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不忌溜まり20200328

検疫を意味する英単語、quarantineとは、そもそもペスト予防のためにベネチアでオリエントから入港する船を40日間係留したことに由来する。という話は今日までに飽きるほど目にしてきただろうし、今後も目にし続けると思う。

実際のところ私は40日近く出社をしておらず、quarantineのちょっとした実践者という立ち位置にいる。とはいえ出社していないというだけで、飲み会には行っていたし、散歩にも、銭湯にも、イエローサブマリンにも、以前下宿していた原宿の一軒家にも行っていたのだけれど。これまでの40日間は、思いがけず得た人生の夏休みのような心持ちでわりかしのびのび好き勝手やっていた。これからについては、正直、もうちょっとシリアスに自宅に引きこもる必要があるのだろうなと見込んでいる。原宿の家には銀河英雄伝説のOVAを見るために泊まり込んでいた。世の中的に外出の自粛要請に対する真剣味が深まっていく前に、本伝の最終話まで見ることができたのは、喜ばしいことだと思う。

さて、家に引きこもるとなると、退屈をどうにかしてやらないといけない。本来するべき食い扶持に対する心配については、在宅勤務制度と所属する業界の恩恵もあり、まだ近々の不安の種にはなっていない。何にせよ10万円の現金支給があることを切に祈っている。

幸い私は一人暮らしではない。赤羽の家には私の他に二人の男が住んでいる。人との会話には不自由しない身だ。一昨日は酒を飲みながら近隣の夜桜を見て周り、今日は自家製ピクルスや鶏ハムを肴に高松宮記念を眺めながら酒を飲んだり男たちの挽歌Ⅱを見るなりしていた。愉快なことにはこと欠かない。

食い扶持と善良な隣人を得たなら、あとは目に優しいものと、何か創造的なことに打ち込んでいると思わせてくれる新しい刺激があれば、暮らしは何となく余裕のある雰囲気になるだろう。そういうわけで、自室の机は花で飾ることにした。それとアコースティックギターを買った。綺麗なものを眺めながらギターを練習し、ある程度望むように指を動かせるようになったなら、同居人たちと歌を作ってすごそうと思う。



最近読んだ本

1969年のノースカロライナ州の湿地で、地元で一番イケている男の死体が発見されるところから物語は始まる。疑惑の目を向けられたのは、村人から〝湿地の少女〟と呼ばれ、蔑まれていた、カイアという女に向けられるようになる。辛い境遇と豊かな湿地に囲まれた少女の成長と、現在(1969年)の事件捜査を交互に描き、事件は思わぬ結末を迎える。的な本。湿地の描写がマジで良い。 

在宅勤務をするにあたって、出勤代わりに散歩を挟むことにしている。家の近所にわりかしいい感じの公園があり、その一部が湿地のような景観になっている。反穀物の人類史では古代中東の湿地の豊かさが語られていたな。何だか夢のある眺めだな。俺はひょっとしたら湿地が好きなのかもしれない。そういうフワッとした連想ゲームと動機でもって買った本。たぶんディズマル湿地を舞台にしている。大昔に読んだ何かの小説では、逃亡奴隷が湿地に逃げ込んでいた。この本でもまさに湿地は虐げられたもの、つまはじきにされたもの、普通の社会ではやっていけないもの達が身を潜める場所として機能している。作者は動物行動学の博士号を持っているバキバキの動物学者で、その力は繊細な湿地の描写に遺憾無く発揮されている。この本を読んだ後私のYouTubeの閲覧履歴は湿地の動画まみれになった。俺は猛烈に湿地に行きたい。アブとかブヨとかカが一匹もいない湿地に。

1919年4月のカルカッタを舞台にした刑事小説。ヒストリカル・ダガー賞。第一次世界大戦から生きて帰ったけど故郷に戻ってみたら最愛の奥さんがスペインかぜで死んでいた元スコットランドヤードの敏腕警部と、ケンブリッジ大法学部卒でインド帝国警察に所属しているエリートインド人新米部長刑事が政府高官の惨殺事件に挑む!といったことが帯に書かれていたため、萌え萌えやんけと思わず手にとって買った。あんまバディものではない。疲れきっているけどいっちょ前に性欲はある元スコットランドヤードの敏腕刑事が1919年のカルカッタという混沌の中で人生とか社会のことを考えているうちに事件が動き、解決した。思ってたんと違うのが来たな、というのが正味なところではあるものの、出てくる要素は面白かったからまあいいか、という気持ち。『大英帝国は大食らい』を読んだ上でこの本にあたれたのは、良い流れだったと思う。


これはマジで楽しい本。2019年読んでて楽しかった本ランキング1位です。読め

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