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世界文学のアーキテクチャ

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グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の…
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2024年5月の記事一覧

第十三章 人間――悪・可塑性・人種|福嶋亮大(後編)

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 6、可塑性を利用する芸術家――オーウェルの『一九八四年』 架空の全体主義国家オセアニアを舞台とする『一九八四年』では、戦時下の党を率いるビッグ・ブラザーが、テレスクリーンを用いて社会の全体をくまなく監視している。真理省記録局に勤務するウィンストン・スミスは、過去の文書の改竄に従事しているが、やがて魅力的な女性ジュリアと出会ったことをきっかけに党の禁を破る。彼女との性的関係だけが、この息苦しい社会での唯一の避難所となるのだ。しかし、それは本

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第十三章 人間――悪・可塑性・人種|福嶋亮大(前編)

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 1、悪の発明――ラス・カサス的問題 文学にとって世界とは何か。私は歴史的な見地から、その問いを初期グローバリゼーションと紐づけた。世界とはたんに空間的な広さを指す概念ではなく、異質なものとの接近遭遇がたえず起こる場である。異なる歴史、異なる習俗、異なる人間との関係の集合体としての〈世界〉――その成立に欠かせなかったのが、アメリカ大陸へのヨーロッパ人の進出であり、「万物の商品化」を加速させる資本主義のプログラムであった。「世界文学とは新世界

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