「ボドゲーマ」がオープン4年を経過。市場と共に成長するWEBサービスを目指した、4年前と今の話。
はじめまして、ボードゲームの総合情報サイト「ボドゲーマ」の、企画/開発/運営を行っている、株式会社オーバードライブ 代表の若狭と申します。
実はボドゲーマがn周年を迎えるたびに、運営者目線でなんか書こうと思うのですが、慣れていないせいか読みにくい記事になり、修正が面倒になってきて心がくじけてしまいます。(実は、2年目、3年目版も下書きのまま挫折して、お蔵入りしていますw)
noteが登録から2周年記念と表示が出たので「何か書いてみるか・・ いや、なにを・・?」となりまして、なんとなくTwitterでつぶやいてみたら、ミヤザキユウさんから「ボドゲーマのメイキングストーリーなど…」とリプしていただきました。
せっかくなのでこれを機に振り返ってみたいと思います。
現在のボドゲーマの規模感について
オープン以来、ボドゲーマは安定的に拡大しています。
ここ半年ほどは、毎月30万人 / 150万ページビューで推移しています。毎年、ターゲットにするKPIを200%~300%成長させるという目標をもって、サービスの改善/拡張を継続しています。
まだまだ道半ばという所感ではありますが、安定的に成長を継続できていることは事実です。
いつもご利用くださっている皆様、本当にありがとうございます。
ボドゲーマ運営会社の体制変化について
業務委託、アルバイトは割愛しています。
2015年~ 2名(週末ノマド)
2016年~ 3名(+1名) 東京都渋谷区/コワーキングオフィス
2017年~ 6名(+3名) 東京都文京区/雑居ビル
2018年~ 8名(+2名) 東京都新宿区/雑居ビル
2019年~ 11名(+3名)
2020年~ 11名(±1名)
Webエンジニアは週1前後でボドゲーマの開発を行っており、週4はそれ以外のプロジェクトを兼務しています。ちなみにボドゲーマ専任は、開発ディレクター(事業部長)の1名のみです。
オフィスのエントランスはこんな感じでした。
飾ってあるボードゲームは、社内ボードゲーム会のときに使っています。私の私物が7割、社員の私物が2割、提供品が1割くらいでしょうか。
今は委託作品や通販用の商品在庫で溢れかえっています。
もうすぐ私の大好きな王と枢機卿のリメイク版、Iwariが届くのでここに仲間入りさせたい。コロナ渦が終わったらやりたいなぁ。
というところで、ボドゲーマ誕生前に私が何を感じて、どうして作ったのか、つらつらと語っていきたいと思います。
14,000文字あるそうです。現在と当時を織り交ぜている部分も多いため、解説が後付けっぽくなっているのはお許しください。
ボードゲーム市場の拡大/発展に貢献したくなった
ボドゲーマを始めた理由であり、今も目指し続けているのが「ボードゲーム市場の拡大に貢献すること」です。
私たち消費者にとって、ボードゲームはたったの数千円単位で体験できる、オンリーワンで最高な娯楽の1つです。1度の人生では足りないほど、多様性で溢れています。
かたや私たちがボードゲームが遊べるようになるまで、メーカー / ゲームデザイナー / カフェ等の関係者には、お金・時間という大きなリスクを伴っています。
製造原価 / 制作費用 / 翻訳 / 編集 / 輸送 / 版権 / 流通 / 人件費 / 開業費 / 内装費 / 税金 / 倉庫代 etc...
ゲームを作ってくれて、遊べる場所を作ってくれて、とてもありがたいです。
純粋なリスペクトと感謝の気持ちが渦巻く中で、「あざっす」と伝えるだけなのも物足りないなあ、なんか出来ることないかなあ、と思いふけるところから、ボドゲーマの構想は始まっています。
そうだ、実りある恩返しをしたい
この件は、公式コラム「ボードゲームの展示イベント「ゲームマーケット」の成長記録からこれからの市場に必要なことを妄想してみた」の ボードゲームが流行するメリット にて執筆しています。
記事を簡単にまとめると、ボードゲーム市場で活動されている方に経済的な結果を得ていただくことは、私達ボードゲームファンにとってもメリットだらけです。
販売価格が下がったり、コンポーネント品質が良くなったりする可能性があります。私たち遊ぶ人にも、恩恵が行き渡ります。
カフェ関係者、メーカー関係者、サークル関係者、流通関係者、イベント運営団体、etc... など、ボードゲームの普及や発展に貢献されている方々に向けて、経済的な結果につながるWEBサービスを作りたい、と考えるようになりました。
ボードゲーム関係で利益を出すということ
ボードゲーム関係でご尽力されている方々の多くが、売上拡大・利益創出について、未来志向的であるという印象をもっています。
「赤字にならなくなったら、これからも活動を続けられる。」
「自分の作品を遊んでくれる人が以前より増えたことが嬉しい。」
「楽しんでくれた人のツイート見て創ってよかったと思う、また創りたい。」
あくまで私の印象ではあります。
ゲームデザイナーの多くが、ゲーム作るの面白い・おもしろいゲームにしたい・作ったゲームをみんなに遊んでもらいたい。
日々のTwitterやゲムマブログ等でそう伝わってくるから、そんな印象をいただくのかも知れません。
しかし残念ながら、ボードゲーム市場で利益創出を現実にするには、まだまだ厳しい状況にあります。市場規模、つまり消費規模が小さすぎるのです。
業界全体の売上高を増やし、利益体質へと改善していくことで、未来志向的なボードゲーム関係者の活動に拍車をかける援護ができ、それによって私たちのボードゲームライフは充実することは分かっています。
1つ1つ出来ることからやっていくほかありません。
5年後・10年後に振り返った時に「もしあのサービスが無かったら、ボードゲーム市場はどうなっていたのか分からないね... 」と言われるようなものは?
考えていくなかで、ボードゲーム人口を増加させるためのWEBサービス開発に、大きく舵を切ることになります。
ボードゲームは認知度が低いだけの、多くの人に楽しんでもらえる娯楽(のはず)
もし私がボードゲームに出会ったとき、ボードゲームは人を選ぶマニアックな趣味だと感じていれば、きっとボドゲーマは生まれていなかったと思います。
私が初めて行ったボードゲーム会では、高校生から40代の方まで、幅広く集まっていました。世代を超えて、何もかもを対等の関係で共有できる娯楽というのは、とても珍しいです。
反面、私の体験とは真逆のツイートを見かけたことがありました。
地方にお住まいの方が公民館を借りてオープン会を開催したけど、参加してくれる人がおらず、飛び入り参加を期待しながら一人でウボンゴをやって1日を過ごした、というツイートを見かけました。
体験してもらえれば多くの人から「楽しかった」という感想が得られるのに、そもそも体験しにこないのは認知されていないだけなのではないかと考えました。
そもそも認知とはなんなのか
私たちの言うボードゲーム、つまりドイツゲームや同人ゲームを知らない人にとっても「ボードゲーム」という言葉は既に認知されています。
「休日はなにやってるんですか?」
ー 公民館やカフェで友達とボードゲームしてます!
「ボードゲームって人生ゲーム?オセロ?(それ半日やってんの…?)」
ー あ、いや、えーと、うんたらかんたら
「へぇ、面白そうですねー(棒)」
ー (ちくしょう、、)
ボードゲームの認知度を上げるには、「ボードゲーム」の認識を上書きする必要があると考えました。
言葉を乗っ取るというより、仲間に入れてください、というイメージが近いかもしれません。
ただ、上書きするには、体験してもらうしかありません。
なぜなら「人生ゲーム」「オセロ」「将棋」「麻雀」など、多くの人には既に体験したボードゲームがあり、同じように体験まで至ってもらわないと肩を並べることができないからです。
では、体験してもらうためには、何が必要なのでしょうか。
体験に至るまでの工程を「知る・探す・選ぶ・買う・行く・会う・遊ぶ」に分解し、ボードゲーム市場が抱えるウィークポイントから解決していきたいと考えました。
私たちが何の情報を、誰に対して、どうやって提供すれば、体験してもらえる確率が増えるのか。過剰に転換効率を落としている工程があるなら、そこを解決すべきではないか。
ボドゲーマが、ボードゲーム市場におけるあらゆる情報、ヒト・モノ・コトの情報が流通する総合型のWEBプラットフォームとして、サービス設計を行った理由に繋がっています。
WEBサービスという方法を選んだ2つの理由
ボドゲーマの構想を始めたとき、私自身がWEBクリエイターとして約11年。共同創業者の相棒はWEBエンジニアとして約12年。(現在は加えて+4年です。)
振り返ると社会人人生のうち、70%の時間を相棒と一緒に過ごしています。彼とは色んな領域で色んなサイトを作ってきました。
フリーランスしてみたり、起業してみたり、ベンチャーキャピタルから資金調達してみたり。自社サービスや請負開発、大小様々です。
社会人になってからWEBベンチャー、WEB界隈で生き続けています。WEBのノウハウを活かせる市場で、WEBを使った事業に挑戦することが、私たちに出来ることであり、やりたいことです。
もう1つの理由は、ボードゲーム市場には全体主義的なWEBサービスが生まれないと悟ったことが強く起因しています。
ボードゲーム市場とWEB事業の関係
WEBベンチャーやWEBサービスの企画段階で、
「アクセスユーザーを増やすために、掲載企業数を増やそう。」
「掲載企業数を増やすために、アクセスユーザーを増やそう。」
という状態を「鶏と卵」と表現することがあります。
「この世界には、鶏が先にいたのか、卵が先にあったのか。」という相互依存の話になぞらえたものですが、これは どっちかを始めれば相互作用が始まるから、難易度が低い/時間効率の良いほうから優先的に工数/費用をかけていこう という意味で使われます。
最初、ボードゲーム市場とWEB事業は、似たような状況にあると感じていました。WEBサービスがあれば、ボードゲーム市場は育ちやすくなります。ボードゲーム市場が育っていれば、WEBサービスが生まれやすくなります。
しかし、市場調査をしていくうちに、ボードゲーム市場は小さすぎて、WEBサービスを生んでも事業化が不可能に近い状態だったのです。ひよことタマゴです。
ひよこからはタマゴが生まれないので、まずはひよこを鶏に育てなければいけない状況にありました。
ボードゲーム市場にWEB事業が生まれない理由
ボードゲーム市場にWEB事業が生まれない、というと語弊がありますが、敢えて言い切らせてください。
まず、WEBシステムというのが、ただそれだけで巨額のコストがかかること、コストを回収するためには事業化が必要なこと、情報コンテンツやマッチング機会を商材とするため薄利多売型のビジネスモデルに行きつきやすいことです。
雑な例になりますが、例えば5,000億円の市場なら、まずは流通シェアの1%=50億円の取引金額をターゲットに、売上手数料20%で年商10億円の事業を目指す、といった計画をたてることが出来ます。
例えば衣類市場は9兆円規模ですが、みんなご存知のECサイトトップ企業の売上高は1,200億円、市場規模の1.3%に該当します。
もし市場規模が200億円~300億円くらいだったら? WEB事業としては、非常に手厳しい結果になることが想像できます。それがボードゲーム市場なのです。
コストを捻出できる人の立場になってみるとわかりやすいですが、会社がどうやって開発リソースやキャッシュを蓄えてきたのかという話も重要です。
WEB事業を営む経営者にとって、カタンでいうならボードの端っこにある、「2」「12」「盗賊」に面している場所に、開拓地を立てるようなものです。
当たり前ですが、開拓地の建設コストはどこに建てようが一定です。もちろん、どれだけの資源を生み出すかも関係ありません。
会社のお金は、従業員と共に既存事業で貯めてきた血と涙の結晶です。ちょっと調べれば、回収の目処が立てられない市場である事実に辿り着きます。
これが、ボードゲーム市場にWEBサービス(=WEB事業)が生まれないと判断した理由です。
事業として難しいと分かっていながらなぜボドゲーマを作ったのか
私達は、今は利益を望むことができないということを受け入れて、土台作りを頑張ってみることにしました。「ローマは一日にして成らず」です。ひよこからタマゴが生まれない以上、仕方ありません。
市場全体が経済的な結果を得られるとき、ボドゲーマも事業成果を獲得できる、WIN-WIN構図を目指すことにしました。これが「市場とともに成長するWEBサービス」と言っている理由です。
簡単にまとめると、事業として成立させるために、まずは必要不可欠とされるボードゲーム市場の拡大を加速することから着手するという決断です。
そのために、これまで不在だった情報流通のパイプライン役が登場することが、ボードゲーム市場発展のターニングポイントになると考え、WEBサービスの設計を始めていきました。
ボードゲーム市場の拡大=ボードゲーム人口の増加(+LTVの増加)
WEBサービスで出来る市場成長の貢献とは、何ができて、何を目指すことにしたのか。ボドゲーマが最初に力を入れようと考えたのは、大きく以下の2つです。
① 潜在層をライトユーザー化する手助け(ボードゲームを遊ぶ人を増やす)
② ボードゲームライフがより満足する情報源となる(遊びたいボードゲームが増え続ける)
簡単に言えば、①始める人を増やす、②辞める人を減らす、ということです。他にも1人あたりの消費金額、LTV(※)を増やすことができれば、それも良いかもしれません。
※Life Time Value、消費者が消費者でなくなるまでに費やす合計金額のことです。
ただ、LTV向上を主目的に絞ってしまうと、一人当たりがボードゲームに投じる金額を2倍、5倍、10倍にしていく必要があります。月5,000円/年間6万買ってた人が、年間60万になることを目指さなければいけません。
ランチ1食800円を、10食8,000円にする世界を作ろうとするようなものです。正直、無理があります。
ボードゲームは認知してない人が多く、体験してもらえれば人口になる確率は高いと考えていました。ボードゲーム人口を10倍にするほうが、圧倒的に現実的です。
ついでに事業化する将来のことを考えれば、薄利多売のWEB事業というビジネスモデルにも合っています。
「ボードゲーム」ってなんだろう。
ボードゲーム人口の増減というテーマをサービスに反映させていくうえで、そもそも「ボードゲーム」ってなんだっけ、使われている言葉の意味を深く理解する必要がありました。
これから始める人にとっての「ボードゲーム」
最近はまり始めた人にとっての「ボードゲーム」
生涯続けていく人にとっての「ボードゲーム」
これらは、果たして同じボードゲームなのでしょうか。
自身がボードゲームを楽しんできた記憶を振り返ってみると、楽しいボードゲームを遊びたい(モノが主語) という欲求から、ボードゲームを遊ぶ楽しさ(コトが主語) に変化していました。
伝わりますかね? 日本語ってむずかしい・・。
ボードゲームで遊ぶっていう時間の過ごし方が好きになっていたのです。
もちろん面白いボードゲームだけをプレイできれば尚良しですが、1日の体験を通して面白ければ、楽しかったコトとして記憶に刻まれるものです。
モノとしてのボードゲーム。コトとしてのボードゲーム。両方あって「ボードゲーム体験」です。
情報サービスとして市場拡大に貢献するためには、どの「ボードゲーム」を誰向けにどんな機能/情報として提供するかが重要です。
ボードゲームが体験されるまでの工程
体験するためには「知る・探す・選ぶ・買う・行く・会う・遊ぶ」という数ある工程が発生しています。
初めて遊ぶ人・3個目のゲームを探す人・いつものボドゲ会メンバーが好きそうなゲームを探す人、それぞれのフェーズには様々なユーザーがいます。
あらゆる人を対象に、必要な情報の受発信・マッチングが行われるサービスを提供できれば、ボードゲーム市場の拡大に必要不可欠と考える情報流通パイプラインになれると考えました。
ボードゲームは、知って終わりではなく、買って終わりでもありません。遊ぶ時間に辿り着いてこそ、ボードゲームを通じて得られる楽しい時間を得ることができます。
私たちがカフェや商品にお金を払う目的は、行くことではなく、買うことでなく、体験への期待のためにお金を払っています。
様々なユーザーに、それぞれ適切なコンテンツを提供したい。
ボドゲーマがデータベースだけではなく、レビュー機能・ボードゲーム管理機能・ボードゲーム通販・ボードゲームカフェ情報といった、総合情報サイトになっている理由の1つです。
ボードゲームはお金のかかる、プライスレスな趣味
モノとして少し掘り下げてみました。
ボドゲーマの通販、Amazonアソシエイトでアフィリエイト広告を掲載していたとき、実際に購入されていた商品の平均価格は、ボドゲーマ/Amazon共に3,500円前後という結果です。単価そのものは比較的リーズナブルです。
ただ、海外のボードゲーム市場調査レポートによると、1つのボードゲームの平均プレイ回数は4~5回といわれています。
もちろん、カタン、ドミニオン、宝石の煌き、ラブレター、カルカソンヌなどは何回もプレイされていると思います。
「10回以上プレイしたゲームが1つに対して、1~2回しかプレイしていないゲームが4個くらいの比率」と言われれば、身に覚えのある方は少なくないのではないでしょうか。
支払うお金に対して得られる娯楽時間という見方をすれば、コスパは良いとはいえません。気軽に手を出すことのできない趣味の1つです。
ちなみに私は「4人プレイヤー × 30分 × 2ゲームなら、計4時間の楽しい時間が世の中に生まれているってことだし! 3,500円なら別に高くないし!!」と正当化することに成功したので、消費者の1人としても結構市場に貢献していますw 家が狭い、棚が足りない。
さておき、10個も買えばおよそ3~4万円掛かっています。中高生にとってはなかなか手を出せないですし、大学生や新社会人にとっても痛い出費です。
事実、ボドゲーマのアクセスユーザーは、ゲームにお金を使う文化・趣味にお金を使える平均年収400万~450万の所得層が中心です。
ボードゲーム人口を増やすためには、これから始める人にコスパは良くないと思われるのは不本意です。
ボドゲを知っている私達ではなく、ボドゲと出会ったときの私達がターゲットです。パッと見、デジタルゲームと同じ値段がするのです。
「①始める人を増やす」ためには、私達の知るボードゲームの魅力に導いてあげる必要があります。値段が気になるのは仕方のないことですが、遊べば得られる体験価値を、どれだけ膨らましてあげられるかが肝になると考えました。
面白くなさそうと感じるゲーム情報しか見なかったり、面白くないと感じるゲームを2,3個買ってしまえば、きっとすぐにボードゲームから離れてしまうと思ったからです。
せっかく生まれた興味が、ミスマッチを理由に辞めてしまう。これは出来るだけなくしたい現象です。
私たちが考えたのは、まずデータベースをデータの入れ物とするのではなく、ユーザーの状態に合わせて適切なコンテンツとして提供することです。
「始める人を増やす」ために「興味を趣味に変える」というキャッチフレーズが誕生した瞬間です。
初めてボードゲームに興味をもった人が、期待通り~期待以上、素晴らしい体験へと導くことができれば、晴れてボードゲームの世界の住人になります。
では、何を期待していて、どの部分に、何の興味を抱いているのでしょうか。
私たちが感じているボードゲームの面白さを伝えるためには、その面白さを一方的に語るのは得策ではありません。
ボードゲームが面白いものだとまだ体感していない人が、なぜ興味をもって情報を調べているのか。その理由を理解することで、興味から体験へ、背中を一押しするコンテンツが提供できると考えました。
日本のボードゲーム市場において、評価され好まれている「ボードゲーム」とは
現在のボドゲーマは、ボードゲームに興味をもっている日本人、ボードゲームを趣味とする日本人が、最も集まる場所の1つです。
潜在層やライトユーザーを多く含んでいますが、客観的なソース / 確率論として引用しても、一定の信頼性があると考えています。
もともと仮説として持っていましたが、ある程度実証できていると自己評価しているため、結果を主軸にお伝えします。多少、言い切ってしまう表現があるのはご了承ください。
ボドゲーマにアクセスしてくるユーザーの性別については、ここ4年で男性86%:女性14%から、男性70%:女性30%へと、女性比率の大幅増加という変化が起こっています。
「ボードゲームって男っぽい趣味」と言われれば「(最近は)そんなことないよ」と感じることもずいぶん増えたことかと思います。
ちなみに推定では、フランスのボードゲーム人口の男女比はおよそ半々、推定で男性55%:女性45%でもっとも均一です。アメリカ/カナダを中心とする英語圏では、男性75%:女性25%ほどです。
なぜ急に男女比についてお話したかというと、日本のボードゲーム市場で評価されるボードゲーム / 話題に上がりやすいボードゲームの特徴は、なんとなくフランスのボードゲーム市場と類似性があると感じていました。
事実、国内ボードゲーム市場の潜在層 / 顕在層の男女比が、英語圏よりも均一に寄ってきています。
国内ボードゲーム市場の70%:30%という比率は、まだまだ変化の道半ば、フランスと同じくおよそ半々の比率になっていくと考えています。
なぜフランスのボードゲーム人口の男女比が半々なのか。日本のボードゲーム人口が、なぜ女性比率が高まっているのか。
「ボードゲームを遊ぶ」ということに、期待してる体験・好まれる体験・評価される体験が、世界標準と異なっている可能性について、思考を巡らせてみました。
実際に、評価され広まっている作品を比較して「ボードゲームらしさ」が何かを探ってみる
英語圏にはBoardGameGeek、フランスにはTric Trac、韓国にはBOARDLIFE、日本にはボドゲーマ(シレッと並べてしまって恐れ多いですが)という主要サイトが存在します。
各国には、それぞれ代表となるポータルサイトが存在し、総合ランキングが公表されています。
※残念ながらドイツにはポータルサイトが見当たらず、ドイツのボードゲーム市場 / WEBサービスについては分析することができませんでした。
とりあえず、比較してみてみます。
カッコ内はボドゲーマの順位です。赤字がボドゲーマのTOP20位以内に、オレンジがボドゲーマの50位以内にあったものです。
まずはランキングの結果から、その傾向を言語化してみます。
TricTrac
「カジュアルなゲームシステム」「強めのインタラクション」が評価されているように思います。
プレイヤー間のコミュニケーション、押し引き、駆け引き、心理戦要素、相手の判断を受けて、立ち回りを考えるもので溢れています。ルールの多少の複雑さは、評価を下げる要因にはなりにくいようです。
ディクシット、ミステリウム、人狼、チケット・トゥ・ライドが入っているあたり、やはり日本のボードゲーム文化と親近感がわきます。
BoardGameGeek
「多岐にわたるゲームシステム」「ソリティア中心のゲーム展開」が評価されているように思います。資源やワーカーを使って拡大再生産する、発展性が感じ取れるゲームが中心です。
リプレイすればするほど新しい戦略や効率を思いつき、トライアンドエラーしてみたくなる、ゲーム性の奥深さを楽しめるもので溢れています。
いわゆる「重ゲー」が多く、時間的にも、プレイ感的にも、物理的なキログラム的にも重いものが多いですね。
BOARDLIFE
BoardGameGeekと同様の印象です。BOARDLIFEのトップ10ランキングのほとんどが、BoardGameGeek でもランクインしています。
後半には、BoardGameGeek で1年~2年ほどまえにホットエントリーで常連だった作品で、ほぼ埋め尽くされています。
簡単にまとめると、
① BoardGameGeekのランキング と BOARD LIFEのランキング が非常によく似ていること。ゲーマーズゲームが中心に評価されていること。
② ボドゲーマのボードゲームランキング と Tric Tracのランキングが結構似ていること。カジュアルでインタラクションのあるゲームが中心に評価されていること。
という感想です。
余談ですが、私が大好きなボードゲームの1つ、マルコポーロの旅路がランクインしてたのは韓国だけでした。王と枢機卿はどのサイトでもランクインしてないようです。(神ゲーだからみんなやろうぜ!)
各国で「ボードゲーム」に期待している/体験したいものが、文化的に異なるという考察
前述のランキング比較は、2020年9月11日時点での比較であり、ランキングの算出ロジックが「たまたま」ボドゲーマとTricTrac、BoardGameGeekとBOARDLIFEが似ているだけの可能性はあります。
とはいえ、どのサイトも、特定のメカニクス・プレイ時間・値段・発売年を見て順位のコントロールを行っているわけではありません。
各サイトのWEBマスターが、ユーザーの高評価と受けとれる指標を集計し、上から並べただけです。
もちろんどのサイトにもランキングロジックの改善余地があるかもしれませんが、これらはその国/その言語圏で、ボードゲームに興味をもった人の大部分が参照しにくるサイトです。
そしてそのランキング結果は、興味をもち、体験して趣味になったボードゲーム人口のその国の総合評価 と捉えることができます。
英語圏は英語圏のボードゲーム市場発展の歴史がある
北米圏のユーザーがアクセスの45%を占める、世界最大のボードゲーム情報サイト BoardGameGeek では、グルームヘイヴンやサイズ、テラミスティカといったゲーマーズゲームが頻繁にホットエントリーしていたり、ランキングの上位を占めています。
これらのゲームは、イメージ画像を見たら楽しそうだなと思いますし、実際やってみれば高く評価する方も少なくないとは思います。
私自身、デジタルゲームでも、シミュレーションゲームやターン制ストラテジーは割と好きな方なので興味の湧く作品は多くあります。
しかし、これらのゲームはカジュアルなボードゲーム会では出しにくいと感じたことはありませんか?
それはボードゲーム会でプレイ120分・インスト60分のゲームを出そうものなら、多くの人が躊躇してしまうと感じるからです。
BoardGameGeek 上位の作品を遊ぶためには、趣向性の近い仲間を集めてゲーム会を開催するほうが効率的です。
もちろん BoardGameGeek ユーザーの人達が評価しているゲームは、楽しくてしょうがないから話題に上げる人が多く、だから高い評価がついているはずです。
日本人も同じような価値観や期待感でボードゲームを評価するのであれば、様々なところでもっと話題にあがって然るべきです。しかし現実はそうではありません。
もしかしたら、日本は他の国とボードゲームに期待しているものが異なる可能性があると考えています。
日本のボードゲーム文化とは
ボドゲーマは「日本語版BoardGameGeek」と言われることがあり、大変に光栄に思っています。
ただ国内ボードゲーム市場の情報流通パイプラインになるためには、ローカライズされたデータベースではなく、国内ボードゲーム文化にカルチャライズされたコンテンツが有効だと考えて開発/運営を行っています。
世界標準はパンや麺を主食としているかもしれませんが、私達はお米が主食です。カレーはライスにかけるし、餃子はお米で食べる。それが美味しい食べ方なのです。好きなんだからとしか言いようがありません。それが文化です。
ランキングデータが示すとおり、比較的カジュアルさとインタラクション、つまり国内ボードゲーム市場ではボードゲームを通じたコミュニケーション体験+ゲーム性の総合バランスが評価されやすいと考えました。ゲーム性だけぶっちぎりに良くても、なかなか浮上できません。
逆に BoardGameGeek では、どんな面白いコミュニケーション体験が生まれるゲームであっても、ゲームシステムの奥深さが浅ければ、なかなか浮上できません。
実際、国内メーカーやゲームデザイナーと会話する機会はそれなりにあり、「ボードゲームはゲーム性のあるコミュニケーションツール」という側面があると考える方は、少なくありません。
国内ボードゲーム文化では、なぜコミュニケーション体験が評価されやすいのか
新聞やメディアで取り上げられる方のうち、「なぜアナログがいま流行ってるのか」の問いに、コミュニケーション、対面、会話を絡めた回答を行う方が多く、記事をきっかけに興味をもつ読者が、コミュニケーション体験を期待しているからなのかもしれません。
期待した理由にふさわしいゲームが選ばれやすく、期待通りであれば評価されます。
ちなみに私も、ボードゲームが面白いのはコミュニケーション体験とゲーム体験が融合している、オンリーワンの体験だからだと感じています。
不可抗力にも戦略変更を余儀なくされる相互干渉、自分の都合に合わせて世界が回っていないというあの体験/感覚が大好きです。
つまり、国内ボードゲーム市場は 世界のメインストリームとは違う歩みをしているかもしれません。
もしその通りなら、それが日本のボードゲームの歴史です。日本に訪れるボードゲーム文化の未来は、この延長線上にあります。
異なる国の、異なるボードゲーム文化は、その文化での評価結果が反映されるのが当然であって、どの文化が自分の趣向と近いかは別の話です。
私はやっぱり米が好きですが、当然パスタ派やピザ派もいます。どっちが正しいかどうかではなく、どっちも事実という話です。
ボドゲーマは、日本のボードゲーム事情をデータとして集約し、コンテンツとして表現することで、日本のボードゲーム文化を過去から未来へと紡ぎたいと考えています。
これが、国内ボードゲーム市場の流れに沿った、最も効率的な加速方法だと考えているからです。
ボードゲーム市場は大きくなってる? 人口は間違いなく増えている
インターネットで検索された回数を、時系列でチャート化してくれる「Google Trend」というサービスがあります。
国内ボードゲーム市場はリーマンショックを境に検索需要が底打ちし、以降ボードゲームと検索する人(≒ ボードゲームに興味を持つ人 or ライトユーザー)が増え続けています。
「ほおー、ググる人が増えてるんだね」くらいで認識してもらえれば良いのですが、詳しく説明しておくと、検索需要のピーク値である2020年4月を100としたとき、ボドゲーマが誕生した2016年3月は35ぐらいなので、検索需要が1/3くらいの時に誕生しています。
データベース連携させていただいた playgame:database が誕生した2004年1月は25なので、検索需要がピーク時の1/4くらいの時に誕生しています。
playgame:databaseとボドゲーマの公開時の違いは、2004年よりも1.5倍ほど市場にライトユーザーが多かったと考えられます。
ボドゲーマの成長戦略、市場規模拡大への貢献に、一定の成果
市場全体から見た結果としては、市場拡大のペースはかなり早まったと期待することができます。
長らく「3歩進んで2歩下がる(+1歩の積み上げ)」というギザギザを繰り返していましたが、「6歩進んで4歩下がる(+2歩の積み上げ)」に転じたイメージです。
ただ、ボドゲーマは ”「ボードゲーム」についてググってみよう” となるきっかけを作っている訳ではありません。
興味が持たれる最初のきっかけは、メディアでボードゲームが取り扱われることが増えたことや、ボードゲームカフェが多数登場したことで興味をもつ人が増えたためかもしれません。
ボドゲーマは、興味を持っていない人に興味をもたせる努力は全くしていません。
とはいえ、興味を持った人がインターネット検索を使ってたどり着くWEBページとして
「来たとき以上に興味を膨らまして帰れる場所」
「持った興味がそのまま体験につながっていく場所」
となれるよう、コンテンツの整備を行っています。
ボードゲームに興味をもって検索してみる人にとって、以前よりも期待した粒度の情報が得られるように整備できたと自負しています。
言い方を変えると「ボードゲームで検索しても、期待した情報が出てこないから検索するのを辞めた。」というユーザーを減少させられていることが、2016年3月以降から始まっている新しい傾斜の1つの要因だと考えています。
ボドゲーマへの再アクセスユーザーが増加しつづけていることで大きな手応えを実感
ボドゲーマが、意図したとおりに存在価値を発揮できていると考えるのは、再アクセスしてくれるユーザーが増加し続けていることにあります。
さらなるボードゲーム体験を求めて、新しい情報を手に入れ、友人や知人を誘い、またボードゲーム人口が増加していく。
ボドゲーマで情報を得て、体験したユーザーが帰ってきてくれるということは、”ボードゲームへの期待” に対して ”体験に満足できた人” だから ”さらなる体験を求めてボドゲーマに帰ってくる” という一連の流れが生まれていると認識しています。
市場規模拡大につながる「始める人を増やす」「辞める人を減らす」ことに、一定の効果を感じることができる指標です。
消費者人口が増加する仕組みは、どこか1つを切り取って語ることはできませんが、ボードゲーム市場の「情報流通」は円滑になり、以前よりも多くの人が情報収集できるようになったことで、ボードゲーム市場のポテンシャルを、少なからず援護できたと考えています。
ボドゲーマの今後
今回は、過去と現在の振り返りがテーマでしたが、ちゃんと目指している青写真があります。日本を中心とした、アジアに巨大なボードゲームのマーケットを誕生させたい。その礎となる1社で在りたい、と考えています。
英語圏/北米やヨーロッパには、情報サービスとボードゲーム市場の既定路線があります。売買ツールや広報サービスがアジア、日本よりも整っています。
日本国内で、私たちも尽力しているところではありますが、日本で生まれたボードゲームが、小学生の子を持つベトナム人のお母さんに買われてもいいよなあ、とか、インドネシア人と台湾人の間で同じことが起きてもいいよなあ、とか、ずっと思っていることです。
アジア圏にこだわりたいのは、それを実現したときに、アジアにいるボードゲーム関係者に大きなメリットがあるからなのですが、私たちアジア人には言語の壁があり、余計に開発コスト・運営コストが掛かります。かなり無謀な事業挑戦になると言えます。
まずは、私たちが国内ボードゲーム市場でWEB事業を成立させることです。長期戦になることを覚悟して、体力を付けねばなりません。消耗しっぱなしではサービスの存続が難しいため始めた、通販サービスです。今後も、収益化につながる施策は、生まれていくと思います。
幸いにも、ボドゲーマは運営5年目にして黒字転換を達成しようとしています。本来、ボードゲームはどこで買っても同じものではありますが、ボドゲーマで買っていただける方が増えていくことで、サービスの開発をずっと継続できる計画が立てられています。
超長くなりましたが、今後ともボドゲーマをご愛顧いただければ幸いです。
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