マガジンのカバー画像

花に嵐の映画もあるぞ(洋画編)。

183
わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦… もっと読む
運営しているクリエイター

#イギリス映画

「カトリックが絶滅するまで、アイルランドに平和はない!」_"CROMWELL"(1970)

オリバー・クロムウェルは17世紀のイギリスの政治家および軍人で、イングランド共和国の指導者。その名声は、19世紀、かのゲーテと友誼を結んだ歴史学者ロバート・カーライルの伝記によって世界中に知られ、日本でも内村鑑三が、聖書と並んで自身の影響を受けた書籍として挙げていて、じじつ内村自身が と熱弁ふるって讃えた、議会制民主主義の発展に寄与した人物、表向き清廉潔白の英雄。 他方で、権力を握った後は、反対派や煩い連中を容赦なく弾圧する独裁者へと変貌。グローブ座ほか多くの劇場を閉鎖に追

「猫が好きだ。そしてネコが嫌いな人間が大嫌いだ。」_"North Sea Hijack"(1981)

以上の逸話、本当だったかはともかくとして、みごとに三代目ボンドを演じて見せたロジャー・ムーア。 フラレてもフラレてもめげずに、粘りで女をゲットする男。取りあえず一発試せるかどうか?まずは単刀直入に切り込む男。断られても怒らない男。そして何より、女のピンチには必ずそばにいるダンディな男(期待通り向こうから飛び込んできてくれる男…)近づいてくる女性は敵だろうが味方だろうが、まずは信じる、優しさに溢れた男…。 女たらしでユーモラスなスパイ=ジェームズ・ボンドという前時代のイメージは

イケメンとネコのコンビって絵になるよね。『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』

イギリスの作家ジェームズ・ボーエンによる同名の自伝を基にした2016年のイギリス製ぬこ映画"A Street Cat Named Bob"(邦題: 『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』)より。 物語は、実在のジェームズ・ボーエンの自伝に基づいている。ジェームズ(演: ルーク・トレッダウェイ)は、過去の薬物依存症から立ち直り、再出発を試みる青年。彼はホームレスとして街頭生活を送りながら、プログラムに参加し更生を目指している、 が、現実は厳しい。 なにせしょっぱなから、ジェー

あまりお手本にしたくない人だ。"The Lady in the Van"

"The Lady in the Van"(邦題『ミス・シェパードをお手本に』)は、トニー賞を受賞するなど英国を代表する劇作家アラン・ベネットによる実話をもとにした舞台劇だ。 これをニコラス・ハイトナーが監督した2015年の映画より。主演はミネルバ・マクゴナガル先生あるいは「天使にラブ・ソングを…」の厳格な修道院長ことマギー・スミス。 物語は、1970年代から1999年にかけてのロンドンを舞台とする。アラン・ベネット(演: アレックス・ジェニングス)は作家で、彼の住む街に奇

ジェームズ・メイソン主演「邪魔者は殺せ」

ジェームズ・メイソン(James Mason)は、20世紀のイギリス出身の俳優で、同時代のローレンス・オリヴィエと並び、映画や演劇の領域で、その演技の才能と幅広い役柄で知られた男優。ダークで魅力的な役柄や反英雄的なキャラクターが持ち役のひとつ。 そんな彼が「第三の男」のキャロル・リード監督と組んだ1947年の映画「邪魔者は消せ」(Odd Man Out, 1947)より。舞台は北アイルランドのベルファスト市。メイソン演じるアイルランド独立運動の闘士ジョニー・マックイーンが政治

「まさか…お父さんが我が子の前でハダカになって踊るというのかい?」「天に誓って、そうだよ。」_『The Full Monty』(1997)

メジャーどころの映画であれば「イエスタデイ」のジョン・レノン役、または「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」の敵テロリスト役で見る者に強い印象を残した男優ロバート・カーライルは1961年4月14日、スコットランドのグラスゴー生まれ。 グラスゴーの演劇青年だった彼は、ケン・ローチ監督の『リフ・ラフ』で建築作業現場ではたらくナイーブな好青年、スティーヴを演じて注目された。以来、90年代を通じ、職人肌の監督たち(アントニア・バード、マイケル・ウィンターボトム、ダニー・ボイル)の

“映画、それは退屈に満ちた人生を切り離すものさ!”_“Their Finest”(2016)

クリストファー・ノーラン監督「ダンケルク」のB面。戦火の中で、誰もが夢を見たがっていた…。「人生はシネマティック!」とは、当たっているようで、当たっていないような、邦題。 第二次世界大戦では、映画というメディアが、プロバガンダに利用される成熟期を迎えた。ナチス・ドイツでいえば…の故事を引くまでもないね。 本作は、 プロバガンダ? だからどうした、楽しけりゃそれでいいだろ!の精神で突っ切るのだ。じつに潔い。 第二次世界大戦下のイギリス映画は,ドキュメンタリー映画,商業映画

1949年アカデミー美術監督賞受賞、テクニカラーの傑作「赤い靴」。

1949年3月24日開催 第21回アカデミー賞において、史上初めて、非ハリウッド製作である『ハムレット』が作品賞を受賞した。イギリス映画史に残る快挙だった。 もう一つの快挙は当時、白黒とカラーに分かれていた美術監督賞にも存在した。白黒の部門で『ハムレット』が、カラーの部門で同じくイギリス映画である『赤い靴』が受賞したのだ。 アルフレッド・ヒッチコックが拠点をアメリカに移して久しい当時、本国イギリス映画には4人の巨匠がいた。 1人はローレンス・オリヴィエ(シェイクスピア作品を

映画「ゴッズ・オウン・カントリー」_世界の果ての物語。

イングランド北部に位置する、「神の恵みの地」ヨークシャー。 そこは、ロンドンやリヴァプールなど文化的な匂いとは無縁、 例えていうなら有島武郎「カインの末裔」のいう これは、荒野に生きる、美しい二人の羊飼いの、美しい魂の邂逅を描いた物語だ。 羊飼いの肖像。「大自然に生きる二人の羊飼いの同性愛の映画」といえば「ブロークバック・マウンテン」が真っ先に思い浮かぶだろう。泥臭い魅力を放つゲオルゲがイニスとすれば、どこか脆さを感じさせるジョニーがジャック、といったところか。 だが、「