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タイムラインの延長でしかなくなった都市空間から脱出するための方法を考えたい

『モノノメ』創刊号の特集のテーマは「都市」を選びました。なぜ「都市」だったのか。最初に断っておくのですけれど僕はグローバリゼーション下の国境を超えた都市間競争に耐え得る機能を東京に備えようといった類のことにはそれほど興味はなく、そしてそういった資本主義の暴力に地域のコミュニティを再興して対抗していこうといったハートフルな物語にも興味がありません。

では、なぜ「都市」だったのか。どのように「都市」にアプローチしたのか。僕の考える「都市」の問題は僕たちの生活空間の中にどう今日の情報環境のもたらす相互評価のネットワークの「外部」を作り出すかということです。今日の情報環境下においては、誰もが受信者であると同時に発信者です。誰もが自分の発信に多くの反響を得て、自分への評価を獲得しようとしている。そのとき、人間はこの発信によって他のプレイヤーからどう評価されるかを基準に発信の内容を決定する。あたらしく問いを立てることではなく既に多くの人にシェアされている問題に言及するようになるし、問題を解決する方法よりもタイムラインの潮目を読んでそれに乗る/逆らうかして、どう発信すれば「受けるか」を基準に投稿するようになる。こうして発信の内容から多様性が失われていく。この相互評価のネットワークに僕たちの生活する実空間、つまり「都市」が飲み込まれたのがこの10年だったと言えます。

「動員の革命」といった言葉もありましたが、「アラブの春」や雨傘運動といった政治運動からアイドルの握手会や夏の音楽フェスといったサブカルチャーまで、2010年代はSNSを通じて人間が実空間に「動員」されていった時代だったと総括できます。「インスタ映え」という言葉の定着はその象徴です。そして、僕は思います。こうしてハッシュタグのつけられた現場に足を運んだとき、そこで人間はなにかに出会えるのだろうかと。

観光客たちは、史跡名勝の前でウィキペディアを引いて絵葉書と同じアングルでセルフィーを撮り、それをハッシュタグをつけて投稿する。イノベイティブでソーシャルグッドなワークショップに参加した人は終了後に軽く挨拶した講師をタグ付けして、意識の高い感想をシェアする。このとき人間はハッシュタグに記述された目的のものしか目に入らなくなる。都市の中に身体を置いても、偶然目に入り手で触れるものに注意が向かなくなる。要するに、この10年で都市空間はハッシュタグによってサイバースペースの延長でしかなくなってしまったわけです。この人間同士の閉じた相互評価のネットワークからどう離脱するかを考えたのが、この創刊号での「都市」特集です。

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この都市特集では都市の動植物とか商品の流通だとか、地形と建築物だとか、そういった人間間のネットワーク「ではない」視点から徹底して都市を考えています。それは要するに、この閉じた相互評価のネットワークの「外部」の探求でもあり、そして実空間のデザイン「だからこそ」可能な価値の創造についてもう一度考えることです。かなり変わった角度からの記事が並ぶので、面食らう人もいるかもしれません。しかし、こうすればもっと都市空間は住みやすく、多様に、そして刺激的になるというアイデアに溢れた誌面になっていると思います。「……ではない」だけではなく常に「……である」という言葉で語ること、批判だけではなく提案を必ず行うこと。それが、僕のやり方です。きっと、読むと(コロナ禍を克服して)街に出たくなる。そんな特集になっていると思います。(そしてまだ校了していないのですが……)ぜひ、読んでください。

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僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。