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【小説】

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僕の姉ちゃんが死んだ。 じいちゃんと僕、そして姉ちゃんとの笑って泣いた愛しい時間。 だけど、きっと僕はここに立ち止まってもいられないだろう。 祖父を介護してたときに書いた物語。…
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2017年12月の記事一覧

小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」  1

小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」  1

 その日は朝から歯が痛かった。 どこの歯が痛かったのか、結局忘れてしまうくらいなのだから、虫歯ではなかったのかもしれない。 

 歯が痛くてわざと三メートル向こうに置いた携帯電話を視界の隅で意識しながら、僕は歯イタを耐えていた。 鳴らない電話を憎らしく思うのは、僕がそれが鳴るのを待ち焦がれていたからだ。電話はいつまでたっても鳴らない。 

 僕は鏡で口を広げた奥を眺めたり、窓を開け放しては外の風に

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小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 2

小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 2

 僕はねえちゃんの額に触れた。

「あやこ、あやこ」と呻きながら、じいちゃんがイリニウムの床に座り込んだ。病院が手配した葬儀屋が来るまで、それからあまり時間はかからなかった。 

病院の裏口で主治医と看護師たちが見守るなか、僕らと姉ちゃんは葬儀屋の黒いワゴン車に乗り、そして見送られた。その晩、僕は姉ちゃんのそばから離れなかった。 

 じいちゃんは、わしも絶対寝んぞ、と言っていたのに、酒を飲んでい

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小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 3

小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 3

それから三日後に姉ちゃんは決まっていた就職先に電話をして、就職を辞退した。近所の書店でバイトをしながら、家のことをするようになった。じいちゃんと僕の食事の用意、掃除に洗濯。だらしない僕を母さんと似た口調でたしなめた。

「ロウソクが小さくなっとるぞ」
 僕は慌てて燭台に新しいロウソクを灯した。
 じいちゃんは姉ちゃんのそばに寄って、その顔を見下ろした。
「じいちゃん、目が覚めたの?」
 その問いに

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