第十三章 人間――悪・可塑性・人種|福嶋亮大(後編)
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
6、可塑性を利用する芸術家――オーウェルの『一九八四年』
架空の全体主義国家オセアニアを舞台とする『一九八四年』では、戦時下の党を率いるビッグ・ブラザーが、テレスクリーンを用いて社会の全体をくまなく監視している。真理省記録局に勤務するウィンストン・スミスは、過去の文書の改竄に従事しているが、やがて魅力的な女性ジュリアと出会ったことをきっかけに党の禁を破る。彼女との性的関係だけが、この息苦しい社会での唯一の避難所となるのだ。しかし、それは本