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【2022年5月のM&A案件】KKRによる日立物流の買収

1. 案件概要

・KKRによる日立製作所の上場子会社日立物流の買収
・過去にも日立製作所の上場子会社(日立国際電気・日立工機)を買収してきたKKRがオークションプロセスの末、日立製作所との独占交渉権を獲得
・公開買付けは国内外の競争法対応・対内直接投資法令対応が完了することが見込まれる今年9月下旬を目途に開始予定
・本件により日立製作所は2006年時点で22社あった上場子会社すべてを完全子会社化、または売却を実施

2. 案件規模

譲渡価額:約6,712億円

筆者作成
日立物流の株価チャートおよび公開買付価格

3. ポイント

➀取引ストラクチャーの変更
・本件は当初、日立物流がファンドによる非上場化を行った場合、LBOローンの活用により日立物流の負債が増加し、そのことが今後の投資の制約になることを懸念し、上場維持スキームを前提に1次プロセスが開始されました
・しかし1次プロセス終了後に親会社の日立製作所が非上場化スキームも含めて全ての選択肢の中から最良の提案を選ぶべきという意向により、上場維持スキームと非上場化スキームの両方の提案を求める再1次プロセスを実施したようです
・その結果、すべての入札者から非上場化スキームの方が上場維持スキームより提案価格が高かったこともあり、2次プロセスでは非上場化スキームを前提に提案を募ったとのことです
・他方で、その場合当初の懸念の対象会社財務負担の問題は解決されないため、2次プロセスでは買付価格のみならず各ファンドがどれくらい有利な条件(借入負担、返済計画、コベナンツ条件など)の資金調達を行えるかが評価基準になっていたように伺えます(実際にプレスリリースではKKRを選んだ要因について、公開買付価格が最も高額であったことと並んで、資金調達力と資金調達の前提条件が他の候補者より有利であったことが挙げられています)
・またファンド案件においては珍しく、対象会社資産を担保とし、買収SPCと対象会社を合併させることで借入を対象会社に着せ替えるLBOローンを活用しないことがプレスリリースで明記されています(買収SPCが通常のコーポレート・ローンの形で借入れ、対象会社とSPCの合併も実施しない方針)。この場合買収SPCの返済原資をどうする形で銀行側と交渉したのか(毎年買収SPCに業績に関わらず一定程度の配当を実施してそれを原資にする形?)、担保はどう設定したのか(買収SPCには対象会社株式しか資産がないので株式にするしかない?)が気になります

②日立製作所の上場子会社の選択と集中
・2009年3月期に日本の製造業としては過去最大の連結赤字7,873億円を計上して以降、日立製作所は業績の良い事業が業績の悪い事業をカバーする構造を改革するため、事業の選択と集中を積極的に推し進めてきました
・日立製作所はIoT技術の基盤Lumadaを成長の柱に据え、Lumadaとの事業場の親和性に応じて上場子会社を完全子会社化、大半の持分の売却、完全売却しており、日立物流が最後の上場子会社となっていました

日本経済新聞より
日立製作所の上場子会社再編

・本件については日立製作所が今後事業の軸していく予定でありIoT技術と物流業界におけるDXソリューションの融合の観点から、今後も一定程度の協業を続けていくとしており、そのためにTOB終了後にKKRが設立し、日立物流の100%株主となる買収SPCに出資し、10%資本参加する予定です
・現状こうした選択と集中の取り組みは、市場からは好感を持たれており、日立製作所の過去10年の株価パフォーマンスは他の総合電機メーカー(もう古い区分か?)をアウトパフォームしています

筆者作成
総合電機メーカーの過去10年間の相対株価比較

 4. 今月のその他の案件

・近鉄GHDによる近鉄エクスプレスの完全子会社化
公表日:2022年5月13日
案件規模:1,689億円
対象会社の概要:物流事業
案件の特徴:上場子会社の完全子会社化

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