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GLASS HEART番外編「Beauty Blood Monsters」【新作/無料記事】

らくがき的な掌編。無料公開です。

※都合により予告なく公開終了することがあります。



Beauty Blood Monsters



 ほぼ致死量のサイレンと厖大なリズムをやりすごしたあと、生還したボーカリストに白いスポット。
 天上からの慈悲みたいに、ステージにふりそそぐ光。
 バラードを低い声で歌いだす彼。
 僕の用意したトラックはわざわざスタインウェイのグランドピアノをサンプリングした機械仕掛けのしろもので。
 だったらピアノでいいのにね。
(本当はどちらでもいいんだけどきみの青い鮮血に似た色をさがしてしまう僕の根深い習性)
 とっておきのベルベットヴォイスを、ひずんだシンセサイザーの音符で分断する。
 ああまるで僕らいま、楽園のぬかるみにはまりこんで出口が見えないひとみたいだな。
 多幸感の罠。
 生け捕りでさ。
 林檎と蛇を見つけだすまで、気をつけて。
 気をつけてね。


 オーヴァークロームという宴は美しく終焉を迎えたけれど、僕が彼のステージを手伝うことはそれほどスペシャルなことではない。後ろにいるときもいないときもある。そんな距離感。たまたま今夜は、僕がいるときだった。たったそれだけ。
「マヒロさあ」
 有栖川とは呼ばずに、ダブルアンコールのあと舞台袖に戻る途上で真崎君が言った。
「あれ生ピアノでいいだろ」
「…………」
 僕は、舞台袖の暗がりで思わず立ち止まり、真崎君の顔を――彼の歌いこなす音楽と同程度に恰好のよすぎる顔を、じっと見つめかえす。
「何」
「いや、三百日前から僕はそう思っていたので、やっと気がついたならよかった」
「マジか……」
 眉をひそめて真崎君がくやしそうな呟きをこぼした。それから、そっぽを向いて言葉を続けた。
「じゃあ変えねえ」
「いいですけど、それでも」
「三百日前に言えよ」
「ちょっと面白かったので」
 僕が二割ほど笑って答えると、真崎君はなにか文句を言いたげに唇を開いた。でも結局ひとつ息をつき、唇の右端をあげた。
「歌ってやるよ、なんでも」
「機械仕掛けで?」
「マヒロ仕掛けで」
「懲りないひとだなあ」
「だよなァ」
 ははっと破顔一笑して真崎君が歩きだす。発光する花みたいに綺麗な背中を鑑賞しながら、僕はゆっくりと彼のあとを追いかける。



終 



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