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世界文学のアーキテクチャ

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グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の…
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2023年11月の記事一覧

第七章 海の象形文字――シェイクスピアからメルヴィルへ(後編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 7、愚かさを拡大する新世界――デフォーの『モル・フランダーズ』  シェイクスピア劇においては、しばしば二つの異質の世界が交差する。それを象徴するのが、地中海世界の中心であるヴェニスにアウトサイダーとしてやってくるアフリカの黒人オセローであり、ミラノから退出して新世界の支配者となったプロスペローである。そのなかで、ハムレットは旧世界の飽和を感じさせる人間である。  T・S・エリオットが、ハムレットの悩みは「客観的相関物」を欠くと批判したこと

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第七章 海の象形文字――シェイクスピアからメルヴィルへ(前編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 1、世界文学としてのアメリカ独立宣言 アメリカの生み出した最初の、そして最も強い衝撃力を備えた≪世界文学≫は、一七七六年に発せられたアメリカ独立宣言(United States Declaration of Independence)である。政治学者のデイヴィッド・アーミテイジが指摘するように、この宣言は「現在まで存続し続けている政治的著述の一ジャンル」の誕生を告げた[1]。そのユニークさは、主権国家としての対外的な独立のみならず、諸個人の

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