EP18.【高橋舜平#0】
無力に苛まれた昨シーズン
中身のない声が売り…?
それでも時折見せる真剣な眼差しからは鋭い眼力がうかがえる。
和歌山に移籍した昨シーズン。
優勝を果たした和歌山ウェイブスが誇ったのは佐藤・榎本の二遊間。
2人の巧さを前にした高橋は、自慢の守備力に疑念が湧いた。
「正直試合出れるのかなって思いました。2人ともうますぎて。(自分は)スローイングに自信がなかったから。」
野球を始めた時から慣れ親しんだ“ショート”のポジション。
すながわリバーズ(北海道ベースボールリーグ)在籍期間にも健在だったその自信は、瞬く間に不安へと変化した。
オープン戦ではサードに周り、シーズン中には外野で出場することもあった高橋。
居場所を求め、複数ポジションに挑戦を図ったものの、やはり出場機会には恵まれなかった。
「落ち込んではいました。けど、練習するしかないなって。」
度重なる怪我もあり、思うようなスイングができずにいた中、シーズン途中から左打席への転向を決意した。
結果立った打席は10打席。
シーズンも半ばごろに放った1本の安打は、終わってみると最初で最後のヒットとなった。
「ヒット自体は嬉しかったけど、客観的に俯瞰して見てみたら“ダメじゃね?”って思ってました。」
アルバイトを強いられながらの独立生活。
生きていくのに必死だったと語る昨シーズンでは野球と向き合う時間も確保できず。
ようやく生活が落ち着き、気持ちに余裕が生まれたのはシーズンも終盤に差し掛かった9月のことだった。
「悔しいの一言です。シーズン中は生活でいっぱいだったんで。来年は絶対見返してやろうって思いました。」
寮も移り、住環境が整ってきたオフシーズン。
心を入れ替えさらなる基盤づくりへと目を向けた。
「12月から寮も変わってウエイトトレーニングを取り入れました。それが西村さんが来たことでインボディも気にするようになって。点数も少しずつ上がってきてます。」
人一倍苦難を噛み締めた時間は長い。
足掻きもがいた暗闇を超え、羽ばたく準備は整った。
磨く財産は武器とポテンシャル
「本当にいい環境が揃ってて、もう言い訳とかできない環境なんで。今年は絶対結果出すっていう風にやってました。」
奮起を誓った今シーズン。
オープン戦から手応えを感じていた高橋は、日を追うごとにウエイトの恩恵も感じていた。
「守備で特に(ウエイトの効果は)感じます。際どい球に追いつくようになったり、長い距離を放れるようになったり。元々目指してた動きがウエイトトレーニングによってできるようになってきたって感じです。」
自他共に成長を実感したオフ期間からキャンプ期間。
オープン戦時には思わぬ怪我に悩まされ、開幕スタメンとはいかなかったものの、首脳陣からの評価も順当に上がり、徐々に出場機会も増していった。
心身ともに準備万端。
満を持して挑んだ今季だったが、新たな刺客となった岡村の参入によりレギュラー獲得のハードルが一気に跳ね上がった。
「めっちゃ悔しいです。岡村さん超えないと試合に出られないんで、常に意識してます。ほんとに何言ってんだって言われるかもしれないですけど、見習うところは見習って、岡村さんより優れてるところはもっと伸ばしてって感じでやってます。」
“守備率10割”を目標に掲げ、歩み始めた今シーズン。
胸に抱えた圧倒的な自信を語ってくれた。
「(守備には)自信もあるしこだわりもある。最近はバッティングに時間を割きたいから守備の時間は短時間ですけど、めっちゃこだわってやっています。スローイングはあんまり得意じゃないけど、捕るのは絶対捕れます。」
いつになく歯切れの良い返答が返ってきた。
費やした時間とかける想いが伝わってくる。
それでも今シーズン、39試合を終えた現在(9月4日時点)で記録したヒットは4本。
負けられない存在が自分を引き立てる。
「まずはフィジカルの課題が一番ですね。インボディで90点に乗せたい。来シーズンとかになっちゃうかもしれないですけど、フィジカルが変われば結構変わると思ってます。バッティングもそこそこ打てるんじゃないかな。」
先に広がるポテンシャルは無限大。
持ち前のボディバランスは昨年躍動の年を迎えた佐藤大介を彷彿とさせる。
立ちはだかる高き障壁を乗り越えて、自らの手で頂の座を掴み取れ。
元自衛隊員の肩書きを背負って
高校卒業後、周りの生徒が大学へと進学する中、流れに反して自衛隊員として過ごしていた。
期間にして約1年半。
もちろん野球とも離れていた。
“いつか野球界へ戻ってくる”
そう思いながらトレーニングと集団行動に明け暮れていた。
「自衛隊やめるか人間やめるか。ほぼそんな感じのこと言われました。人間としての尊厳捨てろみたいな。」
お国のために動く精神が染み付いた1年半。
“はい!はい!”と素直に人の言うことを受け入れるマインドはこの頃に築き上げられた。
「今でも友達とかと一緒に歩く時、足踏み揃えちゃいますもん(笑)。」
嘘か真かは神のみぞ知る。
掴みどころのないキャラクターに、意外なエンディングを期待する。
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