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「飲まない東京」やってます。

僕の読者コミュニティ(PLANETSCLUB)で、この春から「飲まない東京」というプロジェクトを立ち上げた。
 僕はこの「飲まない東京」というキーワードを何年か前から使っているのだけれど、小池百合子東京都知事の(僕にはまったく賛成できない)政策、というか、ポピュリズム的な支持率対策によって別の意味を帯びてしまい、ちょっと戸惑っている。

 当然のことだけれど、僕たちのプロジェクトは別に飲料としてのアルコールやそれを提供する店をまったく敵視していない。僕たちの考える「飲まない東京」は、都市をもっと多様に、深く味わうためのプロジェクトだ。大人の「あそび」の多くが「飲みに行く」ことだ。僕はずっと、そのことが疑問だった。たとえば出版業界は「飲み会」が多い古い業界の一つで、特に批評やジャーナリズムの世界ではいまだに業界のボスが取り巻きを連れて飲み会を開き、取り巻きはボスの機嫌を取るために積極的にボスの敵の悪口を言う、といった欠席裁判文化が堂々と生き残っていたりする。これはちょっと極端にダメな例なのだけれど、僕は酔っ払うことで気持ちを上げて、無防備な状態を共有することで仲間とそうじゃない人たちを確認するこの種のコミュニケーションは不毛な上に陰湿な人間関係しか生まないと思っている。そして、大人のあそび=飲み会になってしまうのは、そうやって身の回りに人間関係を確認して安心することくらいしか、余暇にすることのない貧しさがこの社会を覆っているからではないかと思っているのだ。

 ちょっと理屈っぽいことを書いてしまったが何のことはない。このプロジェクトは要するに「飲む」という選択肢を一度横に置いておくことで、大人の「あそび」は、街の楽しみ方はぐっと多様なものに開かれるんじゃないか、という問題提起だ。実際に東京は(コロナ・ショックの前は)夜中まで開いている施設がたくさんあるのが魅力の一つだったのだけれど、そのほとんどは「飲酒」が前提になっていて、僕のような「飲まない」人間にはかなり居づらい場所だ。だからこのプロジェクトでは「お酒を前提にしない」けれど「朝まで過ごせる」施設を立ち上げることをゴールの一つにしている。

 僕が創りたいのは「孤独であっても寂しくない」場所だ。特定の共同体に所属して、メンバー間で承認を交換しなくてもいい、ただ「そこにいるだけ」で具体的な交流はないのだけれど、決して侮られず、しっかり尊重される。あなたは当然ここに居ていい、とポジティブに放って置かれる。そんな場所が都内のどこかにあって、そこに飲み会でウェイウェイやるような(そしてSNSでいちゃつくような)コミュニケーションは苦手だけれど、周りに誰かいる空間に足を運んで自分にも居場所があるのだと確認したい、そんな欲望に応えられればと思っている。
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ついでに言うとそこに、たくさんいい本があってそれを自由に手に取れたら言うことがない。と、いうか個人的には人間同士ではなくて本を通してモノゴトに触れられる場所にしたい。そう考えている。人間同士で承認を交換するコミュニケーションなら、SNSで十分で、僕はもうそっちには心底うんざりしている。なので、僕は供給過剰なものを更に新しく創るよりも、今足りないものを補うのものを創りたいと思っている。

 他にも、僕のようなお酒が苦手な人が料理と一緒に楽しむことのできる飲料の開発もやってみたい(烏龍茶、炭酸水、ノンアルコールビールの三択しかないので、もっと選択肢が欲しい!)し、「飲み」よりも手軽で、そして面白い「あそび」を提案していきたいなと思っている。
 前者については、あたらしい「食べながら飲むもの」が生まれることがきっかけにあたらしい食文化そのものを生む可能性すらあるはずだ。たとえば僕のような「飲まない」人間にはコース料理が苦手だという人は少なくない。既存のレストランのコース料理の多くが、「お酒を飲みながら食べる」ことを前提に設計されてくる。大抵の場合、その料理の味付けは濃すぎるし、そのサーブされるリズムは「飲まない」人々によってはのんびりしすぎている。ワインの好きな人が、ワインに合う料理を好むように、もしこれから生まれる「料理を食べながら飲む」ものの力が強ければ、料理の側が変化することも起こり得るはずだ。
 後者については、なんというか、この国の社会の一番ダメなところーー人間関係の力が強すぎるーーにボディ・ブローのようにダメージを与えて、ほぐしていく効果が期待できると思う。周囲の人に承認されること以外の満たされ方を、世界を楽しむあそび方を知らない大人がちょっと多すぎるように僕は思う。

 もちろん、失敗するかもしれない。しかし、誰かに対してどうせあいつ等はダメだと笑っていても、その場でちょっと気持ちよくなるだけで、何も変わらない。なので、とりあえずやってみるし、そうすることで見えてくるものもたくさんあるはずだ(今、制作中の雑誌「(紙の)遅いインターネット(仮)」の創刊号でも特集する予定)。

 と、いうことで「飲まない東京」やっています。お酒が好きな人も、嫌いな人もよろしくお願いします。


僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。