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ハイスクール・オーラバスター番外編「ツイン」【無料記事】

初出 2022/12発行ペーパー「TWIN」

無料公開です。
※都合により予告なく公開終了することがあります。


ツイン


 七瀬冴子は、おもしろい女の子だ。
 神原亜衣は、そう思っている。
 冴子を形容する言葉のうち最も多用されるのは「美しい」だろう。万人が一致して、美しいと言うだろう。今日も、渋谷のカフェの窓際の席に座る冴子の姿に、店内の客たちも、窓外の通行人も、だれもがちょっと度肝をぬかれて視線を向かわせる。壮麗な美貌はパーフェクトだけれど、やわらかな人間味をともなっていて、可愛くもある。
 亮介の弁によると、冴子のオーラの色は紅蓮の炎の赤なのだそうだ。亜衣には亮介のような特殊な感覚はないが、そう言われればわかる、と感じる。とにかくどこにいても冴子は目立つ。彼女自身が燃えさかる発光体なのだとすれば納得がいく。
 それはそれとして、冴子を形容する言葉の、裏のチャート一位は「おもしろい」だ。
「あのね、亜衣ちゃん。あたし真剣に考えたの」
 ホットのアールグレイにミルクを注ぎ、スプーンでそれをかきまぜながら、冴子が真顔で言う。
 十二月二十五日、クリスマス当日の午後だった。
 亜衣はホットのチャイの表面にシナモンの粉を落とし、マドラーをぐるぐるまわしたところだった。
 ケーキはお揃いのブッシュドノエル。
「あたしたちって、ただならぬ関係よね?」
 睫毛の長い大きな瞳でじっと亜衣の目を見て冴子が問うので、おもしろい、と亜衣はまた思った。
 日本語が微妙におもしろい。
「『普通じゃない』って意味?」
「そういうこと。亜衣ちゃんとあたしの関係を言いあらわすには『友達』じゃぬるいと思ったの。まあ、いわゆる普通の友達がいるかというといない……んだけど……」
 自分で自分にダメージを与えて、冴子がすこし沈みこんだ。
「崎谷君と冴子さんは友達ではないの?」
「亮介ちゃんは、あたしのなかで、『とってもいいものをくれるひと』なの。それこそ亮介ちゃんはサンタ」
「そうすると水沢君がトナカイなのかな」
「だといいわね。なるべくグレないトナカイ希望だわ」
「あたしは冴子さんのことを『同志』とか『戦友』って思うけれど、たしかに前世でなにかあったかも」
「つまり『ソウルメイト』って感じかしら?」
「だいぶ濃い路線になってきたけど」
「変?」
「変でもよくない?」
 亜衣は微笑する。
 冴子が、追いかけるように口元に笑みを浮かべた。
「亜衣ちゃんの度量の広さ、素敵だわ」
「普通じゃないこと、たくさんあったもの。ソウルメイトとの出会いだって、ありうるって信じられるし。なにより崎谷君と出会えたことが、あたしにとってはどう考えても普通じゃない運命だし」
「そうよね」
 冴子が深くうなずく。
 彼女の反応も、きっと世間的には普通ではない。
 恋に浮かれた女の繰り言、という印象でかたづけられるのが常だろう。
「あたしがこういうことを言っても『痛い』って思わない冴子さんも、素敵」
「亮介ちゃんと亜衣ちゃんをあたしは信仰してるの」
「すごい」
「ふふ」
「じつは、今度のお正月に、崎谷君をうちの家族に紹介することになったの」
「本当!?」
 大声をあげかけて、冴子が掌でくちびるを覆った。
「最高だわ……幸せな展開! 乙女の夢!」
「それで崎谷君、訪問マナーについてわざわざ里見さんに相談してるの。あたしは、格式張った家じゃないから普段通りでいいって言ってるのに」
「十九郎君は歓迎してくれると思うわよ」
「ただ、里見さんって手を抜かないから『シミュレーションのために、神原家の家族構成と各人の基本的性格をレポートにして提出してほしい』ってメールが来て」
「……亮介ちゃんを止めるべきだったわね」
「里見さんもおもしろがっているのかも」
「それはあるかもしれないわ」
「ねえ、ブッシュドノエル美味しい」
 亜衣がふと言うと、冴子が、そうね、と相槌を打った。
「楽しみね。お正月」
「そのまえに、あたしたちクリスマスを楽しまなくちゃ。三十分遅刻してるサンタとトナカイのぶんも」
「そうよね」
 ふふ、と冴子が再び笑った。




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