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『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を観てきました。

※ネタバレ有りますのでお気をつけください。

【はじめに】
 2020年9月11日公開の『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を見てきました。監督は京極尚彦さん(『ラブライブ!』や『宝石の国』など)、脚本は高田亮さん。クレヨンしんちゃん映画としては新しい面々(京極さんは2018年からアニメ版に参加してるっぽいけど)なので、期待と不安が混じり合いながら劇場に足を運びました。近年連続で監督を務めていた、橋本昌和監督や高橋渉監督の作品が僕はめちゃくちゃ好みだったのですが、監督が変わった今回も正直めちゃくちゃ良かったです。公開から1ヶ月立っていない現在で、既に2周してきました。あと1周しようと思っています。

 映画の題材は「落書き」というクレヨンしんちゃんの中でも比較的重要なテーマであり、絶対におもしろくなりそうな反面、ここで失敗したらオワリという面もある気がします。そういったこともあってか、今回実際に鑑賞していて「今作はクレヨンしんちゃん映画の代表作にしよう!」という意気込みを感じられる描写が多かったなぁと僕は思いました。
 例年通りであれば流行の芸人を映画内でゲスト出演させたり、「スプラトゥーン2、1日30分以内にしたのに!」という時事的なセリフを挟んだり(前作の『新婚旅行ハリケーン』とか)することでエンタメとしての攻撃力を高めている事が多いのですが、やはりこういった手法は時代の流れに対する防御力が弱いんですよね。
 今回はそういった時代の流れに対する防御力の弱いシーンは徹底排除されていて、「この作品は後世に残そう!」という意思がヒシヒシと伝わってきました。登場してきたチャットツールはLINEとしての具体名は出さずに単なるチャットとして進行していたり(たしか前作ではLINEだった)、VRが存在は知っているけどまだ触ったことはないくらいという時代背景をOPでしっかりと説明していたり10年後20年後も愛される映画になるための配慮が素晴らしかったです。

前置きが長くなりましたが、今回もよかったところ3つと気になったところ3つをそれぞれ取り上げて行きたいと思います。

ここからはネタバレ満載なのでお気をつけください!


【よかったところ3つ】
①アイデアだらけの前半戦
 今までのクレヨンしんちゃんの映画を見てきた人であれば、OPで腰を抜かした方々も多かったと思います。まず、恒例のOPクレイアニメがなくなりました。その代わりとして、壮大なBGMに乗せてストーリーを進めながら、製作に関わった方々のお名前が飛び飛びで挿入される時間となりました。確かに最初の恒例のクレイアニメはリピーターから見たらお約束なのですが、初見の方から見たらただただビジュアル的におもしろいだけの無の時間になってしまうんですよね。結論としてクレイアニメは映画EDに移動されてそこで今回のストーリーに踏み込んだクレイアニメにすることで有意義な時間に昇華されていました。確かにこちらの方が合理的。なんというか「令和」「変革」という言葉がピッタリな仕上がりでした。
 肝心の新しいOPの運びですが、ストーリーを進行しつつも落書きに沿ったアイデア(折り紙の階段や筆のトラップなど)を多彩な景色として次々に提示していて、従来の無思考で楽しめるような形式ではないにも関わらず「オープニング」というのにふさわしいテンポ感を維持できていました。最初の自己紹介パートをこんなに楽しく進めてくれるなんて、初っ端からスタンディングしかけました。
 また、今回はOP以外にも説明描写で素敵なシーンがたくさん有り、個人的なお気に入りは開始20分ほどにあるしんちゃんが紙飛行機になって街を上空から眺めるシーン。落書きのテーマに沿ったアイデアであるというのはもちろんのこと、それまで地上でのミクロな視点としてのシーンばかり描かれていたところから、しんちゃんが紙飛行機になって遠くに逃げるということを理由付けにマクロな俯瞰視点をブチ込んで前半戦を締めくくります。景色としても芸としてもなんと美しいピリオドとなるシーンなんだと感銘を受けました。このシーンがグッズになっているくらいなので制作陣もお気に入りなんだと思います。

②キャラを愛せる中盤戦
 上空から街の悲惨な状況を目にしたしんちゃんは春日部(ナナコお姉さん)を助けるために立ち上がる中盤が始まります。中盤は次々と新しい仲間が増えていき、キャラクターを愛したくなる魅力に溢れる時間でした。もちろん、30年近くしんちゃんと連れ添ってきたぶりぶりざえもんも魅力的なのですが、今回のメインヒロイン(?)のニセナナコさんがそれ以上に魅力的でした。最初はしんちゃんが生み出してしまった醜いバケモノとして登場するのですが、20秒後には醜いとされる外見からは想像もつかない美しい中身(しんちゃんへの愛)をダイレクトに見せてくれて、一瞬にして鑑賞者の心を鷲掴みにします。そのときの問題発生から解決までの過程がすべてニセナナコさんの容姿中身のステータスを表していて、おまけにフィジカルの強さまで同時に提示してこれから頼りがいがある印象まで伝えてくれる最強の自己紹介でした。
 少し追記をすると、映画後半にはニセナナコさんがしんちゃんのために身を犠牲にする最強のシーンがあるのですが、たぶん映画を見ている人たちの中にはこういったシーンががラストになると予想していた方も多いんじゃないかなと思います。実際、僕がそうでした。というのも、中盤に「落書きたちは水に濡れると溶けてなくなってしまう」というのをすごい印象的に描くんですよね。こんなんみたら「あぁ、最後はお別れして終わるんだなぁ」って誰もが予想すると思うんですよ。でも実際には、お別れのシーンはクライマックス前に始まるんです。一瞬『野生王国』のような「約束された感動を中盤で使い切っちゃったパターン」が頭によぎりましたが今作はそのようなことはなく、ニセナナコさんとのお別れという約束された感動シーンが終盤のしんちゃんの選択にも活きてくるので、実に巧妙だなぁと感動しました。今までのニセナナコさんやぶりぶりざえもんたちとの別れがなかったら、しんちゃんは最後にブリーフをひっぱる決意ができなかったんじゃないかな。まさかクレヨンしんちゃんで「死」ではないけれど「死」に限りなく近い「別れ」を経験することになるとは……。

③感情をぶち上げる後半戦
後半はもう何も言うことがありません。『嵐を呼ぶジャングル』で経験したときのような人間の集団心理による負の感情でモヤモヤさせたあとに、ここまで積み上げてきモノをキッカケに一気に解放されて僕らの感情をぶち上げてきます。『踊れ!アミーゴ!』の終盤で偽物たちを一掃しているときの爽快感、『B級グルメサバイバル』のラストシーンのような歌に乗せた畳み掛け、『スパイ大作戦』の終盤のようなダイナミックさが一気に押し寄せてきます。そして僕らの感情が高ぶり切った中、物語は終盤を迎えます。まるで世界規模の戦いを描いた映画のような感じだったけど、これ春日部の出来事なんだよなぁ……。
 シメもよくできていて、ラクガキングダムの住人は街の中の落書きの代わりとして、タブレットの中にも自由な落書きがあることを見つけて折り合いをつけます。キャンバスが変わっても子供の自由さはいつも変わらず残っている。結局は一番最初のVRの落書きシーンに戻るんですよね。なんと美しい……。


【気になったところ3つ】
①ミラクルクレヨンに固執することが理解できない
 しんちゃんたちが春日部(ナナコお姉さん)を救いたいのはわかる。ラクガキングダムの住人たちが王国を救いたいのもわかる。けれども、両者その手段としてミラクルクレヨンに固執しているのはわからなかった。しんちゃんたちは戦車や戦闘機を掛けば作戦が止まると思ったのだろうか?あまり共感できない。王国の住人たちはミラクルクレヨンでどうやって日本国民たちに落書きをさせるつもりだったのだろうか。わからない。確かにキャラクター動機づけとなればいいので、実際にはミラクルクレヨンで両者の目的を実現できなくても良いのだけど、もう少し客観的に見て「できそう感」は出してほしかったなぁ。

②「やっちゃえば?」の曲が唐突過ぎた。
 B級グルメサバイバルの歌によるクライマックスはめちゃくちゃ綺麗に伏線を張られていたのでそれと比較するとやはり気になった。最初のしんちゃんが床に落書きしているシーンで、「風間くんもやっちゃえば?」と誘うシーンとかがギャグ調で入ったりするとちょっとだけ印象違ったのかなぁ。

③街が救われるクライマックスから終了までが長かった。
 クライマックスが終わってから、アフターストーリー的なのが、ナナコさん談、姫談、ゆうまくん談と多かったのでちょっと冷めてからのEDだったのがもったいなかったなぁ。ゆうまくんの家のスケッチブックに至っては、「5人揃った絵を描く時間も義理もあのときはなかったんじゃないかなぁ」とちょっと気になっちゃった。もしからしたら、ゆうまくんのシーンは『サボテン大襲撃』的な感じでEDあとに持ってくるくらいの扱いがちょうどよかったんじゃないかなぁ。


【おわりに】
 今までのクレヨンしんちゃん映画からの変革を感じつつも、今までの映画からの旨味がよせ集まったかようなめちゃくちゃに最高な1本でした。下手したら他ジャンルも含め、今まで見た映画で一番良かったかも。


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