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シトロエンHヴァンの友

シトロエンHヴァンに乗る友人がうちに寄ってくれた。市内で車検を取ったばかりなのだ。なお「H」は、フランス語のアルファべ(ット)では、「アッシュ」と発音し、Hヴァンではなく、Hトラックと言う場合もある。

玄関前に迎えに出ていると、幹線道からやってきた赤いHヴァンはすぐに分かった。立派な車幅である。2mぐらいあるのだ。

ちょうど近所で下水工事をやっていたので、その関係の方々などが目が点になるような感じで近づいてくる赤い車体に注目している。

すぐに友人は慣れた様子で、大きな車体をうちで借りている駐車場に入れた。隣の畑に来ていたおじさんが「これはキャンピングカー?」と訊いていた。

シトロエンHヴァンはご存じのように駆動方式がFFなので、荷台のフロアが低い。よって、全高は2.3mくらいであるのにもかかわらず、中で人が立てるくらいの空間が確保されている。

友人は理容師なので、このHヴァンを移動理容室としても使用しているのだ。

私のキャンピングカーは、ホンダのステップワゴン(RF4)にFRP製の寝台部分を架装したものだが、高さは2.4mある。それに比べると、いかにHヴァンのパッケージングが優れているかは一目瞭然である。

友人のHヴァンは1967年製だからもう50年以上の車齢である。しかし立派に現役なのだ。3速でパワーが限られるので高速道路とか、勾配のきついルートは難しいようだが、一般道の大半のところを元気に走っている。

FFのトラックは歴史的に見ても少なく、わが国ではいすずに一例があるようだが、ヒットするまでには至らなかった。それに比べるとHヴァンは大傑作であり、いまだにこの優れた設計手法を模倣した車が出てこないのは実に不思議なのだ。キャンピングカーとして立派に通用する空間なのに。

昼食をともにし、歓談したあと友人がわが家を辞する際に、「見せたいものがあるんです」と言う。なんだと思えば、運転室のエンジンカバーやフロアを取り外してくれ、Hヴァンのエンジンとドライブトレーンがむき出しになった。

ふつうの車と異なり、Hヴァンは室内側から機関等の整備を行うのであった。これには驚かされた。フロアの板もネジ止めで外れるのである。

エンジンカバーと、運転席と助手席周辺のフロアを取り外したところ。左奥に見えるのは運転席。右側が車体前方になる。

ボディはよく知られているように、波板状に凹凸のある構造になっている。道具としての存在感に特化したようなスタイリングが好ましい。

実用車はこういう感じでいいのだ、とつくづく思う。そう言ってはなんだが、塗装がやれてきたらペンキを刷毛で塗ればいいという感じなのだ。そういう使い方がこの車には似合っている。

この半世紀あまり、自動車の機能はひどく高度化してきたが、肝心の人間との関わり方はほとんど変化していないようにも思える。シトロエンHヴァンにみられるような、道具として徹底的に合理化された構造やその精神は、その後の自動車史の中にも現れてはいない。

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