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芝川白糸スローサイクリング

4/28(日)に出力過剰T君と出掛ける予定だったのだが、前の晩に体調と気分があまり良くないので、すまんが明日はキャンセルなのだと電話をしたら、とりあえず了解してくれたが、明日の朝の体調で決めればいいじゃないですかみたいなニュアンスもあった。

案の定、翌朝になったら気分も良くなったので、かなり迷惑人間だが、ドタキャンのドタキャンをして、出掛けることになった。しかしそういう事情なので出発は遅くなり、彼がN-Vanで現れたのは12時を回ってからだった。そそくさと私のBSモールトン(文末用語解説あり)を荷台に積み込んでもらう。彼は20インチのダホン(文末用語解説あり)を折りたたんだ状態で積載する。

途中コンビニで昼飯などを買い込み、車を止めておく富士宮市柚野の柚野公民館の駐車場に着いたのは14時くらい。弁当をかき込んでから、自転車の支度をする。

天気はいい。富士山にはやや雲がかかっているが、頭頂部も覗いている。出発地点の標高は199m。

きょうの主眼は、63歳で自転車ツーリングを復活させている私の登坂脚力を多少は鍛えることなのだ。出発点からは北に向かってゆるやかな上り坂が続いているので、足が売り切れるところまで走って、あとは下って帰ってくれば良いだろうという魂胆なのだ。

サクサクと登れるわけもなく、ユルユル、あるいはフラフラとペダルを回すのが関の山なので、できるだけ車の少ない道をゆく。

走り始めた頃の富士山には少々雲がかかっていた。

途中で車がたくさん駐車してあるところが見え、なんだと思って近づいてみたら、近所の衆が集まってバーベキューをやっているのであった。さすがにゴールデンウィークなのであった。

傾斜は次第に急になり、ギアをどんどん落とす。心拍が大変になるほどの脚力はないので、へろへろと進んでゆく。橋を渡るところでは、自転車を止めて、深い谷を覗き込む。

T君はずっと喋っている。こちらはちゃんと受け答えするほど余裕はないので、適当に相槌を打つ。それでもかまわずにどんどん喋りかけるのである。出力過剰である。

田んぼがレンゲ畑になっているところに出くわした。昔は清水市内でもよく見られた光景なのに、最近は激減してしまった。

一面のレンゲ畑。新緑もきれいだ。

裏道には周辺に寺院や題目塔や馬頭観音なども多い。古来から続いている道なのだ。あるお寺の境内に立ち寄ったら、眺めの良いことに感嘆した。すでに出発点はだいぶ下のほうである。

こういう静かな裏道を進む。至るところに富士山が現れる。

やがて静かな裏道が終わり、多少は交通量のある県道に出る。オートバイのツーリング集団が下ってくる。

1km以上ずっと見通しのきく緩やかな上り坂の途中、右に折れるとパン屋さんがある、あるはずだった。しかし昔あったそのお店は、現在では営業を終了されていた。私が今回の走行経路に近い感じのコースを載せた『静岡県サイクルツーリングガイド』を刊行したのは2002年の秋。もはや22年も前のことであった。物事は変化するのであった。

やがて道は「狩宿の下馬桜」のところに達する。ここでも小休止。昔の豪農の長屋門が見事だ。桜はすでに葉桜である。私はそろそろこの辺で折り返してもいいかなと思っていたが、T君は「いや~まだまだ白鳥さん行けますよ」とハッパをかけるのである。

そういうわけで再出発。途中、水田の中からけたたましい鳥の鳴き声が聞こえるので、何だと思ったら、ケリであった。静岡市葵区での探鳥会で見て以来である。遠くの水田の畔を大きな鳥が歩いているので見たら、キジであった。T君が持ってきた6倍の双眼鏡を借りて確かめた。

その先でいよいよ坂がきつくなるところがあり、最低ギアでも厳しいので迷わず降りて押した。そんなこんなで、白糸の滝のところに辿り着く。ここは有名観光地でもあるのでスルーするつもりでいたら、「白鳥さん、せっかくだから寄っていきましょうよ」とのたまう。諦めて付き合うことにした。
この時点での標高は489m。

白糸の滝を初めて訪れたのは、小学校1年生のときの子供の日だったように記憶している。もちろん家族で行ったのである。そのときは凄い賑わいようで、帰りのバスも渋滞しっぱなしだった。しかしそれから高度経済成長の終りとともにこの観光地の凋落は始まり、20年前ぐらいには閑古鳥が鳴いているような状況であった。

それが今になったらまた人が来ている。往時には及ばないが、けっこうな人出である。しかし何か違うなと思ったら、観光客の10人中8人ぐらいが外国人なのだ。インバウンドなのである。

白糸の滝。「立ち入り禁止」の看板が4カ国語で書かれているが、少なくとも複数のグループが禁止区域に入り込んでいた。これもオーバーツーリズムか。

白糸の滝で折り返すこととする。T君が「まだまだ大丈夫ですよ。2合目あたりまでどうですか?」などと言ってくるので、それ以上言うと再起動するぞ、と釘を差す。いつもこの調子なのだ。

すでに時刻は17時を回っている。登ってきた道を下り始める。8km以上も下りが続くのである。安定性の良いBSモールトンとはいえ、基本は17インチのミニベロ(小径車輪の自転車)であるがゆえ、下り坂はかなり緊張する。片手運転などできない。

夕方になって富士山の雲はとれた。裏道からの風景。

慎重に下って、出発点付近に辿り着いたのは、18時頃。芝川のポットホール(甌穴<おうけつ>/川の中の岩に流水と礫の浸食でできる円形の凹み)を見に行って、それから、ごく近所に住んでいる旧友の家に挨拶に立ち寄ったら、コーヒーでも飲んでいけばというありがたいお言葉に甘え、二人して薪ストーブのある瀟洒なリビングに通される。

旧友の細君が淹れてくれた美味しいコーヒーを味わいながら歓談すれば、あっという間に1時間が過ぎる。旧友とはお互いもう60歳を過ぎているので、ともに元気でいることが何よりうれしい。御礼を言って、T君とそちらを辞す。

T君のスマートウォッチの計測によると、獲得標高差は471mだった。けっこう上り返しもあったからだろう。距離を訊くのを忘れたが、グーグルマップでの概算によれば、17kmぐらいだったもようだ。ま、とりあえず、多少のトレーニングにはなったであろう。

自転車を積み込んで帰る道すがらも、まだ50代のT君は冗談を言い続ける。おい、再起動するぞ。

<用語解説>
●BSモールトン/ブリヂストンサイクル(日本)とアレックス・モールトン(英国)が共同開発した17インチ車輪の自転車。前後のサスペンションなどに特徴があるが、現在はディスコン(生産終了)となっている。記事冒頭の画像が当該のBSモールトン。

●ダホン/台湾の折り畳み自転車メーカーまたはその自転車を指す。普及価格帯を中心に、かなりの生産量がある。

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白鳥和也/自転車文学研究室
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