水面に光る(22.09.21)

・メンタルがゴリゴリなのでフィクションに逃げます。思いつきの百合。

・足を捻ったのだけれど、顧問の言う通りバレー部活動を続けていたら見事に悪化した。そのせいで今日は見学だ。プールは大好きな授業なのに。
 いつも通りに水着に着替えたクラスメイトがぺたぺたと足音を立てて行く。私は体育着だし、足元は体育館履きと片方はスリッパだ。炎天下に庇が常備された見学スペースは、その配慮がなんだかとてもダサく感じる。そんな配慮に守られている私も。
 ため息を吐きながら日陰に区切られた空間に入ると、先客がいた。誰かは分かりきっている。クラス一の優等生で学級委員の前崎さんだ。水面を反射しゆらゆらと光るストレートの黒髪。膝小僧を指先で触りながらぼうっとプールを眺めていた彼女は私に気づくとはっと目を見開いて、にこりと笑った。純粋な印象の瞳だった。
「見学? 珍しい」
「悪かったですね。お邪魔します」
「悪いなんてことないよ」
 私はへえへえと小さく礼をしながら、彼女が端に寄ってくれたベンチに腰を下ろす。こんなに近くで二人きりで話すのなんて初めてだ。
「……前崎さん、プールはいつも見学だよね」
「ん? うん」
「なんで?」
「あは。その言い方なんかチコちゃんみたい」
 チコなんて子うちの学年にいたっけと首を傾げてから、あああの叱ってくる五歳児かと思い直す。
「見てないよ私」
「そう? 面白いよ」
「ふぅん」
「肌弱いからさ」
 会話の流れをぶった切るような返答が、私が最初に呈した疑問への答えだということに数秒遅れて気がついた。確かに彼女はクソ暑い今もカーディガンを羽織っている。思い返すと、確かにプール以外の体育でも二の腕を見たことがない。
「……病気?」
「まさかあ。焼けるとすぐ痛くなっちゃって、その痛さが尋常じゃないだけ」
 そんなに的外れなことを言ってはいないと思うけど、前崎さんはからからと笑った。教室にいるよりも楽しそうに。
「流さんは?」
「私? 私はほら、足首」
 包帯を巻いた足を示すと、前崎さんは「あらら」と口に手を当てた。その反応がなんともコミカルで、私はちょっと笑ってしまう。
「ちょっと。わりと笑えない怪我なんだが」
「ごめんごめん。部活?」
「うん。捻挫しちゃったんだけど顧問がブラックでさ。言う通りしてたら悪化してこのザマよ」
 彼女のテンションに合わせ軽く笑い飛ばして見せるが、前崎さんはじっと黙り込んでしまった。プール側ではクラスメイトが整列を済ませて、今バディの確認をしているところだ。
「……嘘だよ」
 私のバディがちょっと苦手な子と一緒に手を挙げてるのに気を取られていたから、前崎さんの言葉への反応が一瞬遅れた。
「……え?」
「さっきの日に弱いからっていうの、ほんとだけど、嘘だよ」
 漣に紛れるような低めの声は、快活な優等生の雰囲気じゃない。じゃあなんだって言われたら、困るけど。
 ピー、と。先生の甲高い笛が遠く聞こえた。生徒みんなが対岸の先生の方を向く。私たち以外。
 私は庇に守られた日陰の中で、前崎さんが体操着をぎりぎりまで捲り上げてようやく見える、腿の付け根に釘付けになっていた。
 花柄の──多分、彼岸花の意匠。メイク? シール? ハテナに溢れ、言葉が出ない私。前崎さんが、花にも気づかれないような小声で、ほんのかすかに囁いた。
「タトゥー、入ってるから」
 水面が作る光が、彼女の肌を照らして畝った。

・と、いう百合。書いてたら元気になってきた!
 勢いと手癖のみの文なのでちゃんと書き直して支部とかに上げたい。

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