから、政府高官、大会社の社長、闇社会のフィクサーetc.は「金と権力を借りて」身内の不貞行為、不祥事をいんぺいしようとする。 ひと昔前、彼らは加えて「暴力」の力を借りた。 本作は西部開拓時代における「いんぺい」をテーマにしている。保安官が相手とするのは、ガンヒルの街一帯を仕切る親分の不詳の息子=殺人犯。多勢に無勢の上、相手は実力行使も躊躇わない。穏便を進めようにも、困難なのは当然だ。 “銀幕の大スタ

豪快にして痛快。ハワード・ホークスの「コンドル」「赤い河」ほか二本。

ハワード・ホークス(1896~1977)はハリウッド黄金期において、男性映画と女性映画の両方を得意とした米監督だ。 およそ静的ではない。躍動感あふれる演出で豪快なエンターテインメントを作り上げる。 正直、今見ると、後にヌーベルバーグ派の作家たちによって神格化される ほどとは思えない。どんなジャンルもそつなくこなす職人、といった印象だ。 しかし、どの作品も完成度が高い、という一点には、うなづかざるを得ない。 ホークスほど色々なタイプの娯楽映画を発表した監督はいない。アクション

西部劇「ウィンチェスター銃73」_呪いの武器の、ものがたり。

妖刀村正はじめ呪われた武器、というものに、人は興味を掻き立てられる。 「ラスト・サムライ」で飲んだくれのネイサン大尉が実演販売に励み、なにより「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」でドクが、「荒野の用心棒」で名無しの男が、「ゴールデンカムイ」で土方歳三が得物とする「西部を征服した銃」、西部劇の代名詞といえる銃器が、ウィンチェスターライフル。 この映画は、そのとある一挺が呪われていく過程を描いたものがたりだ。 1876年7月4日(アメリカ独立記念日)、カンザス州ド