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北京・深圳ハードウェア企業見学会_その2 金太郎飴のようなスタートアップ支援、オシャレカフェの必要性とは

 2017年8月8日~16日に北京・深圳の企業見学会に行った感想文です。見学会全体の旅程などはこちらをご確認ください
また、こちらに他の参加者の有志の方の感想がまとまっていますので是非ご覧ください。

 1日目は主に中関村のスタートアップ支援の仕組みとその支援先を、2日目は清華大学(Tsinghua University)を中心としたスタートアップ支援の大掛かりな仕組みとその支援先を見て来ました。
詳しい訪問先は、高須さんの記事に詳しいのでそちらを参照ください。

 この2日間の見学で感じたことは2つ。1つ目は、正しいと思われる手法を学び、そこに、とびきり基礎学力が優秀な人と大量のお金が投下されているのが中関村と清華大学のスタートアップ支援のスタイルで、それはきっと効果を上げるだろうということ。
 2つ目は中関村と清華大学のハードウェアスタートアップは、とても真っ当だということ。これは、自分がインターネットコンテンツ、広告業界に長くいるから余計に感じたことかもしれない(自分の業界が全て真っ当ではないとは言っていないですよ!)。


1-1.徹底的に真似するスタイル

この真似するスタイルを強く感じたのが、1日目の午後に行った、中関村の創業ストリート innoway(中関村創業大街) という、以前は大きな書店街だったところを整地して、SOHOとした通りの見学だ。
 ここでとにかく印象的だったのが、左右4軒ずつくらい計8軒くらい、SOHOがあり、それぞれIntelや中国系の銀行などがスポンサードしているようなのだが、見事なまでに全てが同じスタイル。1階がオシャレなカフェ、2階が月1000元程度でデスクを借りることが出来るコワーキングスペースという作り。まるでコワーキングスペースとはこうでなくてはいけないと決まっているかのようだった(もしかしたら決まっているのかも)。カフェはカフェでも1件くらい中華風のお茶が出来るところだったりしてもいいだろうに全部スタバ風。見本となるものは徹底して真似るぞという心意気か。

1-2.合理的な仕組みで、超優秀な人にお金を投下する清華大学ファミリー


2日目は清華大学(Tsinghua University)を訪れた。でかい!

Tus holdingsは世界で最大のScience Park (TusPark)を運営する会社で、このTusParkには、770,000平方メートルの中に, 1500以上の企業があり、中国の技術やR&Dを活用する企業にとっては無くてはならないものになっており、イノベーションを起こそうとするスタートアップの支援も手厚く行っている。今回訪問した、启迪之星(Tus Star)はTus holdings傘下のインキュベーションセンターの1つであり、これまで5000社以上の企業のサポートをして、うち、27社が上場。直接の出資は300社以上で、20億元以上の投資実績がある。Tus Starの支援の仕組みは制度化されているので写真を使って解説してみる。

とくに感心したのは初期の1.2.までは清華大学に属していれば大体支援を受けれること、次に、見どころのあるスタートアップにはお金だけでなく、清華大学ネットワークを通じて政府系取引も含む、強力な取引先支援が行われることだ(5.7.)。

1.まず大学の講義で企業について学ぶ。Tsinghua Dream Courseだ。

2.次にx-labという創業実験室で起業の実験をする。実際にx-labを見学し担当の教授に話を伺うことができたのだが、ここまではあくまで教育の一環で、清華大学の学生及び卒業生であれば、それほど難しくなく入室できるとのことだった。クラウドファンディングで度々見かけるようなScam(詐欺商品)かどうかは、専門性のある複数の人が見れば大体わかるもので、Scamでなければ大体支援されるようだ。
ただ!!清華大学に入ること自体が中国の上位数%の学力エリートであることを忘れずに!野球でいえば高校までエースで4番だったり、サッカー部だけどいつも県の陸上大会では陸上部として参加して表彰台にあがるような基礎能力が猛烈に高い人たちだ。

3.実際に起業するぞ!となった場合は、投資家が集まるピッチやネットワーク機会を定期的に提供する。高須さんの解説によると、TusStarが優れているのは、清華大学関連のスタートアップのピッチだから優良な投資家が期待して集まること。そして参加したチームは彼ら投資家の考え方が知れること、また、身近な先輩、チームがピッチで成功、失敗するところを目の当たりにして集団として経験を蓄積できること。実際に成功するネタをつかめるか、事業が本当に成功するかどうかなんてどんなに突き詰めても運の要素や本人達だけにしかわからないが、どうすれば投資家が納得する説明ができるのかを学べるのは大きいだろう。


4.その中で選別に残った企業には、TusStarが投資し宣伝も支援する。

5.さらに見どころにある企業には清華大学ネットワークを利用した取引先や人材の支援を行う。国内外の企業との取引や、政府系企業との取引紹介など、通常では手に入れることができない支援が、清華ファミリーなら提供できるのはすごい。

6.そして上場やM&Aへ

7.支援企業は様々な分野の大企業


 これを日本企業内の典型的な企業内起業システム(業績優秀者もしくは社内公募などで、事業計画のプレゼンをして、担当役員に選ばれた人へ一定の予算を投じてインキュベートする仕組み)と比べてみる。まず、優秀な人というのは、その企業に入社しているとか、業績優秀者だという点でクリアできているとしよう。
 大きく違う点は、Tusの場合ならば、起業教育が企業内のイノベーション課に正式配属される前に広く希望者に行われること。そして、アイディアが企業内部でセレクションされる前に、とりあえずやってみなよという安全な実験室があること(x - lab)。そしてセレクションは内部の成功者により行われるのではなく、投資家により行われることと、起業家は、企業外の専門家の利用や取引先斡旋支援を受けられることが大きく違うと感じた。
 既存事業の延長線にある事業開発であれば自社内で人材とアイディアを選抜してから始める企業内起業システムは企業に溜まった知見と資産を活用し確率高く機能するだろう。一方、既存事業と共有するものが少ない新規事業開発の場合は、うまくいかせる知見が社内にないわけだから、まず正しい起業に関するトレーニングを提供し、誰でもいいから間口を広げて受け付けやってみること、その後の選定には外部の支援を使うこと、そして、うまくいきそうになっているものを伸ばすなどへやり方の転換が必要だろう。まあ、だからベンチャーをM&Aで買うのだけど、それはそれで企業カルチャーが違いすぎたりしてうまく融合できないことも多いし。


2.真っ当で真面目な中関村と清華ファミリーのハードウェアスタートアップ

 もちろんハードウェアにもindiegogoなどのクラウドファンディングを覗けば、そもそも嘘だろっという詐欺的商品があふれているのは知っている。街中にも健康系器具や防虫防鼠の超音波機器等トンデモ機器や、イオンが発生するから○○にいいとかそういう商品はあふれている。でも、なんだろう、この北京観察会で出会ったハードウェアスタートアップ達はすごく真っ当。

 普段、インターネットコンテンツ&広告にどっぷりつかっていると国内外を問わずScamまたはSpamな話が多い。アドネットワークのbotや行き過ぎたアフィリエイターなどによるad fraudだったり、射幸心を煽りすぎたガチャ課金、バーティカルメディアという名のコピペ量産サイトや、仮想通貨でICOするけどサービスは何もないとか、Fintechといってただの小口キャッシングで、手数料として利息制限法をはるかにオーバーする金利をとったり等など。
あ、コピペはハードの世界でも山寨(シャンザイ、偽物)があるからアレか。

 とにかく、ピヨピヨのシード期ならまだしも、サービスの実態も見えて来て、これはどう見てもアレな、社会にとってスパムになりそうな、、でも確かにお金は儲かるかもねといったものにお金が集まるし、そうやって集めた人がイベントなどで成功者としてもてはやされたり。
 そんな業界に自分でも気が付かない内に、少し嫌気がさしていたこともあり、真面目に世の中を便利にする、楽しくするものを作って出して、その結果儲けるんだ!という真っ当な欲望を持った起業家に多く出会えたこの北京スタートアップ観察会はとても刺激的だった。

最後にいくつか見学したスタートアップ達を紹介。


北京视感科技有限公司 

1日目の創業公社のビルの中に入っていた企業。Populele、PoputarというエクレレまたはギターのフレッドにLEDを仕込んで、スマホの演奏アプリと連動して演奏をゲーム感覚で支援してくれる。ギターのデザインもred dotというデザインアワードを受賞していてかっこいい。


Shelter

 同じく創業公社のビルの中に入っていた企業。主に清華大学内の研究、特に化学の成果を市場化する会社。写真は透明度を調整できるLED4Kディスプレイ。写真は半透過の状態で動画を流している。半透過なので後ろの花瓶が透けて見える。それ以外にも、会社の会議室に利用される透過性を電力で調整できるガラス。ケプラーのような素材でできた消防グッズ。北京の地面に落ちたpm2.5など有害物空気をきれいに掃除する車など化学の力を生かした製品が多かった。


Tsinova( 北京軽客智能科技有限公司)

電動アシスト自転車とそれのコアになるトルクセンサーを作っている会社。まもなく日本にも上陸する予定。日本だと法律の規制で、人力の踏力の2倍以上のサポートが禁止されるなどの規制があるが、ちゃんとその規制はクリアしてくるとのこと。
ここは観察会参加者みんなで、試乗会を行わせてもらったのだけど、自転車はカッコいいし、アシストは気持ちい。本音をいえば日本向けではなくヨーロッパ向けの時速40km簡単にでる電動アシスト自転車が日本で乗れるようになると良かった。。。
日本の電動アシスト自転車はママ向けを前面に打ち出している印象だけど、Tsinovaはカッコいいを前面に。買うならこっちを買いたいなあ。


3.まとめ

 この旅行では、ここに書いた以外にも他のスタートアップや、Microsoft Researchを見学したり、北京メーカーフェア行ったり、龍泉寺に行ったり、足を深圳までのばして、全てをiOS APPでコントロールする、狂気のスマホケース工場Ash cloudを見学したり色々体験してきたのだけど、佐野さん (Wechat ID:Sanonas)に案内して頂いた1日目、2日目がハイライトでした。
 深圳で感じた猛烈な勢いやスピードとはまた違って、この中関村、清華大学ファミリーのハードウェアスタートアップ観察会では、正攻法で真面目な人がズンズンと大群でベンチャーを起こしている感覚を受けました。深圳と北京。どちらも違う方法だけど、世の中にインパクトを残す企業がさらに出てくると強く感じます。

 ただ、一点だけ北京で気になるのは、”焼銭(お金を燃やすような感じでの資金投入行為)”と、それを実現可能にする潤沢な投資環境が当たり前になり過ぎていると感じたことです。もちろん必要なタイミングでお金を調達して、焼銭することは、大きな成功をつかむためには必要でしょう。
でも、北京のハードウェアスタートアップを製品の製造面で支援している会社の話を聞くと、支援サービス自体は赤字だが投資が入ってくるのでOKだと話していて、これは、他の企業にも言えることのようでした。コンテンツビジネスのように最初は赤字でもユーザーを集めて、その後収益化するというモデルはわかりますが、製造支援のようなサービスまでが投資を受けることを前提に赤字で提供されるというのは、すごく違和感を感じます。支援先の株を分けてもらうとかならまだ理解できるけど。。。
 利用者からお金を回収するのではなく投資家からお金を回収して、また焼銭して、投資家からお金を回収して、、、と。でも、いつか投資家がお財布を閉めたら、いっきに信用収縮が起こりそう。
 長期的に見れば、こういう上げ下げの波はあるけれど、しばらく右肩あがりの成長は続くとは思いつつ、ざらっとした違和感は拭えず。地方政府の土地による錬金術も永遠にできるわけではないし、それは、新たな税制度や規制などをきっかけに、ガクッと下がることもあるわけで、手放しで成長を信じれるほど甘い市場ではないのだろうなと個人的には感じました。

cf:
北京で食べる北京ダッグうまい パチパチパンチやー

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