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能登半島地震における旅館の記録⑫

日に日に旅館のフェーズは変わっているが、震災後から変わっていない事、それは朝の朝礼だ。必ず9:00に出社したスタッフでする。社長と私ともう1人、3人であろうとも朝礼をしている。おはようございます!やはり挨拶はどんな時も大切だ。先日社長が新聞を見て、被災地に全国各地から多くの医療チームやボランティアなどの支援者の方々が訪れてくれてはいるが、能登の方言がわからなくて困惑する時がある。能登には独特の方言があって、同じ石川県民ですら、わからない時も。という記事を見たと話してくれた。

そう、私も多田屋に嫁にきた当初、よろしくお願いしますとご挨拶周りをした事がある。ご挨拶と一緒に粗品をお渡しすると、【きのどくな、きのどくな】と言われる事が多々あった。私は能登に嫁に来ることはそんなにかわいそうなことなのか…。気の毒って、これから私の生活はそんなに大変なのか…。旅館の若女将はやっぱりそうなんだ、と挨拶するたびに不安になったのを思い出した。

きのどくな ➡ 感謝と恐縮

お姉さん方のおしゃってることが
全然わかっていなかった私です
この写真を見てまた泣いてしまう私

ボランティアに行くと感謝と恐縮を込めて【きのどくな】としょっちゅう言われると思う。【なんも、なんも】って笑って返してあげて。(北國新聞より)

1月6日
1:59 石川県能登地方 4
多田屋自家発電がすごい音を立てて動き出す。その後すぐに強い揺れ!きた!怖い!子供たちに【布団の中に潜って!】
5:26 石川県能登地方 5強
5:40 施設管理の○○さんからみんなに呼びかけがある。みなさん、停電その他は大丈夫ですか?
・多田屋滞在組大丈夫です。
・石崎寮大丈夫です。電気つきます!
・自宅も一瞬停電になりまたしたが、大丈夫です。
6:57 石川県能登地方 3

1月6日時点の発表。
震度7 1回
5強 7回
5弱 6回
4 36回
3 135回
2 310回
1 568回

これ以上被害が広がらないでくれ…

8:00 社長と統括部長と私の3人で話をする。やはり余震が危ない。スタッフに被害が出てはいけない。二次災害を防ぐために一度スタッフを解散させよう。館内の電気が付いたり消えたりし始める。

8:55 多田屋緊急対策本部より
おはようございます。本日の出社についてですが、今朝の地震の際、地震が発生する前に停電が起きていました。今朝から同様の現象が続いています。また、天候の影響で二次災害の懸念もあり、みなさまの安全性が確保できない状況です。そのため、本日は出社しないでください。多田屋に向かっている人は引き返して安全な場所にいてください。今後のことはまた追って連絡します。皆様、どうか身の安全を優先にお過ごしください。

9:00 多田屋滞在スタッフに解散を伝える。ご実家に帰る、知人を訪ねる。多田屋海側の寮に住んでいるスタッフは、もう一つの寮に移動して欲しい。
突然の解散に泣き出すスタッフもいる。スタッフ皆で5日間必死で多田屋を守っていた。気持ちが張り詰めた中、余震の続く中でもスタッフ皆で出来ことをするのが、自分は多田屋の一員である事、仲間がいる事、独りじゃないという事を確認できて、お互いに安心できる時間だったのだ。独りになりたくない。皆んなで目の前のやれる事をやる事によって、前に進んでいる気がしたのだ…。私たちは単なる復興ごっごをしていたのだろうか…。

今もロビーにある、皆で使っていた布団

私も、ここで緊張の糸がプチン!と切れた。明日から私は何をすればいいのだろうか…。1人で割れたお皿の数を数えたり、使えるお箸の数を数えて過ごせばいいのか。ついに私は【どうにでもなれ!】と投げやりになった。本当に地震にムカついた。起きてしまった事はしょうがないなんて綺麗ごと。やはり、地震は怖いし憎い。

旅館にいるのが嫌になって、自宅でニュースをみていた。このぐらいになると、インタビューを受けている人が知り合いになってきた。あ!○○さんだ!無事で良かった!あ!○○君もテレビに出てる!それぞれ連絡先は知っていても、直接電話をしたり連絡を取ることが出来なかった。どう声をかけていいのか私たちも分からないのだ。しかし能登のいい所、一度知り合いになれば、みんな仲間。その仲間の安否をテレビを通して知る。

NHK NEWSより
社長の友人が理事長を務める介護施設
私に大事な事を気付かせてくれたニュース

私は、ここでハッとした。
私たちはお客様が無事にご自宅に戻っていただく事に必死だった。今は旅館には誰もいないので安心できている。でも、今現在この劣悪な環境で人を受けれなくてはいけない場所があるという事。病院や介護施設では、暖が取れなくても水が出なくても、余震が続いていても、自分が被災していても必死に人助けをしている人達がいる。私は何を投げやりになっているんだ!

そう、実は私は若女将になる前は看護師だったのだ。
自分でもすっかり忘れていた。私は慌てて看護師免許を探す。確か賞状みたいなものだったはず。
捨ててはいない。どこだ、どこだ、どこだ~!! 

見つけた!

一緒にいた、子供たちに、【ママ、看護師さんだったの知ってる?知ってるよね。ママ看護師さんしようかな。いいよね!多田屋さんお休みの時に何かしたほうがいいよね!】『いいんじゃない?ママが好きなようにすればいいよ』となんとなくつれない返事。

社長である夫に言うと、【いいと思う!若女将兼、看護師、カッコいいと思う】カッコよさは別として、家族も賛成してくれた。

とっても綺麗に残っている教科書
全然勉強しなかったのが一目瞭然

私は思ったらすぐ行動しないと気が済まない。
免許更新に保健所に行った。
16年振りに更新する看護師免許。
更新には数か月かかるが、何かの役に立てれば。
医療行為はまったく出来ないけど、血圧を測るぐらいは…。現役時代に使っていた聴診器も持っている!
人の体に触るのは抵抗ない。(人の体に抵抗なく触れる事ができるのが看護師の強みとおっしゃってくれた人がいる)おしゃべりは、面白い事は言えないけど得意なほう。私は免許の更新ができたら看護師としてボランティアする事を決めた。俄然やる気が出て来た!私にも出来ることがあるかも!

統括部長がボソっと言った。【若…結構触れてきますよね…】え!ごめん!無意識なんだけど。横で総務2人もうん、うん、と頷いている。男性女性構わず、私は距離感が取れていないらしい。え~!!ホントに!?みんなごめん。私、全く気付いてなかったわ。あ〜無意識って本当に怖い…。

続く…

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