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母親が怪物に見えた日

一度だけ、自分の受けてきた虐待について母親に話をしたことがある。確か、二十歳くらいの時だっただろうか。何かのはずみで夕食を一緒に取ることになり、子供時代の話になり、なにか無神経なことを言われたのがきっかけだったと記憶しているが、鮮明なシーンはほとんど思い出せない。

「子供の頃にあなたにされたこれこれこういうことが、未だに傷として残っているし、ふとした時にその時の恐怖の気持ちが蘇ってくる。今も精神科医にそれを相談して、治療している」

その程度のことを、事実だけを、淡々と言った記憶がある。ただし、その時に返ってきた言葉が未だに忘れられない。

「私って、あなたにとってそんなに怖いだけの存在だったのかなあ?」

「私なりに、がんばってきたつもりなんだけどなあ」

そう言ったあと、母は急に号泣しだした。猛烈な勢いで、その後もずっと泣いていた。

その様子を見て、自分は思った。ああ、この人は怪物なんだ、と。


被虐待児の見る夢

被虐待サバイバーの多くはこんなことを夢見ている。自分を虐待した親が、いつか自分の行いを心から悔やんでくれて、心からの謝罪を捧げてくれる。そこからまた、新しい家族が再生される。そういうことを多くの被虐待児は夢見る。なぜなら虐待された子供の多くは、心から親のことを愛しているからだ。

なぜ被虐待児は虐待されたにも関わらず親を愛するのか。

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