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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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2021年10月の記事一覧

うれしかったこと

 訪問入浴で湯船に浸かっていた。 浴槽の左側にはスタッフのAさんがいて、左の上半身を洗い終…

関取花さんへ

 枕もとのスピーカーから直線的に唄声がぼくの脳を通り越して、首筋から胸へ、そして鳩尾まで…

一人ひとり

 昨日、すぐご近所の八百屋へ出かけた。 予定では市場へ寄って、作業所へも顔を出すつもりだ…

noteへぶちかまし

 たったいま、noteへの投稿を書いていたら、ぼくと身内(ヘルパー派遣事業所)の人たちにとっ…

ルリちゃん

誰とも話したくありませんでした 誰とも眼をあわせたくありませんでした だらしなくよじれた…

わたしとあなたとわたしたち

 「どんなふうに介護されると、ラクなんですか?」  ぼくは当事者という看板を背負わされて…

 きっと、むかしのように一日でも二日でも電動車いすに座りつづけられたら、帰りのバッテリーのことを頭に入れながら、行けるところまで行こうとするのではないだろうか。  ぼくの暮らしているところは下町だから、ちょっとした散歩やスーパーや市場の買いものへ行くぐらいでは、町並みにさえぎられて山の輪郭を確かめることができない。  何棟か並んだ文化住宅の路地を抜けると、多少のうねりはあっても、南北に走る道へ出る。 リーマンショック以前ほどではないにしても、一車線だけにしては交通量が多く

暮らしと仕事(改訂版)

 無理をして話そうとしなくてもいいのに、壁のほうに向いてウトウトとしていればいいというの…

そんなこともありました

 あの日、ぼくは養護学校の教室で、M先生に給食を介助してもらっていました。  野菜スープだ…

愛着

 ここのところの日課になっている二時間ほどの外出から帰って、着替え(介護用語では「衣服の…

手を入れる

 おととい、コチュジャンをきかせてホルモン煮込みをつくってもらった。  旨かった。 行きつ…

耳を澄ます

小さめの枕を 首筋まで深く差しこみ 上目遣いに 白い壁を見つめる ある日のためらいに 立ちも…

言いわけ、疲れ、ノスタルジー

 ほぼ毎日、つづけていたnoteへの投稿が一日あいてしまった。 文章の長短にはかかわりな…

うちの子

 長年、働きつづけた洗濯機が動かなくなった。 説明書を探しても、整理の悪さが響いて簡単に出てきてはくれなかった。  修理なんかで時間をかけるよりも、さっさとふんぎりをつけて作業所の行き帰りに必ず通る家電量販店のお世話になることを決めた。  ぼくは根っからの文系人間だから、生活スタイルと設置スペースとだいたいの予算を伝えて、店員さんにおまかせしようと考えていた。  入り口近くのインフォメーションで、事情を説明して担当者を呼んでもらった。  四十代後半のスラッとした男性だった