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【30 Fiction Challenge(7)】雪が溶けるまで

 顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはたぶん1年ぶりになるのかな。目を覚まして最初に映るのは、圭一くんが笑顔で僕にバケツをかぶせる姿だった。今年も雪の季節がやってきたみたい。圭一くん、去年よりも大きくなったねぇ。春からは小学生だもんなぁ。
 隣を見ると、紗季ちゃんが雪を固めている姿が見える。今年は圭一くんのほうが早かったみたい。紗季ちゃんは圭一くんの隣の家に住んでいる女の子。二人が僕らをつくって競い合うのも毎年のこと。
 紗季ちゃんが雪だるまをつくり終えると、二人はつくった僕らを自慢し合ったり、雪合戦をしたり、ソリに乗ったりして日が沈むまで遊んでいた。僕らは動くことができないから一緒に遊べないのは残念だけど、圭一くんや紗季ちゃんが楽しんでいる姿を見るだけでも心が温かくなる。

 二人がお家に帰り、月が登ると、あたりはしんみりとした冬の夜。なんだか寂しそうって?でも、そんなことはない。確かに僕は動けないけども、今年の冬も独りじゃないから全然寂しくなんかなかった。

「ユキエさん!まだ起きてるー?」
「タカユキくん!起きてるよ!」

そばにいるわけではないけれど、お隣さんなら声が届かなくもない。

「よかった!ユキエさん、去年よりも綺麗になったんじゃない?」
「ありがと。紗季ちゃんつくるの上手になったんだね。」
「鼻もちゃんとまっすぐ向いていて素敵だよ。」
「タカユキくんは、ちょっとだけ右目が高いねー。」
「でも、去年より体は大きくなったでしょ?」
「うん、すごい男らしくなった!」

僕とユキエさんがあったのは、紗季ちゃんが圭一くんの隣に引っ越してきた2年前。僕らは、こうして毎年顔を合わせて、たくさんお話をして、冬を温かく過ごしているんだ。

***

 顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはまた1年ぶりになるのかな。圭一くんが笑顔で僕にバケツをかぶせる姿が映る。今年も雪の季節がやってきた。圭一くん、また大きくなったねぇ。
隣を見ると紗季ちゃんとユキエさんが自慢げにこっちを見ている。今年は紗季ちゃんの方が早かったんだ。今年も二人の遊ぶ姿がとても微笑ましかった。

「ユキエさん!また綺麗なったね!」
「タカユキくんも、今年は手がついてるよ!」
「ほんとだ!ユキエさんもピンク色の手袋がかわいいね。」
「紗季ちゃんのお下がりだけどね笑」
「でも似合ってるよ!」
「ありがとう。二人とも大きくなったんだね。」
「そうだね。」

僕らは手が動かせるわけじゃないけども、去年よりも成長した体がやっぱりうれしかった。

***

 顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはまた1年ぶり。圭一くんが笑顔で僕にバケツをかぶせる姿が映る。今年も雪の季節がやってきた。圭一くん、もう2年生になるのかぁ。ずいぶんと成長したねぇ。
隣を見ると紗季ちゃんがユキエさんの頭に帽子を乗っけているところだった。今年は引き分けかぁ。二人ともよくがんばったね。

 「ユキエさん!また大人っぽくなったんじゃない?」
 「タカユキくんは、今年は足がついてるよ!」
 「ほんとだ、僕だけだ笑」
 「雪だるまなのに足なんて変なのー。」
 「圭一くんもおもしろい子になってきたなぁ。」
 「私も足があったらどこか素敵なところに行きたいなぁ。」
 「僕は足が動いたらユキエさんのすぐ近くにいこうかな!」
 「ハハハ、ありがと。」

今年は、去年よりもちょっとだけ寒かったから、圭一くんも紗季ちゃんもたくさん雪合戦をして、たくさんソリにのっていた。僕らもたくさんお話をした。

***

顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはまた1年ぶりかな。圭一くんが僕にバケツをかぶせる姿が映る。圭一くん、また大きくなったなぁ。もう僕と同じくらいだ。でも、ちょっと元気がないかな、今年は紗季ちゃんの方が早かったのかな。

隣を見ると紗季ちゃんとユキエさんはいなかった。
その年、僕は久しぶりに独りの夜を過ごした。

***

顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはまた1年ぶり。

顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはまた1年ぶり。圭一くんが僕にバケツをかぶせる姿が映る。隣にユキエさんと紗季ちゃんはいなかった。

僕は今年も1人の冬の夜を過ごした。


***


顔に小石が詰められるのを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。光を見るのはたぶん1年ぶり、いや、なんだかもっともっと長かった気がする。目を覚まして最初に映ったのは、一人の成年が笑顔で僕にバケツをかぶせる姿だった。

誰・・・?
もしかして、圭一くん?
大きくなったねぇ。圭一くん。

僕を完成させた圭一くんは笑顔で隣に声をかける。

隣を見ると一人の女性がと小さな子どもが一緒に雪だるまに帽子をかぶせていた。
前に見たときよりもずっとずっと近かった。
手袋でつくられた僕の手で触れることができるほどに。

「綺麗になったね、ユキエさん。」

                おわり

【制作時間】
 2時間22分

【制作コメント】
 今日は七夕ですね、七夕をテーマに1つ書こうと思って、1年に1度しか会えないものを想像したらこうなりました。ユキエさんがいなくなってから再び出会うまでに一山ほしいので、タカユキくんの夢の中という設定で何か描いてもいいかもしれないなぁと思っています。

【30 Fiction Challenge】
物語素人の状態から毎日1つ何か書くチャレンジをしています。
https://note.com/wakaranaism/n/nde12fb03c66d

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