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能登半島地震における旅館の記録⑲

多田屋は2016年に玄関を新設した。会長にはずっと玄関を改装したいという思いがあり、北陸新幹線開通(東京⇔金沢)の翌年に新設することができた。
昔の玄関を知っているお客様は、玄関の方向や趣がガラッと変わったので、【多田屋さん、どこかいっちゃったのかと思ったよ~】と言われることも多々あった。その玄関は正面の扉が歪みで完全に閉まらないという状況ではあるが、今の所目立った損傷はない。

改装前の多田屋玄関
社長就任式の時の写真:旧玄関で
私が若い!社長は…ちょっとふっくらしてる
今のほうが若く見えるよ社長!
改装後の多田屋玄関

玄関からフロントに向かう廊下が多田屋の自慢でもある。大浴場の屋根の色と七尾湾の美しさをご覧になりながらフロントカウンターまでお進み頂き、チェックインをして頂く。ここで1月1日に勤務していたフロントスタッフの記録をご紹介したい。

自慢の廊下は無事だった
多田屋のフロントは3階にある

~多田屋フロントスタッフ・女性の記録~
1日の午前中は、お正月の音楽が流れてお餅つきをし、お客様もみんな笑顔で幸せなお正月の風景だった。午後からは、調理場から今日のお造りはブリが煌だと聞いて、きっとお客様も喜んでくれるだろうと嬉しく思い、天然鰤・煌の証明をフロントに飾り、いいお天気の中、たくさんのお客様に来ていただいて忙しくも楽しい時間だった。

我が娘・息子もお正月は多田屋の法被を来て
お餅つきの手伝いをするのが恒例
1月2日も手伝う予定であった

16時、1回目の地震。緊急事態地震速報の音にも慣れてしまって正直「またか…」と思ったが、思ったよりも長く揺れ、館内の見回りをするべきか、館内放送をするべきか、などをフロントや事務所メンバーと話していた。2回目、震度7。カウンターで○○さんと一緒にお客様と話しているときだった。「また揺れてる…」と思った瞬間、ドンと激しい揺れ。カウンターに捕まるのが必死だった。揺れが収まると割れた花瓶や天井板が外れているのが見えた。「お怪我ありませんか」近くにいたお客様に声を掛けながらカウンターから飛び出すと、電気が消えて、中途半端に閉まった防火扉の向こうからパニックになったお客様の姿が見えた。「避難誘導しなきゃ」それだけ思い、汐の館4階、5階へ。幸いすぐに電気は復旧したが、4階へ行くとパントリーのスクリンプラーが作動して水浸しであった。

館内は水浸しになった場所も
押入れの中の布団も濡れてしまった

お客様を何処に案内すべきか迷っていると館内放送で「建物の外の駐車場へ避難誘導するように」と呼びかけがあった。マスターキーを持って部屋のカギを開け、「誰がいらっしゃいますか、避難誘導します」と叫びながら1部屋ずつお客様の無事を確認し、「お怪我ありませんか、建物の外へご案内します!」と声をかけてお客様を連れて外へ。インカムで「○○神楽行きます」「大浴場の避難完了しました」「利久完了」など次々情報が飛び交う中、○○さんとともに、まだ誰も行っていなさそうな花の館と抱月に向かう。誰もいないことを確認して「客室オールクリアです!」とインカムで伝える。自分も駐車所に行くと集まっていたお客様は浴衣のまま寒さで震えている方や、泣いているお子さんが見えて「さっきまで幸せなお正月だったのに…」と、とても悲しくなった。

~多田屋フロントスタッフ・男性の記録~
私も当日○○さんと一緒にいたので、地震発生までは同じ感じでほのぼのとした新年のチェックイン中であった。一回目の地震の際、「またか…」と軽く苦笑いしたのを覚えている。詳しい情報が入るまで館内放送はまだかなぁなんて○○さんや統括部長と話していた所二度目の地震がきた。
自分のデスクに手をついて、「しつこいなぁ…」と思っていたが、揺れはどんどん強くなり、壁にヒビが入っていくのが見えた。
地震後すぐにEVに人がいないか確認し、時間的に大浴場周辺に人が多いと予想、マスターキーを持ち利久方面に走る。

旅館にはたくさんのマスターキーがある
今は防犯の為、金庫にしまってある

渡り廊下は水没しており通れなかったため、中庭にからアクセスし、案の定パニックになったお客様達が中庭に出ようとしており、利久側の出入り口に誘導、本部が駐車場である旨内線で確認し、お客様へ坂を上がってもらう事にした。お客様達は寒い外へ出るのをためらい、「じっとしていた方がいいんじゃ…」と言う方もいらっしゃったが、津波警報が出ている旨を伝えると皆さま納得して応じてくださった。皮肉にも東日本大震災がなければ、このようにスムーズに行かなかったかもしれない。

1日に滝のようになっていた大浴場までの廊下
現在の状況

○○さんや○○さんと合流し、利久・大浴場の避難完了を確認し本部へ報告。薄着の方が多いため車輌さん達に車輌用の上着を渡すようお願いし、自身も事務所にある防寒具をもって本部へ合流。お客様達には一旦駐車場で待機してもらうようお願した。

多田屋の大まかな館内案内図

彼は自分が走った導線を動画に残しておいてくれた。

また、彼は和倉小学校へ避難する時のバスの運転もしてくれている。その記事も後日ご紹介したい。

続く…

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