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【30 Fiction Challenge(1)】銀の斧

 むかしむかし、あるところに、木こりの親子がいました。
雲一つない天気の良い日に、澄んだ川辺で2人は木を切っていました。
お父さんがザックザック、息子さんがサクッサクッ。
2人がしばらく木を切っていると、息子さんは言いました。

「お父さん、なんで僕は木を深く切れないの?」
「息子よ、向こうをよく見てみなさい。」

お父さんが指差した向こう岸には、1人の木こりがいました。
しかし、その木こりは決して上手な木こりとは言えませんでした。

「お父さん、あんな下手な人を見てうまくなるの?」
「息子よ、あの男は腰に力が入っていない。木を切るときには腰に力を入れるもんだ。」
「わかったよ、お父さん。」

息子さんは木を切るのが少しうまくなりました。
お父さんがザックザック、息子さんがサクッサクッ。
2人がしばらく木を切っていると、息子さんは言いました。

「お父さん、なんで僕は木を美しく切れないの?」
「息子よ、向こうをよく見てみなさい。」
「あの人は足に力が入っていないから・・・、そうか、足に力を入れたらいいんだね。わかったよ、お父さん。」

息子は木を切るのがまた少しうまくなりました。
 お父さんがザックザック、息子さんがサクッサクッ。
2人がしばらく木を切っていると、息子さんの斧がスルっと手をすり抜けました。飛び出した斧は、ぐるぐると回転しながらドボンと川に落ちてしまいました。

 「お父さん、池に斧を落としちゃった。」
 「息子よ、向こうをよく見てみなさい。」

向こうの岸では、さきほどの男が川を覗き込んでいました。すると、男の前の水が急に光りだし、川の中から金色に輝く斧を持った神様が現れました。驚いた男は一度は尻もちをつきましたが、男と神様は何かを話し、男が大きく首を縦に振りました。すると神様は川の中にズブズブと潜っていき、再び姿を現すことはありませんでした。

「わかったよ、お父さん・・・。」

しばらくすると、息子さんの前の水が急に光だし、川の中から金色に輝く斧を持った神様が現れました。息子さんは驚きましたが、尻もちをつくことはありませんでした。

「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」
「いいえ、僕が落としたのは金の斧ではありません。」

息子さんが首を横に振ると、神様は川の中に潜っていき、次は銀色に輝く斧を持って現れました。

 「では、あなたが落としたのは、この銀の斧ですか?」
 「はい、そうです。」

息子さんが首を縦にふると、神様は川の中に潜っていき、再び姿を現すことはありませんでした。

                               おわり

【制作時間】
 2時間15分

【制作経緯】
 昔話の1つに違和感なく加えられるの創りたいなぁと思って、ことわざとか調べてたら、「人の振り見て我が振り直せ」ということわざが出てきたので、昔話調にしてみたところ、昔話に載せられない話になりました。
 なんだか、人の振りを見て愚直に避けるだけじゃなくて、見て考えることもちゃんとやった方がいいのかなぁと思うキッカケになればいいけど、もう少しそういったことを前半に暗示したり続編として書いたりできたら良かったのかなぁ。

【コメント】
 今度は昔話に入れて違和感ないものを創りたい。タイトルは、今までこれの元ネタが「金の斧、銀の斧」かと思ってましたが、実際には「金の斧」だったのでもう片方を取らせていただきました。ネタバレ感があるのは残念かも。

【30 Fiction Challenge】
 物語素人の状態から毎日1つ何か書くチャレンジをしています。
 https://note.com/wakaranaism/n/nde12fb03c66d

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