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特典小冊子「バッカス」掲載小説サンプル(CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 緋色の糸の研究)【新作/無料記事】

2020/5/2発行予定「CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 朗読劇Collection 緋色の糸の研究」特典小冊子「バッカス」に掲載小説の、サンプル(抜粋)です。

特典小冊子「バッカス」は、先行通販予約と、「とらのあな」納品分の、共通のオマケ(非売品)です。A5サイズ、8ページ(本文6ページ)、折本。

とらのあな通販ページ https://ec.toranoana.shop/joshi/ec/item/040030823770/

CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 朗読劇Collection
「緋色の糸の研究」
(CD二枚組&B5ブックレット)詳細お知らせページ http://highschool-aurabuster.com/cdbookscarlet

※noteの仕様上、一部のふりがな、傍点が省かれています。
※都合により予告なく公開終了することがあります。

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バッカス

(抜粋)


「最近の希沙良って顔がいい」
 テラス席のテーブルに頬杖をついて亮介が言った。
 ひらと一枚、桜の花弁が卓上におちてきた。
 そういう季節だった。
 春休みの終わりぎわ。
 数日後には、希沙良も亮介も高校三年生になる。お互い、実感はない。
 花冷えの日曜日、テラス席はいささか寒かったけれど、人気のケーキ屋なので店内は満席だ。それに、客層がいちじるしく女性に偏っているなか、男子高校生二名でケーキを食べるには、テラス席のほうが気兼ねがなくてよかった。
 なにかのまちがいみたいに平和な――というより、むしろ暢気な時間が、ここにはある。
 勘違いをしそうになる。
「顔」
 希沙良はほんのり眉間に皺をつくってみる。
「だけかよ」
「だけじゃないけど、大事だよね顔」
「そりゃ顔はいいよな俺は」
「なんか無敵になってるんだよね」
 亮介があくまでまじめに言う。
「あー」
 希沙良は自分の頬を掌でこすった。
「そのまえまで、わるい顔してただけだろ」
「それはある。いまよりオーラが病んでた」
「おまえほんと俺には遠慮ゼロだよな」
「遠慮したら希沙良は怒るよね」
「まあ怒る」
「だから、よかったねって話だよ」
「ミナサンノオカゲだろ」
「でも希沙良ががんばったんだと思うな、結局」
 底のない鏡のような、特別な両眼でじっと希沙良を見つめて亮介が言った。
 X線なみに強度のある亮介の視線を、パーのかたちにひらいた右手で希沙良はさえぎる。
「怖いからあんま見んな。俺が透ける」
「怖いって言われるのけっこう傷つくんだけど……」
「崎谷は怖いって言われるのと言われなくなんのと、どっちがいい」
「うーん。それはむずかしいなあ」
 まなざしを落として亮介がつぶやいた。



バッカス(another)

(抜粋)


 薔薇の咲きほこる屋上庭園を、午後のやわらかな風がよぎる。
 雲の裂け目から、宗教画のように荘厳な光が、大地めがけてふりそそぐ。『ヤコブの梯子』だ。
「気に入ったかい」
 愛する妹の顔を見やり、斎伽忍が問いかけた。
 緑と花々の庭園と化したのは、彼の住まうマンションの屋上だ。――道者四人衆筆頭、咸月陣が、みずから図面をひいてお抱えのガーデナーに作らせた。
「最高のアイデアです、忍様!」
 瞳を輝かせて冴子が答える。
「これなら遠くまでピクニックにいかなくても、お天道様の下でお茶が飲めるわ」
「僕のことはかまわず、冴子はどこへでもお行き」
「あたしは忍様といっしょにアフタヌーンティーを楽しみたいんです。美味しいお菓子は十九郎くんが持ってきてくれるんでしょう?」
「まさか、こんなに大掛かりな造園工事が進んでいたとは知らなかったので……」
 里見十九郎は苦笑いをする。
 庭園にしつらえられた猫足のラウンドテーブルに、本日の手土産が入ったバスケットを置いた。
「イングリッシュ・ガーデンに似合うお茶菓子を持ってくればよかったかな。スコーンとか」
「そうなの? 十九郎くんにしては自信がないのね」
「目先を変えて、甘くないものを作ってみたんです。斎伽さんのお気に召すかどうか」
「興味があるよ」
 椅子に座した忍が、十九郎を促した。
 さっそく、冴子はカップアンドソーサーを三客並べて、魔法瓶から熱いお茶を注ぐ。デカフェのアールグレイだ。
 十九郎は微妙な表情を口元に宿らせるが、観念してバスケットをひらいた。
「自家製のポテトチップスです」
「ポテトチップス!」
 冴子が目をまるくした。
「忍様がポテトチップスを召しあがってるところなんて、見たことないかもしれないわ」


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「緋色の糸の研究」音源サンプル第二弾(ロングバージョン)

「緋色の糸の研究」音源サンプル第一弾(ショートバージョン)


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