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赤ちゃん童具創作秘話①

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さくらんぼ

 <さくらんぼ>をデザインしたのはもう45年以上前のことです。最初は今よりもふたまわりぐらい大きなものでした。当時まだ子どものいなかった私は、市販されているものを参考に大きさを決めていたのですが、我が子が生まれて与えてみると、すぐに手から離してあまり遊びませんでした。

 ちょうどその頃、ある学会で乳幼児の発達に関するシンポジウムが開かれて、研究者の一人から「木のガラガラは乳児が持って遊ぶには重すぎて不向きである」という意見が出されました。

 それを聞いた私は、我が子が遊ばぬ理由が重さにあるのかもしれないと気づいて、早速ひとまわり小さくしたもの、ふたまわり小さくしたものを試作しました。その学者は現実のデータによって木のガラガラに対して否定的な結論を導きだしましたが、否定的な結論からも新たな答えを見つけることは可能でした。

 なんと我が子は小さくした<さくらんぼ>で「キャッ、キャッ」と笑い声をあげて遊び続けました。私はその姿を見て、乳児にとって、重さの設定は考慮しなければいけない大切な点であることを思い知らされました。その時を境に、乳児用の童具をすべて縮小して、軽量化しました。

 この製品でとくに心がけたことは、まだ自由な移動ができない乳児のために手を離した時に転がらず、落とした場所にとどまるようにすることと、どの方向に振ってもかならず音がでるようにすることでした。この点は3つの球を紐で取りつけることによって解決できましたが、柄に球をつけて握りやすくする配慮もしました。

 まだ意識が不確かな段階にある乳児が<手を振ることによって音がでる>ことによる<存在・所有・生成>の因果関係に気づいた時の喜びが、あの「キャッ、キャッ」であることを知ったのはフレーベルの著作との「出会い」があってからのことです。

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ちゃこ

 円柱の童具づくりにのめり込んだ時期がありました。丸い棒は握るとなにか力を得たような気持ちになり、撫でていると不思議に気分が落ち着きます。民俗学者の柳田國男は、神が降りて宿ると考えられていた樹木のためか、子どもは棒があると手にして自分が力ある者に変身するような心持ちになることを述べています。

 ある日、円柱の棒を握りしめて、なにげなく手を動かしていると、手が円柱の上下に振られていることに気づきました。その時、この動作によって二拍子の音が生まれる乳児の童具を思いつきました。二拍子は心臓の鼓動です。最も単純なリズムでもあります。

 しかし、棒を上下に振ると音はでますが、左右に振っても音はでません。この因果関係を理解するのは、おすわりや這いはいができるようになってからです。そこで円柱の転がる機能を生かして、乳児が這って取りに行く活動が生まれることも考慮に入れました。

 おしゃぶり、歯固め、ガラガラとして遊んだ後は、二拍子のリズム楽器にもなります。

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たまゆら

 乳児に<歯固め>をつくってあげたいと思い立った時に、口にくわえる形として円盤が思い浮かびましたが、それだけでは面白くありません。最初は中央にも円盤あるいは球を取りつけ、これをクルクル回転させることを考えていたのですが、半球にすれば重さによってかならず切断面が上になり、そこに色をつければ持った時にいつも色が見えるようになることを思いつきました。

 このアイデアが気に入って早速製品化したのですが、ある時、5歳の子がこれをコマにして遊んでいる姿に出会いました。すると、なんと半球が逆転して切断面が床面に接すると同時に回転が止まったのです。その時ひらめいたのが赤色の面にかすかな曲面をつくれば、ひっくり返っても回り続け、逆さゴマになることでした。

 子どもの活動からヒントを得て改良した製品の一つです。それによって歯固めとしての役割が用済みになっても、コマとしていつまでも遊べるようになりました。

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ふえ

 一語文がではじめる前に笛で遊びはじめるのは唇や舌の機能を高めるためだと思われていますが、最初は口に付けてもなかなか吹くことができず、吸ってばかりでイライラが続きます。乳首を吸って生きてきたわけですから、当然のことです。

 そこで、吸っても吹いても音がでる<ふえ>をつくりました。両極にある二つの穴で、吸ったり吹いたりすることによって4色の音色がでるようにしました。正解だったのでしょう。いまやヨーロッパの玩具メーカーでも同様の笛がつくられるようになりました。形体は球の<変形>で、球と円錐の合体した形でもあります。回転遊びも楽しめる童具です。


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