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能登半島地震における旅館の記録⑭

多田屋では、社内ツールとしてZOHOというものを使っている。以前からこれを皆上手に活用していた。やはり多田屋でも 言った、言わない、聞いてない ホウレンソウの徹底が出来ていない が常に課題にあった。その問題を少しでも解決すべく使用しているツールである。震災後このZOHOがとても役に立っている。皆が自宅にいても七尾市の様子や、今自分がおかれている状況等を教えてくれる。震災前は仕事を離れたら、もちろんこの回覧板は見る必要はなかった。ただ、今は緊急事態だ。離れていてもこれで皆が元気である事を確認できる。私が震災後の記事をUPできるのも、スタッフ皆の言葉がZOHOに残っているからである。


いつもお世話になっております

1月7日 総務よりアナウンスがある。
お疲れ様です。出勤者一覧に常時出勤される方については血液型と生年月日を記載しました。血液型が不明な方は未記入ですので、ここに返信いただくか、記入をお願い致します!事務所のホワイトボードにも記載しております。よろしくお願い致します。

今日からヘルメットには名前、生年月日、血液型を貼る事が義務となった。スタッフ同士の血液型はあまり気に留めていなかったが、いざ見える化すると、えっ!〇〇さんA型なの?えっ!B型?日本人はやはり、血液型の話題が好きなんだと実感した。しばらくして、【ねぇ、若大将って誰の事?】と社長。【どちらかと言うと俺の事だよね…若女将が若大将になってるよ!羨ましい。いいな…。】

総務も気が休まる時がありません
間違えても仕方がないよね 

皆んなが久々に大爆笑する。1ヶ月以上経った今も誰も若女将と書き直す事はしない。

1月7日は社長と私を含めて6人の出社。私は館内を見回る。私が一番気になっていたのは調理場と料飲部門。1月2日に急いで粗方片付けたものの、館内に放つ臭いが目立つようになる。ゴミが出せない中、どう片付けるか。

いそいで茹でて冷凍される蟹たち

1月1日、多田屋は1年で一番最初のご夕食をお客様に準備していた。能登の山の幸、海の幸。そして今年は例年とは違う、天然能登寒ブリ最高峰【煌】を準備。

2024.01.01.15:40

料理長より多田屋スタッフ全員に発信あり
本日のお泊まりのお客様のお造りには
能登天然鰤「煌」がつきます。
12月25日に日の出大敷
14.4キロ
8日間氷温熟成
寝かせることにより旨味が凝縮し味も濃くなります。身はコリコリ(とれたて)ですが寝かすことにより少しねっとりとした感じになりますが、これは鰤の身に含まれているタンパク質がアミノ酸へと変化し、タンパク質の繊維質を分解しているためです。

料理長や調理場スタッフも、この30分後に大地震が来るなんて思っていなかったよね。丹精込めた料理が…本当に辛かったよね。

召し上がって頂きたかった…
今も各場所に貼られているお品書き

客室係もお客様にご説明できるように一生懸命に勉強していた。1日に宿泊する予定だったお客様から先日届いたお手紙の中にこんな文面があった。夫と息子は部屋にいたので調理場から外に避難したそうで、一生懸命準備して下さった心のこもった素晴らしい料理が大変な事になっていて、作って下さった皆さんの気持ちを思うとつらいと申していました。夫は【また絶対多田屋さんに行こう!】と何度も言っていました。もう、そのお気持だけで救われます。

1ヶ月近くこのままになっていた
食事会場

各避難所で炊き出しも始まっていたのだが、まさか賞味期限が近いものや、切れているものは提供する訳にはいかない。コロナの時も食材を破棄することになり、本当に心が痛んだ。その時にあまりの量を破棄することになったので、多田屋はお客様へ提供する食事内容をガラリと変えた。何種類もあった食事内容を1本化し、地元の農家さんを訪問して色んな野菜を見て回り、多田屋のおもてなしの一つであるお食事を調理場スタッフだけではなく、皆んなで考えた。その日採れたもの、その日に準備出来る食材を使って、お客様に喜んで頂けるものを作りお出しする。そして食材ロスを無くす。試行錯誤もあり、大変だった時もあったが、お食事内容を変えて3年。また2024年も変化をさせつつ、お客様に喜んでもらえるようなメニューを考えよう!と思っていた矢先だった。

あんがとう農園さんの美味しいお野菜
能登の宝のひとつ
野菜達がキラキラしています

また、コロナの時と違うのは、断水状態が続いているという事。暖を取れている人ばかりじゃないという事。コロナの時はそれぞれのスタッフや地元の人にお配りできた。しかし、今回は加工しなくてはいけない食材や生物など、気軽にはお配りできなかったのだ。食べて!食べて!もらって下さい!とは、とても言えない状況だったのだ。

ビニール袋に入れ、とりあえず冷蔵庫へ
あっという間に山積みになった

地震は一瞬にして全てを変えてしまった。もちろん、命あればこそ。私も【命あっただけで】とよく言う。でも散乱した旅館を片付ける度に現実を突きつけられる。経営者としては、損害額とこれから得る事が出来ない収益。スタッフの生活や人生をより豊かにするお手伝いが出来るのか。そして私たちはお正月が来る度に、この地震の事を思い出す。これから先、毎年1月1日に明けましておめでとうございます、と言っていいのか。言う事が出来るのか。

料理写真も自分達で撮ります
多彩なスタッフ達

色んな事を考えるが、実際にお腹は空く。
お腹が空くのは健康である事。
健康でなければ、前には進めない!
今日もまた、目の前にある食事に感謝しつつ、手を合わせて声に出して【いただきます】と言おう!

続く…


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