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本栖湖キャンプと西湖の感動的な鳥見

キャンプ仲間の友と久しぶりに本栖湖キャンプ場で合流することになって、2024年6月8日の土曜日15時半頃、われわれ夫婦は自宅を中古小型キャンピングカー「ピクニック・ゲリラ号」で出発した。

市内で給油とタイヤ空気圧の調整を行ってから高速を経由し、途中のコンビニで薪などを買い込み、仲間のS氏に電話して「あと15分で着きます」と連絡。現地の本栖湖キャンプ場に着いたのは17時半頃だった。

最近の本栖湖キャンプ場は週末は凄く混むので、グループキャンプは難しい。混みこみで近くに車を止められなかったら、離れた場所にサイトを作って、挨拶だけはしにいくつもりくらいの覚悟でいたのだが、現地に着いたら、なんとかS氏のサイトの比較的そばに駐車できる空間があったので、そこに車を入れ、無事合流することができたのであった。

S氏のサイトは完璧なソロ仕様となっているので、われわれはまずテーブルとチェアを下ろし、そのとなりに離れを作った。もう17時半を回っているので、数年ぶりの再会の会話もそこそこに、早速夕食の支度を始める。

とはいっても、きょうは合流できたらS氏が食事を作ってくれることになっており、大期待である。彼は料理が上手いのだ。いったい何をふるまってくれるのだろうと思っていたら、牛肉100%のピュアなハンバーグなのだ。これはたまらん。

現地は涼しいのを通り越してけっこう寒いくらいで、じきに私はフリース、かみさんはダウンを羽織ることになった。温度は13℃くらいである。

米は自分たちの分は自分で炊くことになったので、われわれもコッヘル類と食器類をテーブルの上に並べる。1.5合、計ってビニール袋に小分けしてある無洗米を取り出してまず水浸。しばらくのちに炊き始める。

S氏が焼いてくれる純粋ハンバーグは、焚火調理なのだ。ピコタイプの焚火台の上から、たまらない匂いが流れ始める。しばらくして出来上がり。プチトマトとミックスビーンズとレタスを添えたハンバーグライスに舌鼓を打つ。たまりませんでした。

たまらなく美味しかった、ハンバーグライス。S氏は、スキレットに残っていた油を使って、禁断のガーリックライスも作ってくれた。

というわけで、あっという間に満腹状態になったのである。そこから先はS氏の淹れてくれたコーヒーなどを楽しみながら、久しぶりの再会に話の花が咲く。S氏と本栖湖キャンプ場で一緒にキャンプを楽しむのは、これで都合4回目。最初は2015年の8月だった。

最近は双方ともあまり熱くなってはいないものの、自転車やフライフィッシングという共通の野外道楽もあり、話のネタは尽きない。双眼鏡も互いの興味の対象のひとつだ。彼はニコンを使い、われわれはコーワとヴァンガードである。

そのうちに夜も更けて、22時半を回った頃にぷち集会はお開きになった。回りはグループキャンプの衆らが多いので、まだ賑やかにしているが、われわれはそれぞれ互いの寝場所に撤収した。食べ物類はゴミ類は夜間に小動物などが来ることが多いので、これも寝場所にしまう。

ピクニック・ゲリラ号の中を就寝できる状態にセットアップし、就寝準備を終えたらもう12時。じきに眠りに落ちる。車中泊の良いところは、割合と外の音が届きにくいことで、まだ遅くまで活動している周辺のグループキャンプの会話の声などもあまりうるさくは感じなかった。

翌朝は6時起き。S氏はもうソロキャンプの玉座に座っておられる。鳥の声が森の中に響き渡っている。シジュウカラの声がいちばん目立つ感じだ。でもキツツキの類もいる。昨日はS氏によればアカゲラも出たということで、羨ましい限りなのであった。

キャンプ場では時間が経つのが早い。そろそろ朝食にしましょうということになって、またしてもS氏の世話になってしまったのであった。焚火の上にスキレットを置いて、そこで厚切りベーコンをソテーしてくれる。

厚切りベーコンの焼ける匂いに鼻が酔いそうであった。

ほどなくして焼き上がったベーコンを、S氏ご提供のバゲットをスライスした上に乗せて、厚切りベーコンオープンサンドの出来上がり。これもたまりませんでした。

軽くトーストしたバゲットの上に、厚切りベーコンとレタスをトッピング。

かくして6月9日の朝は華麗な朝食から始まったのであったが、S氏はきょうは撤収日であるからして、10時頃からその作業に入る。所要時間は約2時間ということで、今度は居残るわれわれが簡単な昼食の支度をする。

S氏の撤収作業が完了する頃、われわれの用意した簡単パスタも出来上がる。パスタを3束縦型パーコレーターで茹でて、ボローニャソースを混ぜるだけであったが、まあ外で食えばどれも旨い。

今回は、今は使っていない焚火台をS氏から無償で譲っていただいた。ありがたい。ピコタイプの製品で、その後同様の機能のものを買い足したので不要になったそうなのである。われわれは、スノーピークの焚火台M(頑丈でいいが、ひどく重い)と小型ネイチャーストーブの間にもうひとつ薪がくべられるサイズの焚火台が欲しかったので、願ったり叶ったりなのであり、ありがたく頂戴することにした。

S氏から頂戴した焚火台を早速試用。分解すると軽量で小型なのがいい。ちゃんと30cmサイズの薪を燃やすことができるのであった。

正午を回り、S氏は神奈川に向かって帰投の途につく。次のキャンプ合流がまた愉しみである。森の中を彼の車が遠ざかっていくのをわれわれは見送った。

すぐ近くのわれわれが「一等地」と呼んでいる辺りが空いたので、そこに引っ越す支度をする。テーブルとチェアなどはさきほどS氏も手伝ってくれて運んでおいたので、あとは車をそばに入れるだけだ。

本栖湖キャンプ場は木が多く、溶岩が飛び出しているところもあるので、車を特にバックで移動する場合には、念には念を入れて人を立たせたほうが良い。今回もわれわれがそうしていたら、かみさんが急に「あーっ。コーヒーを持ってかれちゃう」とか言って騒ぎ出したので、なんだと思って車を降りたら、カラスの襲撃であった。ちょっと人がいないと見るや、すぐさま食品らしきものを奪いに来るのであった。

追い払ったので今度は大丈夫かと思って車の移動を開始したら、今度はとうとうバゲットの残りが入った袋を持って行ってしまった。やれやれ。車の位置も決まり、引っ越しが終了した頃に、かみさん曰く「野生動物に布施をしたようなものだから、そのうちきっと返礼があるよ」とのこと。

気を取り直して、今度はチェアリングしながら、鳥たちの来訪を待つ。午前中には全員でキビタキを見ることができたが、それ以来、目ぼしい鳥は見ていない。

そのうちに体躯の立派なキツツキの類が数十mほど離れた木の低いところに飛んできて止まった。キツツキ類は縦に止まるのですぐに分かる。双眼鏡の中にも入った。てっきり昨日S氏が見たアカゲラだろうと思ったら、さにあらず、頭のてっぺんだけが赤くて、あとは緑色をしているアオゲラであった。本栖湖キャンプ場でアオゲラを見るのは初めてなのであった。

今回はフライフィッシングの道具を持ってきているので、本栖湖で釣りをしようかという頭もあったのだが、さきほどカラスの襲撃もあったので、かみさん一人をサイトに残すのも気が引けるし、かといってテーブルの上の荷物を全部車の中にまたしまうのも面倒なので、釣りは止めることにした。

夕飯は焚火調理をするつもりなので、重いスノーピークの焚火台を取り出し、落ちている小枝を集めて薪に火をつけた。薪は明日の午前中も燃やすとなると少々足りないかなと思えたので、売店でまた一束買い求めた。

そのうちに夕方になり、時刻は17時前くらいになったので、晩飯の支度をする。まずメシを水浸する。30分ほどしてから炊き始める。おかずは例によってランチョンミートだ。缶から取り出して4等分する。

今回の熱源も焚火なんだが、ものは試しで、拾い集めた小枝の類を燃やして、その上にグリドルとスキレットを乗せる。やや火力が弱いかなとも思ったが、終り頃にはちょうど良くなり、うまくランチョンミートを焼くことができたのであった。

ランチョンミートを焚火の上のスキレットで焼く。
2日目の夕食の出来上がり。メスティンの中で余ったメシは、スキレットでクレージーソルトを振って炒めた。

食べ終わる頃にはだんだん辺りも暗くなり、さきほどカラスが落としていったパックコーヒーを淹れて飲む。気温はどんどん下がり、15℃を切るくらいになり、私はフリース、かみさんはダウンを羽織ってちょうどいいくらい。

夕方から天気が怪しいという予報が出ていたのだが、どうやら降り出すのは23時頃かららしい。早めに夕食の片付けをして、焚火台とテーブルだけを外に残して21時前に車内に退避する。

案の定、眠りかけていたところに雨が降り出した。23時半くらいである。24時頃にいったん起きて二人でトイレに行き、また戻ってきて眠った。

6月10日(月)5時頃に目覚めると、外はまだ降っている。それも7時前ぐらいには上がったので、外に出て焚火をしようかと思うが、車内に保管しておいた薪はいいものの、焚き付けの小枝類が皆濡れてしまっている。

しばらく着火を試みたが、うまく行かないので諦めて朝食の支度に移行する。前回のキャンプは小雨の降っている中での朝食用意だったので、テールゲートを開けてパック餅を焼いて磯辺巻にしたが、今回はメシを食べたく、まず水浸した米を炊いた。それから湯を沸かしてフリーズドライの味噌汁を作り、アンチョビの缶とコンビーフのパックを開けて、簡単なオカズを用意して食べた。旨かった。

その頃には雨もすっかり上がった空から青空が覗いていた。気温も少し上がってきたので着替える。撤収の準備も開始する。本栖湖キャンプ場は正午がチェックアウトの目安なのだ。

しかし正午くらいで出なければならないとすると、昼食もすぐにどこかで食べなくてはならないということになる。次の目的地は精進湖で、午後はここで過ごすつもりであったから、何か食べておかなくてはならない。

というわけで、撤収準備もそこそこ進んだ12時頃、お湯だけ沸かしてカレーメシを食べた。食器を洗う必要がないので、片付けも楽なのだ。ゴミ類をまとめ、サイトに忘れ物などがないかどうか確認して出発したのは13時頃。事務所の前でご挨拶し、車をキャンプ場の外に持っていく。

国道139号に出て、最初は精進湖へ直行だと思ったが、真昼のこの時間帯、フライフィッシングをやっても成果が上がるとは考えにくい。そこで「そうだ、西湖野鳥の森公園に行こう、いや、月曜は休みだったかな、分からないけど、ともかく行ってみよう」という提案をしたら、かみさんも大賛成。

13時半頃に西湖野鳥の森公園に着いたら、ちゃんとやっていた。おまけに周辺はガラガラ。早速駐車場に車を入れ、ゲストハウス内を見学する。そこに飾られていた写真に、ヤマガラが女性が口にくわえたヒマワリの種を取ろうとしてるものがあり、ひどく印象的であった。そこまで警戒心のない野鳥がいるとは驚きであった。ヤマガラが人の手から餌をもらう動画などは以前にも見たことはあるのだけどね。

2階の観察窓から下を眺めると、双眼鏡と超望遠レンズ付のカメラを持った人が森のほとりを見ている。野鳥の森公園が自然環境そのもののようにたくみに小川を作ったサンクチュアリなのだ。

外に出てそっちに行ってみたら、カメラの人はおらず、代わりに鳥たちが跋扈しているではないか。ヤマガラ、シジュウカラ、そしておお、エナガがたくさんいる。中でもヤマガラは餌台のところに何度もやってきて、目と鼻の先を飛び去ってゆく。

餌台の周りを飛び回っているヤマガラ。双眼鏡を使う必要のない距離だ。

「手を出したらとまるんじゃないの?」みたいなことをかみさんが言うので、試しにそうしてみたところ、本当にヤマガラの一羽が私の指先に止まった。ひどく驚いたが、何とも不思議な感覚でもあった。これで色めきたった私たちは館内に入って、100円で売っていたヒマワリの種を買い込んだ後、再び餌台のある裏庭に戻ってきた。

そうして今度は手のひらにヒマワリの種を乗せて差し出してみたら、本当にヤマガラがそれをついばみに来たので、二人とも大興奮、大感動してしまったのである。いつもは双眼鏡でやっと近づくことのできる野鳥が、そちらのほうからこっちに来てくれて、餌をもらってくれるのであった。もちろん警戒心がないわけではなく、止まったと思ったらすぐさま種のひとつをくわえこんで、直後に飛び立ってしまうのであるが、それにしても、野生生物が人とかように触れ合うことができるというのが信じられないくらいであった。

ヤマガラの体の軽さ、足の指の感触、飛び立つときの風。そんなものが指先にまだ残っている。

私たちは手を差し出しながら、しばしそこで半ば茫然と佇んでいた。富士五湖周辺、中でも本栖湖、精進湖、西湖のあたりは街らしい街もなく、大半が自然環境で、一種天界的な雰囲気と空気感をたたえているのだが、この青木ヶ原樹海の中にある野鳥公園も、まさに楽園的、天国的なところであった。

人間がほかの生命と接触して得られるこのような歓びを、何と表現して良いのか分からないのである。幸福な素晴らしい体験と言ってももちろん正しいのであるが、どこかそれを超えている体験のようにも思える。私たちが死後の世界、あるいは生まれる前の世界で体験するような天上的なふれあいの歓びは、もしかしたらこういうものなのかもしれない。

われわれは15時過ぎ頃まで西湖野鳥の森公園にいて、それから精進湖に向かって出発した。精進湖畔に着いて、湖岸のそばまで車で降りたが、すでにポイントにはほかの人が入っていたこともあり、道具を組み立ててフライフィッシングをやる気にならず、早々にそこを後にした。魚をいじめる遊びをやる気が失せてしまっていた。

その頃になって、カラスの一件を思い出し、なるほど、鳥に布施をしたら別の鳥からまた特別に愉しいひとときをもらったということに、われわれは気付いたのであった。

それにしても、森の中で残りのパンを鳥に与えたら(正確には奪われたのだが)、別の場所で可愛い小鳥が手のひらに乗ってきてくれたというのは、なんだか童話じみている。「ヘンゼルとグレーテル」のようでもある。

精進湖を離れたわれわれは、上層に雲だか霧だかが連なっている朝霧高原を抜け、ぼちぼち渋滞の始まりかけていた富士宮市街を通り、新東名に入って、途中ネオパーサ清水に寄り、「すた丼」で生姜丼の夕食を食べた。そうして今度の旅は終わった。

鳥見を始めてから2年あまり経つが、今回のような体験をしたのは初めてである。餌付けされた野鳥の行動としては、特段珍しいことでもないのだろうが、一見、私たちと遠いところにある「野生」というものが、ある瞬間にはひどく人間的なものを見せてくれるということに、われわれは感動したのであった。人間はまだ鳥から見捨てられてはいない。そんな風に思えてならなかった。

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