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オープンソースの倫理と資本主義の精神(前編) | 落合陽一

今朝のメルマガは、落合陽一さんの『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』の第4回の前編をお届けします。「資本主義の精神」に駆動されているように見える現代のインターネット社会ですが、その根底ではまったく別の原理による思想が、着実にその影響力を強めています。マルクスの『資本論』とウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を援用しながら、現代を規定する新しい上部・下部構造について論じます。
◎構成:長谷川リョー

落合陽一 「デジタルネイチャーと幸福な全体主義」
第4回 オープンソースの倫理と資本主義の精神(前編)

マルクスとウェーバーからデジタルネイチャーの社会構造を考える

「デジタルネイチャーと幸福な全体主義」も4回目となります。今回はインターネット上における「資本主義の精神」と、オープンソースのコミュニティを成立させている倫理観について考えてみます。この議論を進めていく上で避けられないのが、カール・マルクスとマックス・ウェーバーです。
我々は、民主主義の社会制度と、資本主義の経済圏の中で生きています。1989年の東西冷戦の集結によって、共産主義は力を失い、資本主義が世界のスタンダードになりました。現在のインターネットのシステムであるWWW(World Wide Web)が動き始めたのは、その翌々年の1991年のことです。
近年登場した、共産主義とよく似た概念としてはベーシックインカムやオープンソースなどがありますが、たとえば「Kickstarter」をはじめとするクラウドファンディングサービスを考えてみましょう。これは共産主義的であると同時に、極めて資本主義的でもあります。クラウドファンディングには二つの側面があります。一つはソーシャル的なアプローチで社会問題の解決を目指す共産主義的な側面。もう一つは実際にプロダクトをリリースしていく資本主義的な側面です。こういったインターネットの登場以降に現れたカルチャーを、新しい経済活動として捉え直し、その根底に流れている思想を読み解いていくのが今回のテーマです。

カール・マルクスは『資本論』で、封建領主と農奴の関係、生産様式や搾取、余剰価値や過剰生産などの分析によって、社会の発展過程と資本主義経済の成り立ちを読み解きました。唯物史観と呼ばれる彼の思想においては、二項対立が止揚されることで社会が新しい段階へと進む弁証法的展開が、決定論的に起こっていくと説かれます。そして、政治的な上部構造は、経済的な下部構造によって規定されると主張しました。
これに対し、マックス・ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、ヨーロッパでの最初の資本主義の形成の過程で、プロテスタンティズムが果たした役割について論じています。ウェーバーの議論で重要なのは、マルクスのいう下部構造としての経済(資本主義)の始原において、宗教的倫理が重要な役目を果たしていたという指摘、つまり「経済の根底には文化がある」という意味での唯物論の否定にあります。この論文では、ルターからカルヴァンへの流れを辿りながら、労働で得られた対価を蓄積することなく、資本として新事業に再投下することを善とするプロテスタンティズムの禁欲的な行動様式が、資本主義の誕生に繋がったことが説明されています。
ただしこの論においてウェーバーは、マルクスとは違って運命論的な決定史観を持っておらず、プロテスタンティズムも資本主義を成り立たせる複雑な要因の一つとしてみなしており、プロテスタンティズムだけが決定的な要因であったとは考えていなかったようです。僕も、現代の資本主義社会には、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に定式されるわけではないと考えていますが、そこについて考えて行くことにデジタル文化としての価値を感じています。
これから我々の資本主義はどのような方向に向かうのか。マルクスの決定論的な唯物史観で考えていく方法と、文化論的で、そこに多様性や多数のオルタナティヴを認めるウェーバーの方法の、二つの捉え方があり得ると考えられます。いずれにせよ、どのようなバックグラウンドから今の世界を見ていくのかが、そこでは重要になってくると思います。

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宇野常寛が編集長をつとめる〈PLANETS〉の公式noteです。政治からサブカルチャーまで、ざまざまな分野のスペシャリストが集まっています。独自の角度と既存メディアにはできない深度で、読むと世界の見え方が変わる記事を月に20本以上の記事を配信しています。