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夏の終りの旅2009/その5

 安国寺でひと息ついているときだったと思うが、Tさんが「舞鶴まで行きませんか」と提案してくれた。日本海好きにはぐっと来るお誘いである。実は、綾部まで来る電車の道すがら、そんなことも私は考えていたのだが、綾部到着が午後2時頃になるし、せっかくだから綾部の街も少し見たいし、推定20kmあまりある舞鶴まではちょっと強行軍になるのかなとも思っていた。
 たぶん帰路は日暮れるだろうと思いつつ、行きましょう、とわれわれはハンドルを舞鶴に向けた。国道27号沿いだったと思う。裏道や側道のあるところではそっちを選び、北へ向かって緩やかに下ってゆく。

 舞鶴で日本海の海面が見えたときはもう夕刻だった。最寄の駅でいうと西舞鶴になるから、港は西舞鶴港ということになるのか。
 内海に近い奥まった穏やかな湾だからか、海面と人の暮らしが異様なまでに近い。舟屋もさほど遠くないことが察せられる。

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 日本海沿いの街でいつも感じるのは、湿度と節度のある町並み、北前船の時代からの昔日の繁栄の残照、それと一対になった、ある種の諦念とも言える静かな哀しみの相。
 そして舞鶴には、戦争後の引き揚げ船という近代の悲劇に染まった空気があるはずだった。そこにシンクロするにはやや到着が遅すぎたのだけれども、夕日が照らし出す海面にはやっぱり何かがあるのだった。

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 残念ながらあまり時間的余裕がなかったので、西舞鶴港から綾部に向かって帰投の舵を切る。そのうちにぱたぱたと雨が降り出して、お、さすが日本海側だねというおまけがつく。アーケードの商店街でちょっとばかり雨宿り。なお、昭和の匂いの濃いアーケード街というものは、東西では西のほうに多いそうである。

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 繁華街を抜けたところで高校の傍らを通り抜けたことを記憶していたが、さきほどあらためて地図を見たら、京都府立西舞鶴高校であったようだ。
 雨はたいしたことはないというものの降り続いているので、レインウエアで進む。往路と同様に裏道や側道のあるところではそのような道を辿り、一路綾部を目指す。ま、実際にはTさんのあとをついてゆくだけなのであるが。

 綾部にようよう近づいた頃は、山裾の暗い道で、ダイナパワーの灯火が妙に明るく感じられた。駅前で、2人ともレインウエアを脱ぐ。もう雨は止んでいる。それから、インド料理の店でTさんにご馳走してもらった。日本語を話せる店主氏に、静岡から輪行してきたことを伝えるが、う~ん、自転車を分解して袋に入れて、なんてことをちゃんと説明できたのか、相手に伝わっているのか、どうも自信がなかった。
 Tさんとはもっといろいろ話したかったけど、彼は明日は早朝から仕事なのだ。そんな中で付き合ってくれたことに、ただもう感謝なのであった。もちろん舞鶴に行って良かった。これで、昨日食した柿の葉ずしの鯖にも恥じない旅になったというべきか。

「その6」につづく>

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