2023年度研究書評 秋学期まとめ

今回の記事は研究書評 秋学期verです!


1/18研究書評(今年度の総括)

今回は最後の研究書評ということもあり、今年度の研究まとめについてお話ししたいと思います。

序論(主張)
日本の経済成長には技術開発を目的とするベンチャー企業の創出が必須でありそのために経済特区とVCの創造を可能にする必要がある。本年度は経済特区の創出に焦点を当て研究を行った。そこで明らかとなったのは日本の政策過程においてforoleが定義するような経済成長を目的とする経済特区の前例はなく、諸外国をモデルケースとして検討することが求められた。加えて、政策提言下で何が障壁となり経済特区政策が執り行われなかったのかを検討する必要があるため政策過程論の知見を広げる必要があると考えた。

本論
 日本のGDP成長率は年々減少傾向にあり、実際のデータとして2023年7-9月期の成長率は-0.7%とマイナス成長を遂げている。このことからも日本の経済成長に関する政策提言が急がれている。では経済成長には何が必要なのであろうか。
ここで経済成長因子を発見した理論モデルであるソローモデルをもとに考察する。ソローモデルでは経済成長には技術・資本・労働の3要因が影響していると明らかにした。その中でも技術改革こそが成熟した社会の経済成長には影響を与えるとされている。(資本が変数となった場合定常状態に陥るため経済成長に直結しない。労働は発展途上の国においては爆発的な影響力が期待できるものの先進国には当てはまらない。加えて国内総生産の向上を図ることはできるが、一人当たり所得の減少の問題が生じる)技術開発を図る際、政府の研究費を増加させる等の政策を打ち出すことも考えられたが、本研究では外貨の獲得、雇用の創出というその他観点からも技術開発を目的とするベンチャー企業の活性化に焦点を当て研究を行うこととする。
 次にベンチャー企業が陥る課題であるが、ノウハウと資本の不足が考えられた。この改善のためには企業間連携を図ること、国内外の資本導入が求められており、具体的には経済特区とVCの創出を検討し文献調査を行った。(今年度は経済特区の考察に焦点を当てた)経済特区の定義はForole(2011)によると1.FDI(海外直接投資)の誘致2.失業率を抑えるための機能3.国家改革戦略の支持4.新しい経済政策の試験的実施のためのモデルケースとすることの4つが挙げられている。しかし、日本では経済特区は地方創生政策として扱われ、企業優遇に関する具体的制度は執り行われなかった。ここから日本ではforoleの定義に則した経済特区は存在せず、諸外国をモデルケースとして政策提言を行う必要がある。加えて、なぜこのような政策提言しか行われなかったのか、何が政策提言の障壁となっているのかを政策過程論の観点から考察する必要があると考えられた。

展望
来年度はVCの検討も並行して進めることと、政策過程論の知見を広めることで、何が政策提言下で障壁となっているのかを明らかとする。最終的には真に必要とされる経済政策は何かを検討及び提言をし、その評価を行いたい。

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。来年度も尽力いたしますので、何卒よろしくお願いいたします。

1/11研究書評

明けましておめでとうございます。今回の選択文献は野口 旭による「経済政策形成の論理と現実」です。選択理由は今までの研究から経済特区政策において問題となるのは政策過程によるものだとし、経済特区そのものでなく政策過程論等についても考察すべきであると考えたためである。

内容
本論文はある経済政策がその実現に成功あるいは失敗するメカニズムを理論的および実証的に解明することを目的としており、現在の経済政策は様々な政治的背景により決定されるのであり、経済学とは別の論理が働いていることを主張している。特に経済政策が実現されるかどうかは特定の課題に対する一般社会の認知と判断に基づくとし、専門知と世間知が大きく異なる場合、経済政策のような公共的意志決定において望ましくない結果がもたらされる可能性があると述べられている。また、本論文においては時系列ごとに経済政策がどのように形成され、成長してきたかが記されている。まず、ジェームズブキャナンは政策に関する政治的決定がなされる構造そのものに着目すべきことを主張し、合理的選択政治理論という研究分野の先駆けとなった。合理的選択政治理論は人々の政治行動は個人の効用最大化行動として把握されるべきだとし、人々の合理的選択はある政策がどのような利害得失をもたらすのかに関する人々の思考枠組み=モデルに依存しているとされた。しかし、ケインズはケインズは『一般理論』の最終章で、既得観念は既得権益よりもはるかに重要であることを指摘しており、経済政策形成において既得観念と既得権益のどちらが重要かについては異なった立場が存在していると述べられた。
またこれらの実例として昭和恐慌と平成大停滞をあげ、専門家のデフレ脱却の声とは裏腹に世論ではデフレ容認論が主流だったとされている。これにより、現実の政策形成においては、人々 の既得観念は時には専門家の持つ科学的知見よりも大きな意味を持つことが明らかとなった。

総括
政策過程において専門的知見だけでなく、世論の既得観念が密接に影響することが明らかとなった。一見当たり前のようであるが、研究においてただ論文や学術書を参照するだけでなく、世間のトレンドを掴む重要性に気付かされたと感じる。また、政策過程にはイデオロギーや政治的意図が介入するため、今までの経済特区政策においても日本の発展という立場から特定の地域における大規模な経済成長と比較し、国土の均等ある発展のように地方創生政策が優先されたという考察ができた。加えて、合理的選択政治理論等の学術的知識が少ないと感じるため知見を広げるべきだと感じた。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでくださりありがとうございました。


12/7研究書評


こんにちは。今回の選択文献はHazakis, K. Jによる" The rationale of special economic zones (SEZs)" です。選択理由は前回の文献から、本来経済特区政策(SEZ)とは特定地域に優遇政策をとることで経済活動を他の地域より容易にし、その経済成長を他の地域へ波及させることを目的とした政策であるにもかかわらず、日本では「国土の均等ある発展」という観点で地域創生政策として扱われた結果、期待された経済的効果は見られなかったということだった。そこから、日本において海外を例とするような突出した経済効果を生み出すSEZの創造を可能にするには何が必要になるかを改めて検討する為である。

内容
多くの国家において、産業医空洞化している地域や開発途上地域の競争力を高めるためSEZの設立が活発になっている。そこで本文献はSEZの理論的根拠について方法論的アプローチから分析し、理解を深めるために作成されている。まず、SEZの概念的定義であるが、多くの経済学者の中で複数の定義が曖昧に使用されている状況にあるという。Farole(2011)はSEZの定義は構造的特徴と政策的特徴が含まれるべきであるとし、主に1.経済特区は特別な法制度によって運営される区切られた地域である。2.政権の運営には専用の統治機構が必要である。3.区間内で活動する企業の活動をサポートする物理インフラが必要である。と述べている。
他にも、1.FDI(海外直接投資)の誘致2.失業率を抑えるための機能3.国家改革戦略の支持4.新しい経済政策の試験的実施のためのモデルケースとする。などが挙げられている。
次にSEZの要素であるが、主にSEZネットワーク及び効率的な制度が重要であるとされていた。SEZネットワークとは組織の記録?のことをいい、企業間のつながりや構成規範などにより、SEZのパフォーマンスやアイデンティティを高めるとされている。(ブランディング等に関係があるのか?シリコンバレーにある企業は一流的な)加えて、効率的な制度は法整備等の改善を図り、面倒な手続きのない起業家環境の生成が必要であると述べられている。にもかかわらず、主な障害として一貫性のない政策ツールが問題であるとされていおり、これでは生産性の高い法整備が進んでいかないと考えられた。また、政府の介入などによる統治機関と経済活動主体の相互性の改善を図ることが求められている。これらの改善を図り、経済特区が輸出志向・中・高付加価値部門の生産性向上・世界的な生産・貿易ネットワークを重視する市場思考の政策に盛り込まれれば、国の構造変革の触媒となりうると述べられている。

総括
今回の文献を読んで自身の研究においての経済特区の定義を行う必要があると考えた。また、やはりこの文献においても経済特区は輸出志向で高付加価値のある製品の生産性向上のための政策となるべきだと述べられていたため日本の経済特区戦略とは大きく違いがあると考えた。また、日本において経済特区の促進を図るには、経済成長の波及を目的とした地域を特定し、試験的かつ迅速に法制度を緩和することが求められていると感じた。政策提言においてスムーズで寛容であり尚且つ一貫性のある提言が必要であろう。(日本においての必要事項→1.政策の一貫性2.法整備の迅速かつ寛容な変更3.経済成長と技術革新を目的とした経済特区のブランディング)

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献
Hazakis, K. J. (2014). The rationale of special economic zones (SEZs): An I nstitutional approach. Regional Science Policy & Practice, 6(1), 85-101.

11/30研究書評


こんにちは!今回の選択文献は八並廉(2016)による「日本における経済特区の導入と変遷: 国際取引法からの一考察」です。選択理由は以前からの文献研究によって企業活性化VC、経済特区の増加が必要であることが考察できたが、ではなぜ日本ではうまくいかないのか、政策上の問題はないのかについて考察するためこの文献を選択した。

内容
本文献では日本における経済特区の変容を時系列ごとにまとめて記載されている。特に経済特区導入に消極的であった20世紀初期の導入時期から徐々に発展していく21世紀までを前半と後半に分けて考察している。
まず、20世紀初期の経済特区導入時期についてまとめていきたい。当時、日本政府は経済特区政策について国際競争力強化のために有効な策だと捉えていなかったことから導入について非常に消極的であった。しかし、近隣国まで経済特区の創造が波及したことを契機に経済特区に関する議論がようやく行われるようになった。戦後の経済特区の最初の例はアイルランドの自由貿易区域(1959年)であるが、日本で初めて経済特区に関する議論が行われたのは1980年と約20年もの期間が空いている。そして日本で最初の経済特区が敷かれたのは沖縄であり、活動が本格化したのは2000年前後であるという。しかし、当時の日本では「国土の均等ある発展」を目的とした地域間格差の是正を測っていたため沖縄が突出して経済効果を生み出すわけではなく、加えてその効果を波及させることもなかった。
次に21世紀になると経済特区の創出に関しての考え方が変容し、議論が活発化し始める。ここでようやく国家経済の活発化を図る有効な策という認知が出始めた。21世紀の政策に関してはアベノミクス下で行われた国家戦略特区に触れたい。この主な目的は日本を世界で最もビジネスがしやすい環境にするということであった。そのため導入当初から国際取引を活発化することで国内経済全体を活性化させることを念頭においており、地方創生特区とも呼ばれるようなった。そのため新潟市,養父市,福岡市,及び沖縄県が,第1次国家戦略特区として選出された。

総括
21世紀になって20世紀に普及していた「国土の均等ある発展」という概念と決別し経済特区に関して積極的になったとされていたが、アベノミクスによる国家戦略特区でも選出されたのは地方都市であり、その後も地方創生政策として焦点を当てられたことが問題だと考える。特に国家戦略特区は本来ビジネスがしやすい環境にすることが目的とされていたのにも関わらず、創業支援に関しては具体的に投じられた策があまりにも少ない。また、以前の文献調査でも経済特区はパフォーマンスの維持が極めて困難であり、規模の大きさがパフォーマンスに直結するといった論述があったのに対し、日本の経済特区政策では複数の発展途上の地方都市を選出していることから従来の「国土の均等ある発展」という概念から抜け出せていないことが考えられる。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
八並廉(2016)「日本における経済特区の導入と変遷: 国際取引法からの一考察」香川法学, 36(1・2), 37-64


11/23 研究書評

こんにちは!今回の選択文献はSusanne A. Frick等による”Toward Economically Dynamic Special Economic Zones in Emerging Countries” です。選択理由としては中間発表時に挙げた中国の双創政策にても経済特区の設立は注力すべき点だと考えられていたためである。

内容
経済特区(SEZ) の人気と重要性は、過去 20 年間で急激に高まっている。 1986 年には 47 か国で176 の経済特区が確認されていたが、2006 年には国際労働局 (ILO) のデータによると 130 か国で 3,500 の経済特区が登録されたとされている。(Singa Boyenge 2007)。 外国投資顧問局 ([FIAS] 2008) は、2000 年代半ばには経済特区が輸出のほぼ 20% を占め、発展途上国で 6,000 万人以上を雇用したと推定しています。以上からも経済特区は、輸出の促進、経済の多様化、直接的および間接的な雇用の創出を目的として推進されてきた。しかし、この効果に関する定量的な研究はされてこなかったため、本稿にて経済特区が機能する理由?(成長する要因)とインセンティブについて明らかにする。結果として経済特区は経済成長に関してそれほどのプラスの影響を持ち合わせていないと考えられた。理由としてはパフォーマンスの維持や付加価値をつけることの難しさや規模の大きさがパフォーマンスに直結するため、新興国が大規模の経済特区を拡充させること困難であるとの記述がなされた。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献
Frick, S. A., Rodríguez-Pose, A., & Wong, M. D. (2019). Toward economically dynamic special economic zones in emerging countries. Economic Geography, 95(1), 30-64.

11/16 研究書評15

こんにちは!今回の選択文献はWooseung Lee等による”Business Sustainability of Start-Ups Based on Government Support: An Empirical Study of Korean Start-Ups” です。選択理由として私が行おうとしている研究及び政策提言と酷似しており、韓国という文化や人口動態等が似通った国における先行研究であるため自身の研究の糧になると考えたからだ。

内容
新興企業の重要性は2000年代半ばから注目されており、特に雇用創出や経済成長の観点で期待されている。事例としてGoogleやUber、Alibabaなどの大手IT企業はスタートアップブームによって生まれ、短期間で急成長を遂げた企業である。加えて、OECD諸国の中小企業の割合は全企業の95%であり、新規雇用の約70%を有していることなどからも新興企業が持続可能性を保つことは政策提言として有効であると考えられる。そのため本文献では政府の支援に基づいた新興企業のビジネスの持続可能性を誘発する重要な要因を明らかにしている。
結果としては大きく3つの要素が関係しているとされた。まず、フロー体験である。フロー体験とは心理学用語で没頭することを意味し、新興企業のより探索的な活動を促進し、創造的なアイデアを実行する能力を高めるとされている。これはビジネスの初期段階にて重要となることと考えられる。次に起業家の満足度である。これは新興企業における非財務的パフォーマンスに寄与しており、この点を支援及びコントロールすることにより持続的発展につながると述べられている。最後にネットワークである。これは起業家とVC及びエンジェル投資家などとを結びつけることにより財務的支援やメンターの獲得につながり激しい競争下を生存する重要なリソースになりうることが考えられる。以上の3点が政府の支援に基づく振興企業の持続性に役立つ要素だとされている。

総括
今回の文献では新興企業に対する非財務的アプローチに焦点が当てられており、VCの重要性等にはあまり触れられなかった。自身の考察では新興企業にとってVC等の資金援助が根本的な解決策では無いかと考えてしまうが、多くの文献ではメンターの獲得などが強調されている。今後も引き続き新興企業及び中小企業にとって財務的アプローチが効果的かそうで無いのかについて考察すべきだと感じた。また、今回の文献では前提として政府の支援に基づいた新興企業というものが対象として挙げられていたため、非財務的アプローチに焦点が当てられていたのかもしれない。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
Lee, W., & Kim, B. (2019). Business sustainability of start-ups based on government support: An empirical study of Korean start-ups. Sustainability, 11(18), 4851.

11/9 研究書評14

今回の選択文献は秦信行による「日本のベンチャーキャピタルの発展と残された問題」です。

内容
まず著者はベンチャーキャピタル(以下VC)を分析するにあたりVCの発展してきた歴史について述べている。VCは第二次世界大戦以前にアメリカの富豪による新興企業への投資が由来であると考えられている。また戦時中から戦後にかけて軍事技術開発を民生用に置き換えて新規事業を立ち上げることが一つの目的とされ世界初のVCの誕生及び発展につながったと考えられている。
一方日本では1970年初頭に日本初のVCが設立されたと見られており、アメリカと違い日本では中小企業の自己資本の充実にあったと考えられている。加えて、1980年代の日本のVCでは「死の谷」と呼ばれるような資金調達が困難な時期の新興企業に投資されることはほとんどなく、中堅企業に対する上場のための支援活動であったに過ぎないとされている。しかし、1998年に日本初の独立系VCが誕生したことやインターネットが普及したことなどから「死の谷」の状況下であるベンチャー企業への投資や業界期も拡大したことものの、2008年のリーマンショックの影響により拡大傾向も長くは続かなかった。このような歴史がある中で現在のVCは主に2点の問題を有している(抜粋)1つ目は資金不足である。他国と比較した場合でもアメリカは年間14兆円、中国は4兆円弱であるのに比べ日本は年間8000億円と圧倒的に少ない。原因の一つとして公的資金からのVCファウンドへの出資額が少ないことが挙げられる。アメリカでVCファウンドが急激に拡大したのは年金基金の運用における規制緩和が行われ、そこからVCファウンドへの出資が行われているためである。しかし日本では依然として年金基金からの出資は行われておらず改善の余地があるとされている。2つ目に人材不足である。日本は独立系VCが誕生し約20年ほどと短く、経験豊富なキャピタリストが育っていないことや志望者が依然として少ないことが問題として挙げられる。このことに関して、キャピタリストの経済的処遇の開示を促し、人材育成に努めることが求められている。

総括
今回の文献においてはデータを用いない著者の主観による発言や伝聞による記述が目立ったため信憑性は低いと考えられる。また、日本の年金資金からのVCへの出資はないと記述されていたものの、それ以外の公的資金からの支援は確認できたため特に年金基金に絞らずとも良いのではないかとも考えた。(日本のVC資金量が少ないのは事実ではあるが)また、本文献内に2011年の東日本大震災を機に若者たちの意識改革が起こり、起業活動につながったというような記述がみられたが、ここに因果関係は見られないと感じ、甚だ疑問である。

参考文献
秦信行(2019)「日本のベンチャーキャピタルの発展と残された問題」日本ベンチャー学会誌, 34, 13-25頁

11/2 研究書評13


今回選択した文献は新井皓貴等による「日本の CVC の実証研究: CVC の参入要因及びパフォーマンス検証」です。

内容
日本においてコーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下CVC)を促進する企業は年々増えつつあるものの、諸外国に比べ少ないことが現状である。また、CVCに関する定量的な調査は行われてこなかったため日本のCVCの実態及び特徴を明らかにすることを目的に調査されている。本文献におけるCVCの定義とは、大企業からのベンチャー投資をさし、主に3つに分けられる。1つは独立系VCによるLP出資(ファウンドへの出資を通じたベンチャー投資)次に本体企業(親企業)からの出資、最後に企業の自己勘定ファウンドや投資専用子会社を経由した投資に分けられる。本文においては日本のCVC設立数などのデータから、KDDIや楽天といった企業による情報通信業のファウンド設立が34%を占めており、そのほかでは不動産屋陸運業など以前から独占が強かった業界でのCVC設立が多くなっている。
また、海外比較としてアメリカと日本でのCVCのリターン目的を比較したデータでは、我が国はCVCによる戦略的リターンを目的として設立されて(親会社とのシナジー実現及び親会社のメリット追求)いるのに対し、アメリカは財務リターンを狙うものがほとんどであり純粋なキャピタルゲインの追求を目的としている。また、導入原因・背景の面では日本において既存事業及び自社の収益性が減少したことによるCVCの開始が多かったものの、アメリカでは特許数の減少による内部イノベーションの悪化抑制のためにCVCを開始するとの分析結果も見れたことから、リターン目標との矛盾が感じられた。

今回の書評はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

10/26研究書評12


今回、選択した文献はスコット・シェーンによる"Why encouraging more people to become entrepreneurs is bad public policy" です。
選択理由としては私が経済成長には企業勃興が必要であると言っているのに対し、著者は真逆の立場から議論を行なっているためです。この文献を通して再度自分に批判的立場から研究を俯瞰したいと考えています。

内容
多くの人や経済学者が経済成長のために新規企業を勃興させるのが良いとしているがそれは大きな間違いであり、実際にはベンチャーキャピタルによる成長可能性を秘めたビジネスへの投資を行うことだとされている。まず、本文献においてなぜ企業勃興政策がいけないのかを2つの神話に即して述べられている。ここでは研究に関わる経済成長の神話について述べる。(もう一方は雇用創造の神話)米国における多くの新興企業は小売などの事業形態で創業者自身の貯蓄を資本化したものがほとんどであるという。これは技術開発や成長を目的とした企業ではなく、雇用や富の創造が期待できない。また、新興企業は既存企業に比べリソースの運用及び生産性が悪く、ほとんどの企業が5年で潰れてしまうため経済最長は期待できないと述べている。また、政府が介入し起業のハードルを下げた場合、多くの起業家は参入障壁の少ない業界を選ぶため自然と競争率が高くなることもが考えられる。ここでの起業家層にも問題があり、技術のある起業家よりも失業者の方が起業する割合は高く(仕事を辞めるリスク)それでは政府の望むような起業家は現れないとされている。
そしてこの解決策として著者はベンチャーキャピタルにより成長可能性を秘めた既存企業に投資することが求められているという。通常成熟した社会形態では起業率が減少することは必然であり多数の典型的な起業家を増やすのではなく、少数の企業を高成長させていくことが求められている。ここでドイツとの比較例を述べる。ドイツでは失業者を起業家に帰るため年間120億ユーロ投資しているがこれは米国のベンチャーキャピタルの200億ドルとそこまで離れてはいない。にもかかわらずドイツでは有効な効果が出ていないのもも米国では2003年にベンチャーキャピタリストに支援された企業が1,000万人、つまり米国の民間部門の労働力の9.4%を雇用し、1.8兆ドルの売上高、またはこの国の事業売上高の9.6%を生み出したと説明されている。このことから既存企業への集中投資が経済成長と雇用創造に有効であると述べられている。

まとめ
本文献において前提として米国を対象とした議論が行われていたため日本に置き換えて考える場合相違点があると考えた。まず、失業者が起業家になりやすいといった記述があったが、日本ではそのようなデータや記述は見受けられない。しかし、以前も述べたようにベンチャーキャピタルの可能性は無視できないように思えた。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
Shane, S. (2009). Why encouraging more people to become entrepreneurs is bad public policy. Small business economics, 33, 141-149.

10/12研究書評11

今回の選択文献は2022年に経済産業省等から発表された「中小企業活性化パッケージ」についてである。この文献を選択した理由は先日行った経済発展に関する要素分解において今ままで念頭に置いていた「起業勃興が日本の経済発展を助ける」といった前提ではなく、「経済発展と企業は密接に関わりがあるが起業勃興の必要はない」のではないかと前提を問い直し研究を進めているからである。
内容
この中小企業パッケージは、2022年に経済産業省から金融庁・財務省と連携の上、コロナ資金繰り支援の継続や増大する債務に苦しむ中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを促す総合的な支援策を展開するために作られた政策である。まず、コロナ禍での資金繰り支援に関してはセーフティネット保証4号(突発的災害(自然災害等)の発生に起因して売上高等が減少している中小企業者を支援するための措置)の延長や実質無利子無担保の融資継続などがあった。また、中小企業の収益力改善及び事業改善などの包括的支援に関しては伴奏強化(いわゆるコンサル的な?)やガイドラインの作成、ファンドの拡充などがみられた。これらから資金援助が一般的な援助方法であることが確認できるが、伴奏支援などの経営知識や組織的な強化を支援する物も見られた。(ただし、この支援がどれだけ効果があったかは記載されていない)

総評
今回の資料を読んで政府が行なってきた中小企業への具体的支援については確認できたもののその効果などについては確認できなかった。実際このような支援を行なっていても2022年度の廃業率は減少傾向であったため効果があるとは言えない。(コロナ禍というイレギュラーは考慮すべきだが)また、企業活性化という面で見れば日本において中小企業は99.7%とほとんどを占めているため、研究対象において中小企業の活性化ということにフォーカスしていくことも念頭に入れようと思う。

参考文献
経済産業省, 金融庁, & 財務省. (2022). 中小企業活性化パッケージ (関連施策集). 政策特報/自由民主党政務調査会 編, (1640), 8-14. http://www.yatsugatake.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/a81b2654c5afd84cb15733bdc11c2d93.pdf

9/28研究書評10


今回の文献である「中国の起業ブームとベンチャーファイナンスの動向」を選択した理由は国の政策という観点から他国に視点を変え、他国がどのように企業勃興に対する政策を執り行ってきたかを比較検討するためである。また、中国という社会主義国がなぜ急激に起業数を伸ばすこととなったのか興味深かったためである。
内容
本文献では中国の起業ブームとその要因について述べられており、中国では4つの起業ブームがあったとされる。その成功要因として著者は中国政府の政策的な後押しと、情報リテラシーの変化を挙げている。まず、政策の後押しに関しては過去の海外留学帰国者などの一部の層を対象としたものとは違い、「双創政策」が特徴であると考える。具体的には起業阻害要因の排除、一部減税、資金調達の援助などである。また、文献内ではインキュベーション施設の増加も起業予備軍の視野を広げることとなった要因であると取り上げられ、中国全土のうち42.4%が中央政府から政策的な支援を受け取っているとされており、インキュベーターの増加に応じて起業数の増加も確認されている。次に近年起こっている起業ブームの中で特徴的なのがミレニアム世代の情報リテラシーの向上である。それにより世界的な起業背景が変化し少ない資金で企業が可能になったと言える。このことに加え、中国はベンチャーキャピタルの増加の後押しもあり起業ブームの成功を果たしたのだと言えよう。
総評
本文献において、中国の双創政策は日本の政策とは違い国民全員に幅広く起業機会が設けられていることに特徴があると考えたため双創政策についても引き続き考察を続けていきたい。また、中国の起業ブームの後押しとして情報リテラシーの上昇とベンチャーキャピタルの増加が考えられたが、情報リテラシーに関しては日本も同様に上昇しているため特にベンチャーキャピタルについて日本との比較及び今後の研究の参考にしていきたい。
参考文献
藤田哲雄「中国の起業ブームとベンチャーファイナンスの動向」 日本総合研究所調査部、Rim: 環太平洋ビジネス情報、(64), 1-24頁、2017年

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