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ハイスクール・オーラバスター番外編「ショコラ」【新作/無料記事】

ひょっこり書けたので。無料公開です。

※都合により予告なく公開終了することがあります。


ショコラ



 言いたいことはいろいろあるが、と西城敦は考える。
 なにから言うべきか。
 教室に人はまばらだった。いや、もし教室が超満員だったとしても、放課後の教室の窓際の机で里見十九郎と西城敦がなにごとか話しこんでいたら、遠巻きにされるのが常だ。ふたり揃っていると圧がつよい、のだとか。
「思うところがあれば、いくらでも聞かせてほしい」
 西城の表情を読み、十九郎が促した。
 三月、卒業式の前日。卒業生を代表しての答辞のリハーサルを終えて帰ろうとした西城を、十九郎が呼び止めたのだった。
「あいかわらず涼しい顔でマゾなことを言う男だな」
「西城に沈黙されるほうが俺は怖い」
「なるほど。俺はあまり黙らない男だからな。ではまず第一問だが、なぜ俺はいまこのようなファンシーなものを食べているのか」
「口に合わなかったか」
「いや。ゴディバのクッキー程度には美味いぞ」
 ラッピングのなかから取りだした手作りのチョコレートクッキーを口にほうりこんで咀嚼し、西城は答える。
「だがこれを里見十九郎から貰ったとなると、ちょっぴり背筋がゾゾッとする」
「季節のご挨拶みたいなものなんだが。いちおう、二月十四日は避けた。バレンタインのプレゼントはそろそろ食べ尽くしたころだろう」
「お気遣いには感謝だが、なぜ俺にくれようと?」
「うまく作れたからかな」
「なるほど。いい理由だ。自由だな」
「それから、希沙良が、西城にも食べさせたほうがいいと言っていた」
「なるほど。優しい子だな」
「あとは賄賂かな。西城の機嫌をとりたい」
「なるほど。妥当性はあるな」
 こいつはほんとうに度しがたいな、と西城はいまでも思う。
「そう必死に籠絡しようとせずとも、俺の友情は変わらないぞ」
 おおまじめに西城が言うと、十九郎が一瞬、知らない宇宙の言語を耳にしたような顔つきをした。
 一瞬で消しさってはみせたけれど。
「ありがとう。幸甚に存ずるよ」
「ははは。ざまをみろ」





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