十月十日_元_

“とつきとおか”をかけてお届けする器の理由 〜自然産業の「適量・適速生産」を探して〜

はじめましての方へ
こんにちは。漆とロックの貝沼と申します。
「漆とロック」というのは僕が運営している会社の名前です。「ロックって何?」とよく聞かれるので先にお伝えしておくと、ロックとは「時代に迎合せず時代を超えていく力」のことです。僕は〝漆〟にはそれがあると信じています。(だから、パンクもジャズもブルースも内包しています。)
冒頭から「この人、ちょっと何言っているのか分からない」と思われたかもしれませんが(笑)、最後まで読んでいただければ、きっと伝わるはずと思います。

さて、本題です。
弊社が、会津漆器の職人さんたちやダイアログ・イン・ザ・ダークさん、グラム・デザインさん、様々なクリエイターの方たちなど沢山の方々と一緒に丁寧に育て、展開している「めぐる」という漆器があります。
禅宗の和尚さんに監修していただき、禅の修行に用いられる「応量器(おうりょうき)」からヒントを得て、飯椀・汁椀・菜盛り椀が綺麗な入れ子になる三つ組の漆器です。

この「めぐる」。今年から、新しい展開をスタートしました。
それは「製作過程をお伝えしながら〝とつきとおか(十月十日)〟をかけて器をお届けする」という新たな取り組みです。年に一度3ヶ月間だけの受注、年間300セットの限定生産です。
これは、単純な受注生産ではなく、自然産業としての「適量・適速生産」、つまり、大量生産でも小規模生産ではない適切な量、そして、納得したものづくりが出来るための適切なスピードでの生産を目指した挑戦です。

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まず、めぐるの“とつきとおか”の概要は、こちらをご覧ください。

作る時間を共に過ごしていただき、お手元に
「めぐる」は確かな素材と製法による、季節のサイクルに則したものづくりを目指すため、基本的に年1回の受注期間を設けての300組の数量限定・完全予約生産とさせていただいております。ご予約いただいた器は、おおよそ、“とつきとおか”をかけてお手元に届きます。お届けまでお時間をいただきますが、お待ちいただく時間を少しでも楽しんでいただけるよう、“とつきとおか”の間、毎月のメールや隔月の葉書などでご自身の器が育つ(作られる)様子をお知らせしています。我が子を迎え入れるように、器のマタニティタイムをお楽しみいただければ幸いです。
※ めぐる公式サイト -十月十日で迎える器-より

“とつきとおか”システムは、この器をお迎えいただく「使い手」の皆さんにとっては、「人生の“食べる”を支える器」を、その制作過程も含めて、長い時間の中でゆっくり楽しんでいただく仕組みです。丁寧に作られたものを、その背景を知りながら長く使い、自然と文化を育む一員になる。そのような新しい消費のかたちであり優しい暮らしの提案です。

では、「自然と文化を育む」とはどういうことか?
それは、宣伝文句のための単なる美辞麗句ではなく、この仕組みで本当に実現されるのか?

そのことが、今回お伝えしたいことです。

漆器は一般に、素地に日本の広葉樹が使われ、そこにウルシという木の樹液である漆が塗られる、全て「樹木の恵み」から作られる器です。そして、その背景には、四季の巡る日本の大きな自然があります。

だから僕は、漆器は「伝統工芸品」と言う前に、そもそも「自然産業」もしくは「自然生業」だと思っています。

そのような自然産業である漆器も現在、“ものづくりの生態系”全体を見ていくと、構成するパーツがポロポロと失われ始めてきているのを感じます。(やみくもに伝統工芸の危機感を煽るようなことは極力したくないのですが、現実、産地にいるとそのことを肌で感じます。)

特に、自然から生まれる素材、それを活かす道具、そして、作り手が請け負うしごとの中身の3点において、ものづくりの土台が弱まっていることを感じます。

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そのような課題が入り交じる中、漆の文化を未来に繋ぐための答えはどこにあるのだろうと思いながら、僕は「めぐる」の器を職人さんたちと一緒に作り、暮らしの中に届けることを5年間やってきました。

その中で、次第に現在の課題を解く鍵になるのは、「適量生産・適速生産」という考え方ではないかと思うようになりました。

「適量生産」とは、手工芸的な少量生産でも、工業的な大量生産でもない、「持続可能な中量生産」のことです。そして「適速生産」とは、そのリズムのことです。

そもそも、自然の素材を使い手仕事で作られる漆器のような生活工芸品は、大量生産には向いていないことは皆さん、想像に難くないと思います。
だからこその魅力がありますし、それを無理に量産化しようとすると、適応できないものは除外され、最後には素材と製法を変えることになります。その分かりやすい例がプラスチックの素地にウレタンなどの化学塗装をした漆器風の器となります。(もちろん、それ自体を否定している訳ではなく、「早く・安く・大量に」というニーズに対応すれば、必然的にそうなるということです。)

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では、逆に少量ずつ作っていくのがいいのか?というと、そういう訳でもありません。
漆器は、それぞれの器によって、木地の調達、荒型づくり、機器の調整、漆液の調合、道具の調整、塗りの技法そのものなどが異なるため、少量を少しずつ作るのは効率が良くありませんし、品質も一定になりません。
また、希少になってきている自然の素材(めぐるであればトチノキや国産漆など)を確保・育成するためには、ある程度の量をまとめて仕入れすることが前提になります。

ですから、少量を細切れに作ることは、依頼仕事としては作り手の負担がかえって大きくなりますし、素材の調達にも無理が生じてきます。そして何より、健全なものづくりの生態系を取り戻す上では限界があります。

ここまでをまとめると、
大量生産は「対応できないものを切り捨てる」世界
少量生産は「あるものでなんとかする(あるものを活かす)」世界
となりがちな一面を持っています。
もちろん、それぞれの役割がありますが、その中で抜け落ちがちな「理想を諦めない世界」を担う鍵が中量生産なのではないか、と考えています。

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適量生産は、つまり、自然と共にあるものづくりが続いていくための「理にかなった量とリズム」とも言い換えることができます。

それを考えていった時、私たちにとっては、「1年間かけて300組(900椀)を生産する」ということが適切な量とスピードであるという結論に達しました。
(まずはその規模から始め、将来は無理なく、段階的に増やしていきます。)

まずスピードの話。年1回というのは、至極単純です。四季の巡りは1年に1回だからです。当たり前ですが、日本の自然素材は、このリズムで生み出されます。

例えば私たちは、現在トチノキの材料を地元・会津産のものにシフトし始めていますが、これもまた冬の時期のまとまった確保が大切になります。漆の液も、春から秋まで漆掻き職人さんが掻いたものを冬のはじめにまとめて購入します。

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次に量の理由。めぐるには<水平>と<日月>という2つのシリーズがあり、それぞれ別の木地師さん・塗師さんの工房にお願いしていますので、1つの工房あたり年間約500椀をお願いする計算になります。このくらいですと無理なく、安心してお仕事していただける量ということになります。

でも、皆さん、ここまで聞いて、ここで一つの疑問(ツッコミ)が湧くのではないでしょうか?

「じゃあ、受注生産なんかにせずに、お前が大きな資本を投下して、まとめてどかんと作ればいいじゃないか?」
と。

ここで、前述した「作り手が請け負うしごとの中身」という話に繋がります。

1年分まとめてドカンと作ること。漆器産業、いや日本全体が景気が良くて、売り手に大きな資本があった時代は、それが可能でした。でも現在は、なかなかそれを出来るところがありません。

その中で、ある程度の量を作るとなると、単価を下げざるを得ません。そうすると、簡単な工程のものばかりになります。きちんとした仕事が減ること、それは正しい技術が受け継がれていく機会の消失に繋がります。

過去に「めぐる」でも「拭き漆」のラインナップも出していましたが、やはり本来の漆塗りのきちんとした技法で言うと「花塗り(本堅地・塗り立て)」の漆器になります(その違いの詳細はこちらをご覧ください。)。
下地をしっかりして漆を何層も重ねる、近年は、こういった仕事が作り手に依頼される全体量が圧倒的に少なくなっています。このことは下記の記事に詳しく書かれていますので、ご興味のある方はご覧ください。

ただ、こういったきちんとした仕事のものは、相応の時間もかかるし、資金も必要です。

例えば、「めぐる」が目指す適量生産の規模、年間300セット(900個の椀)をまとめて作るには、600万円以上の投資が必要です。

1年以上先の回収を見越してそのような投資をするというのは、さすがに限界があります。

だから、“とつきとおか”のシステムなのです。
上に書いたような、漆器の適量生産を「共同購入」や農業で言うところの「CSA(Community Supported Agriculture:コミュニティの力で支える農業)」のような仕組みで、この課題を皆さんに一緒に解決していただけないかと考えています。

みんなで購入し、みんなで待ち、みんなで使い始める。
この手法が確立すれば、商品原価が高く回収までの期間が長いことが新規参入のハードルとなりがちな伝統工芸業界において、「売り手」としての若いプレイヤーが増えていくひとつの道が開けるのではないかと思います。

また、素材の面からも、全国の漆器産地で今「木地がない」と言われ始め課題が顕在化し始めている漆器の素地になる広葉樹材の確保、国産割合が2%となっている漆の育成においても、解決に繋がるひとつのモデルになる可能性があると思います。

ですから、この“とつきとおか”モデルは、将来、「CSC(Community Supported Culture)」になっていくのではないかと考えています。

基本的には、使い手の皆さんに「待つ」という時間を強いてしまう仕組みなのですが、その時間を少しでも楽しんでいただけるよう、私たちも精一杯、ひとつの器が出来るまでの物語をお知らせさせていただきます。

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これまでも「めぐる」は、ある程度、受注生産型ではありました。ですが、その頻度も量も不定期で、その本当の意味が発揮できていませんでした。そこで、ここまで書いてきたような「未来に意味のある受注生産の仕組み」にしたのが、この「とつきとおかシステム」です。

この時代に、文化の持続可能性を高めていくには、生産も消費も今までのままでなく(特に経済成長・人口増加期に作られた大量生産・大量消費に合わせた仕組みを脱却し)、時代に合わせて変わっていくことが必要だと思います。それも、どちらか一方に責任と負担を負わせるのではなく、「生産と消費がセットになって」変わっていくことが必要ではないでしょうか?
その際に「日本の美しい四季のめぐりを共に過ごす」という要素が入ることで、義務ではなく楽しみとして変わっていけるのではないか、これはそんな世界を目指したチャレンジです。

そして実は、この仕組みを支えているのは、ITの力です。

メールやSNSという新しいコミュニケーションツールがある現代だからこそ、十月十日の期間、製作工程を動画やメールでお伝えしたり、こうやって直接使い手の皆さんに、生産現場で起こっていることをお伝えすることができます。(そこを深く理解し一緒にチャレンジしていただいている、グラム・デザインさんにウェブサイトを構築していただいています。)

新しいテクノロジーの力も借りて、自然と暮らしの架け橋を作る。
それが、これが十月十日(とつきとおか)システムが、ただ昔のやり方に還ろうという話ではないところです。

ひとつの器を通じて、作り手と使い手が繋がる。その先に自然と暮らしのリズムが合致した新しい未来が見えてくるのではないでしょうか?

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今年の受注期間も、3月15日(日)までです。

自然の神秘とも言える漆の優しさ、美しさ、心地よさを感じ、塗り直しをしながら長く使うことが叶う漆器。

是非、この機会に、この循環から生まれる器をゆっくりと暮らしにお迎えしてみませんか?

受注の詳細・お申し込みはこちらからご覧ください。

【“とつきとおか”の年間サイクル】
・毎年12月15日~3月15日の3ヶ月間のみの受注(年1回)
・春分の日(3月20日)が十月十日(とつきとおか)のスタート
・3月~10月まで会津の各工房で丁寧に製作します
・製作期間中は毎月あなたの器が生まれるまでの様子が届きます
 (お葉書やE-mailにて、季節ごとにお届けします)
・実際の器はは、11月末にお届けします
・12月いっぱいはご家庭で「枯らし」をしていただきます
・お使い頃は、ちょうどお正月からとなります

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追記1)
この仕組みに「十月十日(とつきとおか)」というネーミングと世界観を与えてくださったのは、「めぐる」という名前に引き続き、ダイアログ・イン・ザ・ダーク代表でバースセラピストの志村季世恵さんです。この器をどう世の中の方に迎えていただくか、そのことをいつも素晴らしい感性で導いてくださることに、心から感謝しています。

追記2)
僕が「中量生産」という言葉に最初に出会ったのは「ててて見本市」でした。(ててて見本市では、現在はそこからさらに進化し「リンケージ・プロダクト」というコンセプトを掲げられています。)上に書いたことが、元の意味と完全に合致してはいないかもしれませんが、言葉と活動の大いなるヒントをいただいたことに感謝申し上げます。

追記3)
本文で少量生産・大量生産の話を書きましたが、「少量生産」については多分に民藝的な世界でもあり、実は個人的には、一番くらい好きな分野です(純粋に物としても)。でも、それは多様な作り手の自発的なものづくりの中で行われるから面白いのであって、僕のような売り手の立場でそれをするのは役割が違うかなという気がしています。
・・・という趣旨のことなので、少量生産自体を否定している訳では全くないので、どうか誤解なきよう、お願い致します。