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EP8.【橘貫太#4】

天邪鬼な現役高校生
ハマらない型で常識を破る

力試しで受けたトライアウト

令和5年、日本高等学校野球連盟に所属している部員数は12万8千人だった。
その中の何人が部活動を辞めてまで、独立リーグに進むことを決断できるだろうか。

入部当初とは打って変わり、冷めていく周りの熱量に物足りなさを感じた橘は、高校一年生の秋に所属していた野球部を退部した。

しかしそれは野球への想いが消えてなくなったわけではない。
案の定、行き場のない気持ちが自分でもわからなくなっていた。

そんな中、母親に教えてもらい“さわかみ関西独立リーグ”の存在を知った橘は、抱えた葛藤を確かめるべく、15歳にして独立リーグのトライアウトを受験することを決断。
野球部を辞めて1ヶ月後の話だった。

「ほんまに受かると思ってなかった。」

経験を積むため。自分の気持ちを確かめるため。
ものは試しにと受験したトライアウトで、見事和歌山ウェイブスからお声がかかった。

「野球を続ける迷いはなくなっていた。それより高校に対する不安が大きかった。」

それまで大阪府内の普通高校に通っていた橘は、和歌山県内の通信制高校に転入。
親元を離れて初めての寮生活を送ることになった。

それでも充実した日々に表情は明るい。

技術や考え方のレベルが全然違う。全員が常に上を目指している。高校は質より量をこなすが、独立リーグでは質へのこだわりを持った上で量をこなすから面白い。」

小学校の頃からプロ野球選手になりたかった橘。
今まで身を置いてきた環境との差に、心を弾ませながら野球に打ちこんでいる姿を見ると応援のしがいばかりが募る。

それでも蓋を開けてみるとまだまだ16歳。
持ち前の愛嬌と肌のツヤを売りに、年上メンバーからも“貫太”と呼ばれて可愛がられている。

「寮のメンバーは年が近いこともあり仲が良い。特に堅木さんは言動一つ一つが面白い。」

真面目な話には熱心に耳を傾け、プレー以外では戯れ合う姿もよく目にする。
共に練習する野手との距離は近づく一方だ。

そんな橘には思い描く理想の選手像がある。
そこには自分が歩んできた野球人生と至極密接なプレースタイルが詰まっていた。

持ち前のユーティリティで磨く柔軟さ

6歳の頃から野球を始めた橘は、小学生の頃から色んなポジションを守ってきた。

時には投手、時には捕手。
もちろん内野手や外野手を守ることもあったという。
複数のポジションを任されることで、色んな場面に対応できる柔軟性が備わってきた。

投手を任された経験も

「理想の選手は今宮(福岡ソフトバンクホークス)。考え方が柔軟で、ゴロの捕り方一つでも、“絶対にこうしろ”とかがない。」

暇さえあれば今宮のプレー動画をよく観るほど。
そのスタイルはなるほど、やはり“型にハマらない”型だ。

「(自分が)ひねくれていて、指導を受けても“こうした方が良くね?”と反発も良くしていた。」

毎回同じ指導の繰り返しには嫌気が差し、次第に粗探しをするようになっていったと振り返る。

それでも和歌山へ合流したての頃は、焦る気持ちからか言われたことすべてを実践しようとしていた。まるでロボットの様に。

「堅木さんに、“全部やる必要はない。自分に合ったやつだけやればいいし、全部を鵜吞みにする必要もないよ。”と言われた。めっちゃ良い人です。」

この言葉を機に、言われたことしかやってこなかった過去から一転、言われたことを自分の中に落とし込み、噛み砕く過程が一つ生まれた。

練習の行き来から竹鼻と同行している橘は、共に藤原コーチから指導を受けることも多い。

「バッティングが一番成長している。楓(藤原)さんから癖を指摘されたのが影響で、飛距離が伸びてきた。」

竹鼻(左)と意見の共有をする

あれは必要、これは要らない。
もちろん自分が受けてきた世界というものはあまりにも狭いが故に、そんな少ない経験値から是非を判断できるほど全知全能なわけはないが、考えたうえで取る行動は得られるものがあまりにも大きい。

「今年は頑張ってスタメンをとりたい。もちろんショートで。」

憧れの選手と同じポジション。
強いプライドと持ち前の柔軟性を武器に、独立リーグ界に一風を巻き起こせるか。

異種目にもわたる多様性

父親に連れられ高校野球を観に行った影響で始めた野球。
実はそれより3年早く少林寺拳法にも励んでいた。

あどけない表情で少林寺拳法を楽しむ

高校野球を辞めたタイミングを機に、割く時間が減少傾向にあった少林寺へと移行することも考えていた。
野球に魅了されている現在は充実した表情を浮かべるものの、時たま少林寺への楽しさを思い返すこともあるという。

その他習い事としては水泳(小学校4年~6年時)も経験。
自分の体を資本に活かす競技経験が豊富だった。

“ピッチャー、キャッチャー、ファースト、センターが好き”
バリエーションに富んだ競技経験が広範囲に興味を惹かせているのか。

だとしたらそれが一つ“橘の型”なのだろう。

多くの人の常識とは遥かにかけ離れた野球人生を歩んでいる。

いわゆる07世代。
新たな時代を作る第一人者として、多くの人に希望と勇気を与えることができるか。

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