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無刻印への憧れ

衝撃だった。(アイキャッチ写真は関係ない)

高専時代にサークルを立ち上げたとき、顧問になってくれた大渕先生は、前職がモバイル通信系のエンジニアだった。黒白のコマンド画面からメールを送信しちゃう系のガチモンの。

ある時、先生の部屋に行くと、衝撃的な光景を目にした。当時ブラウン管のモニターは、ソリッドな造形だったため、天板にものを置けるほどのスペースが有った。なんと、彼はそこにキーボードを載せて、画面を覗き込みながらタイピングしているではないか。

わかりやすく言うと、白雪姫に出てくる魔女がイーッヒッヒッヒって手を上に上げながら近づいてくる体制。もしくはステレオタイプな熊ががおーってやってるところでもいいよ。

つまるところ、全くキーボードを見ていない(というか見れない)その体制で爆速で文字を打っていたのだ。かるく目眩がした。かっこよくて(えっ)

「ブラインドタッチってかっこいい」というなぞの価値観が芽生えた。

とはいえそんなタッチ、一朝一夕で身につくものではない。どうしたもんかと悩んでいたのだが、気づくとできるようになっていた。練習したわけではない。天才でもない。すべては笑いの為の必然だ。

当時、iChatという、Macユーザーにだけ許された意識高いChatがあった。デザイン系の学校だったことも在り、友人たちは皆Macで、夜な夜な彼らと下らない話をしていた。というか戦っていた。ほぼ大喜利だった。いや、むしろIPPONグランプリの早押しみたいな、笑いを追求するアスリートの決戦場になっていた。先に発言して笑わせたほうが勝ち。シンプルな戦い。ただ、みんなどうしてそんなに速いんだというほどの爆速で入力していく。ここに全リソースつぎ込んでるだろってほどの、むしろ定型文登録しているだろってほどの爆速。全然追いつけなかった。でも、芸人として笑いの道で負けるわけにはいかない(え?)。そうして、きづいた。キーボード見なきゃ良い。見る時間が惜しい。私はただただ一心不乱に、言葉を綴った。

気がつくと、私はブランドタッチというSRスキルを体得していた。これはきっと、ストーリーで入手できる確定スキルだったんだな。全ては笑いを取るための過程に過ぎない。

とまあ、何を言いたいかというと、目的と手段を間違えなければ、ほとんどのことが自然と身につくということ。ブラインドタッチが目的になっていたら、きっと身につかなかったと思う。入力手段は、目的にするものではないからね。

笑いを極めし者にだけ許された、無刻印の美しさを見よ!

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