第八章 超‐感覚的なものの浮上――モダニズムの核心(前編)|福嶋亮大
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ
1、五感に根ざしたリアリズム
小説の台頭は、それ自体が世界認識のパラダイムの変化と結びついている。私はここまで、それを初期グローバリゼーションと植民地の拡大という政治的な観点から説明してきたが、そこに心理的な次元での変革が関わっていたことも見逃せない。例えば、英文学者のイアン・ワットは名高い研究書『小説の勃興』のなかで、デカルトやジョン・ロックの哲学と、それに続くデフォーやリチャードソン、フィールディングら一八世紀イギリス小説のリアリズ