見出し画像

再び出会った杏仁豆腐  452

久しぶりに感じる北風が朝から吹いていた。
だからって暑さは変わらないのだけどね…。
カーテンが動くほどの風は、室内にも流れを作ってくれて過ごしやすくしてくれるから好きなのだ…例え掃除が必要になると言われても…。

窓を開けて本を読んでいても寒さ、冷たさを感じずにいられるまであとどのくらい時間があるんだろう…なんて考えてしまう。
うっかり寝てしまって「さむっ…」なんて目が覚めたときにはもう「うたた寝しても大丈夫な季節は終わってしまったんだ…」となんだか寂しくなってしまうあの瞬間。
今年も近々やってくるんだろうなぁ…。


数ヶ月前に寒天が原材料の杏仁豆腐の素をいただいていた。
お水と牛乳で溶いて冷やしたら完成の簡単なやつ。

この暑さだからいただくにはもってこいのタイミングなのに…どうにもわたしの食指が向かない。

あの杏仁の味が苦手なのだ。


その昔、もはや杏仁の味すら入っていない「牛乳かんでは?」とも思えるようなウソっこ杏仁豆腐を食べながら「本物よりこっちがいい…」と思ったほど、杏仁の味が苦手だった。

何?杏の種?どの辺があんず?となんとか思い浮かぶもののカケラをその味の中に探そうとするも、桜餅の風味とも違うし…と路頭に迷う。
結局「なんでこの味わざわざ付けたん?」と真顔で言うほど苦手なままだった。

そうやって遠ざけていた杏仁の味だけど、まさかアメリカで再会するとは夢にも思っていなかった…。

アメリカではメジャーなチェリーコークを手渡された時だった。

見ればデカデカと「Coke」の文字。
でもちょっとばかり紫っぽい缶の色。
Cokeの文字の近所にはなぜだかさくらんぼのイラストが描かれていた。

「なるほど、さくらんぼ味のコーラってことか」と理解し「なんかさりげない果物を持ってくるんだなぁ…」なんて思いながら飲んだ瞬間

「なんで?なんで杏仁豆腐の味がすんの?」

と大いに動揺し「さくらんぼ味ちゃうやんっ!他にもメロンとか色々味あるやーん!なんでよりによって杏仁の味入れる⁉︎だれー?この味に決めたのーだれー!」なんてまぁそもそものルーツにまで難癖をつけながら不服を述べ続けた。

そんな思い出深い杏仁の味。


そんな思い出を持つわたしは杏仁豆腐の素を眺めながらツラツラ考えた。

多分、今どき杏仁豆腐ってうたうからには牛乳かんの味では終わらない…
きっと本格の方を狙って味付けしてるはず…
でも、作るなら暑さ真っ只中の今がギリギリのタイミングだよね…

そう、ちょっと秋らしさが本格的になってこようものなら、冷たくってちゅるんとしたゼリー状のものなんてニーズが極端に減っちゃうんだから、作るなら、食べるなら…いまなのだ。


そう思って勢いで作った杏仁豆腐をさっき食べてみた。

…確かにチェリーコークの味はしている。
でもちゅるんとした食感の方に、冷たさの方に今の自分はうれしさを感じていた。

何度も食べたいって味じゃない、なんて言いながら…食べてるな、わたし…。
フルーツとか一緒にどうぞって書いてたの、ホントにそうだな…今度買おう。
なんて、作るまでの大波は収まり、ただ黙々とふるふるの白い物体を口に運び完食した。


こんな感じで苦手が薄らいでいくとは…
ホント自分で選んだものじゃない、自分で選んだタイミングじゃない、目の前にやってきたものに乗っかってみるって思わぬものが隠れているもんだ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?