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「死生観は変容するものなのかもしれない」 イラストレーター香珠さんに聞く 『死生観光トランプ』を通して 表現したかったこと

こんにちは!多くのご支援、本当にありがとうございます。

さて、『死生観光トランプ』は、世界各国の死生観や弔いの作法をイラストとキャッチコピーで紹介したトランプです。全国各地のお坊さんや仏教を愛する方、総勢14名の方々にイラストを描いていただきました。そこで、『死生観光トランプ』イラストレーターの方々に、描いてみた感想や、イラストに込めた想いなどについてお聞きしました。

今回は龍谷大学大学院に通う、浄土真宗本願寺派僧侶の香珠(こーしゅ)さんにお話を伺いました。聞き手は、ワカゾーの藤井一葉(ふじいかずは)、書き手は霍野です。

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ーー普段は何をしているんですか?

いまは龍谷大学実践真宗学研究科という大学院に所属しています。

ーー私たちの後輩です!大学院でどんな研究をされていますか?

平安時代や鎌倉時代に説かれる仏教説話を研究対象にしながら、現代における仏教伝道を考えることができれば良いなと思っています。

ーー単に文献研究ではなくて、仏教を伝えるための方法論として研究している感じですか?

そうですね。当時の仏教説話を研究していると、時代背景や空気感、説話集をつくった編者の想いも伝わってきます。一方で、現代からみると、差別的な視点があるのも事実です。そういったある種ネガティブなものを単に切り捨てるのではなくて、なぜそういった差別的な要素が含まれているのか、あるいは、それがもたらした影響をしっかりと見ていきたい。

現代における仏教伝道を考えるにあたっても、とても示唆的だと信じて研究をしています。

ーーなぜ、仏教説話に注目されたんですか?

学部は違う大学に通っていて平安時代や鎌倉時代の文学を専攻していました。当時は全然仏教に関心がなかったんですが、文学を勉強すれば勉強するほど、どの文学作品にも仏教の要素が流れていることを知りました。そのときに仏教を学ばなければ、これ以上、理解を深めることはできないと気づきました。

実家で広島のお寺の出身でもあるので、本格的に仏教と文学を研究しようと思い、いまの大学院に進学しました。

ーーどんな風に当時の文学と仏教が関係しているんですか?

例えば、平安貴族の歌遊びのなかに、仏教のお経の一節を抜き取って歌を詠んでいくものがあったります。和歌の伝統にある様々な表現を用いてお経の歌を詠むことは、彼らにとって仏教の道を歩む一つの方法であり、また仏教を伝える一役を担っていたともいえると思います。貴族たちはお経をどう自分の言葉にしていくのかということと真剣に向き合っていたんじゃないかなと思います。

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ーー面白いですね。お坊さんが一方的に仏教を伝えるのでなくて、いまでいうインタラクティブな学びの要素や、口コミ的なマーケティングの要素もあったと解釈できるかもしれません。

歌遊びは貴族で広まったんですが、仏教説話は民衆に広まっていきました。仏教説話も色々とありますが、私が面白いなと思っているのは、インドでつくられた説話であっても日本の文化にあわせて変容してきた軌跡があることです。物語は伝わっていくことなかで変化が生じています。その変化をどう解釈するのかということに関心があります。

ーーお話を聴きながら『死生観光トランプ』も物語的な要素があるなと思っていたんですが、どう思われますか?

死生観も、まさにその国々や民族の物語だなと感じていました。人々の想いがどのように形としてあらわれ、受け継がれ、文化がうまれていくかということがつまっている気がするからです。

なので、物語が伝わるようにイラストを描くことは責任感の重さも感じるところでした。

ーー苦労した点ってありますか?

お題をもらってネット記事を見たり動画見たり勉強しました。どの角度で切り取るのかということは、とても悩みました。イラストでは一つの場面しか表現できないので⋯。イラストを通して、雰囲気や空気みたいものを感じとってもらえたらなと意気込みましたが、なかなか難しかったです(笑)。

ーー強い想いを込めてくださったんですね。

子どもの頃から絵本が大好きなんですが、その物語を思いだすときに必ずイラストや絵がついてくるんです。イラストはその世界観を表現することになると思います。

絵本の絵は衝撃的なので、そのプレッシャーを感じていました(笑)。

ーーイラストのお仕事は普段からされてますか?

自分で描いたイラストを趣味でInstagramにあげていたら、知りあいに頼まれたり、小さな仕事の依頼がありました。描くのは好きなので、お仕事絶賛募集中です(笑)。

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ーー皆さま、お仕事をよろしくお願いします(笑)。『死生観光トランプ』では具体的にどんなイラストを描いてくださいましたか?

エジプト・アラブでは、死者の都市と呼ばれる「エル・マデーフェン」があって、居間や台所、洗面所など生活が可能な巨大な廟があり、墓守が住んでいるってお題でした。

ーーおぉ、死後の世界ですね。まさに物語だ。

色々と調べてみると、本当に素朴に生活している風景が描かれていました。仏教でいう極楽浄土のように綺羅びやかなわけでもなく、キリスト教の天国のように天使がいるわけでもなく。ご飯つくったり洗濯物を干していたり子どもたちが遊んでいたり、あふれる生活感がありました。だけど、そこは実はお墓なんだってギャップが面白い。

ただ、よくよく考えると、その墓守と他の死者はどう違うんだとか。その洗濯物は誰のものなのかとか。ご飯つくるって他にも墓守がいるのかとか考え出すと、調べても出てこないし、もうよく分からなかったです(笑)。

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ーーそうなんですよね、よく分からないんです(笑)。

日本に居続けると、他国の文化に触れあうことは少ないので、自明のことと思ってしまいます。他国の人と出会う機会があっても、死生観について語りあうことは少ないですよね。

異文化の死生観に触れることを通して、「お墓があることはどういうことなのか」とか、「手を合わせるってどういうことなのか」とか、自分たちの死生観のあり方をみつめる機会になるんだなと感じました。あと、弔いの方法や死生観は変容していくものなんだとも思いました。

ーーどういうことですか?

例えば、私がイラストを描かせてもらったアメリカのとある州では、車社会なので、葬儀会場の側面がガラス張りになっていて、一般会葬者は車に乗ったまま、ガラス越しに遺体を眺めて最後の告別ができるってお題をいただきました。

車社会が始まる前はそんな風習なかっただろうし、車社会が終わればそんな習慣は簡単になくなってしまうと思います。

ーーいま日本でもコロナの影響を受けて葬儀の形が変わってきています。社会の変化ともに形式も変わっていく感じが、なんだか似ていますね。

その社会的状況や時代の雰囲気が反映された面もあるのかもしれません、後の人から見れば、なんて滑稽なことなんだろうなと思うかもしれませんが、その時代を生きる人からすると違和感のないことだと思います。

死生観や弔いの作法も、変わること、変わらないこと、変わっちゃいけないこと、変わってほしくないことなど、死生観の変容について問いをもらいました。

ーーでは、最後に『死生観光トランプ』を手にとってくださる方にメッセージをお願いします。

私自身の経験を振り返ってみると「遊び」のなかにこそ「学び」があると思っています。このトランプが死について考えるきっかけになると思うので、まずは、気軽に遊んでほしいなと思います。

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香珠(こーしゅ)
龍谷大学大学院実践真宗学研究科二回生。浄土真宗本願寺派僧侶。研究をしつつ、思い出したときに絵を描いて過ごす。最近ハマっているものは韓国文学のフェミニズム小説。

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▶︎note「香珠(こーしゅ)」

聞き手:藤井一葉
書き手:霍野廣由

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