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第十七話 新たなる術 天刃

「こほんっ。話が脱線してしまいましたな。お時間よろしければ儂がお教え致しますが、どうなされますかな?」

「朝餉も終えたので体力気力ともに万全です。爺や是非、教えてください!」
強くなる為の努力は惜しみたくない、いつまでも足手纏いになってはいられないし。
何より、梅に会うには力を付けないとお供も許してくれ無さそうだし。
っと強くなる為の理由が少しばかり――私欲的だけどいいのだ。

「では、準備が出来たなら稽古場へお願いしますじゃ。刀の持参をお忘れなく」
爺やはそう言い残し先に部屋をあとにする。
父上は無言であったが、教えたかったのだろうな。と思わせるように後姿が小刻みに震えていたのでバレバレだったね。

私はそんな葛藤している父上を背に準備をするため、部屋へと戻り稽古用の白の道着へ慣れた手つきで着替える。
最近は慣れたもので、一人でも早着替えが出来るようになったんだよ。
着慣れない頃は帯を結ぶ際、足に引っ掛け転んだりしたのは内緒だけど。

「道着の着こなし問題なし。刀も持った。いざ、稽古場へ!」
いつも以上に心を奮い立たせ、稽古場へ向かおうとしたけれど…?

《桔梗よ。何やら揚げの気配がするぞ。昼餉は具現化してくれると助かる》
頭上のちび狛が揚げ察知したようで私へ懇願するが、つい先日ある事件を起こしたのに懲りない狛である。

「……先日の出来事のような事を起こさないのであれば、小さいままでならいいですよ」

《納得いかぬ。が……揚げの為ならば良しとしよう》
何かを思い出し難しい顔をしつつも了承した狛であった。

狛と約束をしたあと稽古場へ着く。
爺やは既に準備を終えてるようで、瞑想をしつつ待っていた。

「爺やお待たせしました。今日はご教授の程お願います」

「来れましたな。では、お教えいたしましょうかの。まず刀を抜いて腹を自身で見えるように添えてください」

私は白木の鞘より刀を抜き右手で柄を持ち左手で刀身を支える。
月下美人いつ見ても綺麗な刀。――地景の模様に見惚れていると爺やの苦笑が聞こえる。

「ほっほ。お気に召していただけて儂としても嬉しい限りですじゃ。ですが、今は学びの時間です。終えたらしっかりと手入れしてやってくだされ」

「ふふんっ。この刀とはずっと一緒にいたいですから、手入れは毎日欠かさずしています!爺や始めましょう」

「本日教えるのは「天刃《てんじん》」と神楽では言います。自身の天力で武器を包み込み強化補強する術になりますじゃ。刀に付与する場合、切れ味を増す事が出来るので大きな力となります。補強も兼ねているので、武器の保護にも役立ちますな」

神楽はと言うことは、氏神では違う呼び名なのだろうね。
今は気にすることではないから、やり方をしっかり覚えて身に着けよう。

「天力を使うということは、量の加減も出来ると取ってもいいのでしょうか?」

「良い質問ですな。その通りです。ですが、天力量は個人差があるので自身に合った最適な量を体感で覚えて頂くのがいいと思われます」
天力を与え続ければ力は増大するが、相手は待ってくれるわけではないので、効率よく付与する事をまず覚えないといけないね。
 
「では、実際にやってみましょうかの。桔梗様は右利きですから、先ほどの状態から右手のみで刀を持ってください。そうしたらば、左手の平に少量で構いませんので天力を集中させ維持してくだされ。その手で上見《かみ》から切っ先まで撫でる或いは刷り込み包むような想像で動かしてみてくだされ」

「こう、ですかね? 左手がなんだか温かいような? そんな感覚ですね。」
そして、この手を上見全体から切っ先へ優しく刀を丁寧に包み込むようにう動かしてゆく。
手の不思議な感触に一瞬、硬直した私だったが自身の天力で刀を包み込んでいく。左手が通った後の刀身は淡く青白い光を纏っていた。

「綺麗ですね。心なしか刀が軽くなった気がしますが、これも術の効果ですか?」
気のせいではなく、片手で軽くぶんぶんっ振れるぐらいである。
あまりの軽さに手からすっぽ抜けないようにしないといけない。

「軽くなるのは自身の天力であるから馴染むといった所ですの。それにしても、才能ですかな。初めてでここまで安定させるとは。将来が楽しみでありますな。ほっほっ」
感心感心と。言った表情で爺やは満足していたのある。

「爺や何度か試してみて身に覚えさせますね。気になる部分があればご指摘願います。」
この日、私は早く会得したくて何度も、何度でも新たな術の修練をするのであった。

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