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『生殖の海』 2023年版 第十章「浪のいくへ」

割引あり


『生殖の海』 2023年版 第十章「浪のいくへ」

この子を産んで身二つになったら、伊那を出てゆこう。

井伊亀之丞せふ きぬ


川浪にすゞしき音を先立てゝむかしとおなじ夏の夕暮れ

世のなかの憂さもつらさも暴れ川とゞまることをうたかたもなみ

初風のならす音もて途絶えたりあふぎおかるゝあけぼのゝ夢

暴れ川しぶきをなしてくだりゆくひとの涙を我れは忘れじ

夕暮れは砕くる浪のこゑたかしもとの流れにあらぬ世のなか

つゆけさを添へ風の寄る葛の葉の恨むることはさいはひにあり

悲しびを悲しぶ者もあるものかなべて憂き世の夢にこそあれ

秋のいろを織れる川面のさゞなみにしづけさ添ふる夕暮れの空

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