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雪花が散る

 「雪花が散る」。岡山に越してきて初めての冬、耳にしたこの言葉が今でも心に残っている。この地域の方言なのかどうか定かではないが、以前住んでいた街では使われることはなかった。
 雪の降る様子を花が舞い散る姿にたとえ、先人たちは「ゆきばな」と表現し、長いこと言い伝えられた言葉なのだろう。
 天気予報によると、その日は強い寒気が中国地方の上空を覆い、最低気温は氷点下3度、晴れ。青空が広がる冬の朝、肌を刺すような風が吹いている。風の匂い、強さからして、なんとなく雪が降りそうな気配がする。
 会議が始まる前、窓の外にはどんよりとした雲が急に現れ、白い雪がひらひらと舞っていた。まさに雪花が散っている。長い会議が終わり、ふと視線を窓越しに移すと、雪はその姿を消し去り、澄んでみえる真冬の青空に戻っていた。
 美しい日本語である「ゆきばな」が散る。令和の時代まで受け継がれてきたこの言葉。次の世代にも大切に伝えてゆきたい。

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