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地下鉄サリン事件から23年。<彼ら>と<わたし>の違いのなさ  #探究ノート

(その日ぐるぐる考えていたことを、パっと書き出す。それがこの「 #探究ノート 」になります。探究のリズムと、回転数を上げたくて書いているので、未完成です、すみません!)

今日、死刑が執行されたらしい。
結局この約20年間ほぼ証言することなく終わったらしい。自分が生まれた翌年の1995年に起きたこの事件は、自分にとっては初めて社会について考え始めた象徴的な存在であり、いろんな考えが巡ってくる。

思春期のころ、こじらせて村上春樹にハマったきっかけが、サリン事件の被害者に対するロングインタビュー『アンダーグラウンド』と、当時オウム真理教の信者だった人に対するインタビュー『約束された場所で』だ。色んな文献を読み漁りながら一番びっくりしたのは、異常とされる事件だけど、同時に自分の日々の悩みとかと、全く無関係の話じゃなかったことだった。

この事件は、全く理解できない異常な人たちが起こした珍事件ではなく、経済成長が停滞して大きな物語が終焉することで、将来に対して強い不安を抱いていた普通の若者たちによる事件、だと思う。
たとえば、立花隆の『二十歳のころ』というインタビュー集には、たしか東大出身エリートの男の子達が、学生だった当時実際修行(?)やってみた話が書かれていた。オウムには幽体離脱とかなんか色んな修行があるらしく、誰でも極限までやると身体感覚のやばい変容とかを感じられるらしい。その今まで感じたことのない未知の感覚は、身体性があるからこそ、生きている強い実感になったとか、その変容中のやばい感覚になったとき、的確に手順を導かれると、恐怖心がとれて、確実な正解を導かれることに強い安心感を抱いたとか書いてあった。

どんどん見えなくなる「正解」、どんどん崩れていく成功のレール。
この不安は、どうしたらいいのか。不安から逃れたい。オウムはそこに確固たる答えをくれる存在だったみたいだ。
ふと、自分の周りを見渡せば、そんな不安に溢れてる気がする。自分の中にも確実にある。特異化された加害者や、信者だった<彼ら>と、自分たちには、明確な境界線なんてないのだと思った。


このふらっと見つけたブログの方が、こんな文章を書いていた。

”<彼ら>と<我々>の間にある壁はものすごく薄くて、脆いものなのだと思います。”
”じゃあ何が問題だったのかというと、私は「一人っきりでいても淋しくない場所」に、その人が出会えなかったのが原因なんじゃないかと、最近は考えるようになりました。”

これはすごくわかる気がする。この方が言う「一人っきりでいても淋しくない場所」とは、言い換えると、周囲がなんと言おうと、環境がどうであろうと、関係ないその人だけの領域なんだと思う。ほっておかれても、探求してしまうこと。自分なりに言い換えれば、内発的動機とか好奇心、あるいは創造力みたいなものなんだろうと思う。

・・・

こう考えていくと、「不安」との向き合い方は、本当に重要だなあと思う。不安は「一人っきりでいても淋しくない場所」の真逆の場所にあると思うからだ。
それに「不安」との向き合い方は、20年前から全然上手くなっていない気がする。むしろ今後増殖するような気がする。オウムの話を読んでいると、自分が違和感を感じるのは、大きな物語が終焉したことに慣れているから、あんまりユートピア的な<あちら側>に行きたいとか全然ないし、そんなもの無理って思っている部分はあるけど、それでも大きな物語が終焉した先に、積極的にこういう時代がくるという期待感はないし、ある意味気楽に諦めているだけで、課題が解決したわけでもない。情報洪水のなかで、とかく自分で意思決定することには億劫になっている感じもするし、分かりやすいいわゆる貧困とか格差から、課題は内省的で複雑になっていると思う。(高校生のころに憧れていた村上春樹は、いつも社会の課題を整理して、彼なりに読んでいく所をリスペクトしてたけど、最近の小説はどれもイマイチだし、複雑すぎて追いつけなくなってる気がしてて寂しい。)
つまり言いたかったのは、地下鉄サリン事件が見せた「不安」という社会課題は解決していないどころか、のべーっとした時代のなかで考えたいテーマだということだ。


あと、以下は自分の仕事観として思ったこと。
ついつい読んじゃう長文wikipediaみたいな事件も、一見分かり合えない出来事さえ、想像はちゃんとしていきたいと思ったのは、この事件が教えてくれたことだと思う。特異な事件とカギカッコで括ることは、その事件が自分とは無関係であるという境界線を引く作業だ。その人、その事件だけの問題だったのだと責任をわたすのではなくて、背後にある社会情勢と人の心を想像し、文脈をひいて、その事件が引き起こされた社会を読み解きたいな〜。できればそんなこと起きてほしくないから!

*photo:デンマーク行ったときのやつ

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