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解法網羅系参考書について

今回は青チャートをメインツールとしている人には耳の痛い話かもしれない。

そもそも解法網羅系とは

解法網羅系とは,文字通り解法が網羅されている本のこと。ここで言う「解法」とは根本的な考え方や思想のことであって,間違っても「ありうるすべての問題」が全部ここにあるという意味ではない。実際入試問題を作る側はなんとかしてこの類の参考書を丸暗記してきた受験生をあぶり出して落とそうと努力するものだ。

「数学は暗記だ」という本

がある。調べてみると初版からもう20年以上経過しているようで,かなりのロングセラーということになる。

この本は当初かなりの話題を呼び,数学教育に携わる人たちを肯定派と否定派に見事に二分した。書いたのは和田秀樹氏という,受験指導もする精神科のお医者さんだそうで,センセーショナルなタイトルも含めてすべて(読者の精神を操る)和田氏の作戦通りだったのだろう。

一言で言うと,かなり危険な本だ。この本で和田氏の言っていることはかなり理にかなっている部分が多いし,私自身賛同できることも多々あるのだが,入り口の書名が過激すぎてこのタイトルだけで本を評価してしまった人が多いのではないだろうか。結果的に表紙が読者を拒否しており,そのことこそがこの本の最大の問題点である。

苦手な人は救いを求める

「数学は暗記だ」は,数学が苦手な学習者には大いなる福音になったに違いない。考えても考えてもどうやってもわからないと頭を抱えているところに「覚えればいい,考える必要などないんだよ(悪魔の声)」というのはまさに天からの恵みに聞こえただろう。

しかしこの本をちゃんと読むと,結局「理解した上での暗記」を推奨しているのであって,考える力はきちんと読者に要求していることがわかる。本を読んで中身を理解すれば苦手な人でも現実を知ることになるが,タイトルだけを鵜呑みにしてひたすら単純な暗記に励んだ挙げ句無駄な時間だけを浪費してしまう最悪な結果になったケースも少なくないだろう。

これは苦手な人が悪いのではなく,苦手な人にこそ幻想を持たせないような工夫をしなかった著者,あるいはこの書名を提案した担当者が悪いというべきだ。苦手な人は救いを求めるものだから。

受かる青チャートの使い方

これは「数学は暗記だ」のサブタイトルである。青チャートはもはや解法網羅系のデファクトスタンダードというべき有名な参考書になったが,最初に書いたように「これさえ全部覚えれば数学は敵なし」なのではないということを銘記すべきだろう。「解法」を網羅しているのであって「問題」を網羅しているのではない。したがって,これを丸暗記しようという気は起こさないこと。ひたすら「根本思想」を理解してインプットしていきたい。

そして,欲を言うなら本は別の網羅系参考書にした方がなおよい。青チャートの演習問題の解説はかなりいい加減だからだ。おそらくライター間の相互チェックなど何もしていないのだと思う(していてこれならもっとひどい)。それでも学校単位の大口注文が毎年のように舞い込むから売れてしまい,ますます改訂のコストをかけなくなっているのではなかろうか。

比較的良いのはフォーカスシリーズ。ゼータかゴールドかは書店で決めればよい。精講シリーズもよいが解説が少し舌足らずな場面があるのは気になる。しかし青チャートよりはずっと良質。

しかし大切なことはどんな本を買ってもそこから「数学の思想」を学び取ることだ。少し砕いて言えば「その分野はどういう分野なのか?」「その公式はなんのために使うものか?」「その問題のどこに目をつければその解法になるのか?」といったことをきっちり理解しながら進めることだ。

ここまで読んでこう思った人がいるのではなかろうか。

全問題にそれをやるのは時間がかかりまくるのでは?

よいことに気がついた。その通り。青チャートもフォーカスも,網羅系の名の通り,量は膨大。

網羅系は辞書代わり

結果を言えば,私は網羅系の参考書をメインツールにして勉強すること自体にそもそも賛同しない。あまりにも量が多すぎて単なる作業になってしまい,そんな勉強は面白くないし,続かないだろうと思うからだ。

演習系の参考書,それもなるべく薄いものを使い,1問1問をじっくり時間をかけて理解し,理解が甘い部分を網羅系参考書で補強するスタイルを勧めている。演習系は何がいいか?本屋で片っ端から見てみて,半分くらい手が出そうなものを選ぼう。

参考書ルート」という言葉が生み出されてからしばらく経つが,あんなものは一切気にしないこと。頼るべきは自分の目を通した難易度チェックのみだ。「参考書ルートに乗っかりさえすれば受かる」という思い違いも非常に多く,これも苦手な人が救いを求めた結果としての幻想。つまり「数学は暗記だ」と同じ罠に嵌っているし,自分で品定めする能力が奪い去られているということでもある。

まとめ

網羅系参考書は演習書とセットで辞書代わりに使うべし。演習で理解が不十分な部分を網羅系で補いつつ進めよう。

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