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またまたヒットしました。ゾロ目です。

 一見、最悪な一日だった。
 日曜深夜~月曜明け方のNHKラジオ「ラジオ深夜便」の午前一時台の朗読コーナーは、眠りにつこうとする脳細胞を活性化させるインパクトをときおり放つ。
 昨日も、そうだった。
 ここまで書いて、作者も作品名も調べないのは不義理の極みかもしれない。 
  けれど、こちらはこちらで、今日はその気力を持ちあわせていない。

 「あっ、そうか!」、なぜ、「深夜便の朗読コーナー」の話を書こうとしたか、それすらすっぽかして次の展開へ移ろうとしていた。
  
 翌朝はヤボ用があって早起きしなければならなかったし、二時間ソコソコが限度の車いすにヘタをすると、半日近く乗らなければならないかもしれなかった。
 要するに、万全の体調を整えておく必要があった。
 
 なのに、泊まりのHくんとひと晩明けると忘れる程度のダバナシに盛りあがって、普段は霞がちの視界がトニックシャンプーを一滴落とされたほどスッキリとしてしまったのだった。

 Hくんに時刻を確認すると、ちょうど一時すぎだった。
 ついつい眠りの背景に流れる唄の代わりに、あのラジオ番組へ切り替えてしまったのだった。

 不慮の事故で息子を失ってしまった小学校教師夫婦と、受け持ったクラスの息子に瓜二つの少年との交流を描いた作品だった。
 
 やっぱり、眠れなくなってしまった。
 お茶を飲んだり、寝返りをしたり、それはもちろん、Hくんがすべて介助しているのだが…、朗読が終わってからも一時間ほどは目を閉じられなかった。

 寝つきが遅いと、目覚めは快適な日がほとんどだ。
 七時前に朝のヘルパーさんが来て、めずらしく五分ほどはボーッとしていたが、すこし気合をいれて朝食をすませる。
 もうひとりの家事ヘルパーさんと夕食の献立の打ち合わせをして、次のヘルパーさんの出番まで、とりあえず仮眠をとることにした。

 外出の段取りなどは省略。
 
 九時半過ぎに家を出て、三駅先の市役所へ。
 自宅~駅、駅~市役所の電動車いすの走行時間をふくめると、所用の中盤で限界時間になってしまった。
 
 それなりの立場の方々が集まったテーブルで、ぼくは腰の痛みに悶え苦しんでいた。が、ぼくも立場上、それなりの発言をして、できるだけ大ピンチを凌いでいる状況を悟られないように、がんばりつづけた。
 そばに付き添ったNくんに体勢を整えてもらったり、腰をほぐしてもらったり、「悟られないように」などと意識することはあまりにも無意味なあがきでしかなかった事実を、いまになってぼくは「悟った」。

 所用が終了するころには腰は限界を突破していて、電動車いすを操作することも不可能になっていた。
 うまくウチの作業所の車があいていて、すぐに迎えにきてもらえた。

 わが家の玄関はスロープの傾斜が急で、電動車いすを手押しにした状態ではクリアすることができない。すくなくとも一人では。
 二人でもぼくと電動車いすを合わせると一八〇キロ近いので、ペアの組み合わせによっては難しいときもある。
 今日は運よく元サッカー部コンビだったので、スムーズにことが運んだ。地獄に仏だった。

 とりあえずベッドイン。
 汗まみれになっていたけれど、体を動かすと激痛が走った。
 今日のヘルパーさんも普段からほぐしてもらっているので、着替えよりもそちらを先決にお願いした。
 硬直さえ入らなければ手足を動かせる状態になったので、慎重に着慣れないカッターとスラックスから、Tシャツとブリーフ一丁のいつもの寝姿にもどる。

 リハビリの先生に対応の相談に電話をかけると、急遽、訪問してもらえるようになった。
 今日のヘルパーさんに、痛みをやわらげるためのノウハウを丁寧に伝授した上で、素人では難しい部分を補ってニコニコと帰られた。
 ぼくのまわりは、なんていい人ばかりなのだろうか。

 夕方、自分でも予定していなかった「コロナについて」の原稿を、唐突に書きはじめた。
 もともと書くことをはじめた動機のひとつで、半端なくエネルギーを費やさなければならないテーマだった。
 だから、後まわしにしつづけてきた。
 ぼくにとっては意を決するはずの高いハードルなのに、わずかな助走もなしに「ふと」一歩を踏みだしてしまった。
 内容の軽い原稿をアップしながら、一ヶ月で仕上がるだろうか。

 書きはじめて、すぐに一時停止した。
 のめり込むには、今日の体調はすぐれない。

 二番目の段落で、「下書き保存」を選択した。

 モニター右隅の文字数に目をやると、「222」のゾロ目だった。

 コロナは、いろいろな意味でぼくの分岐点になるのではないだろうか。
「なったのではないだろうか」と書きかけて、まだまだ現在進行形であることに気づいた。
 ピリオドを打ったつもりでも、積み重ねたくなることもあるだろう。
ほんとうに納得のいく要塞の攻略ができるのだろうか。

 ぼくは、タダでは転びたくはない。

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