【長編戯曲】愛♡(ラブ)和歌山ラブラ・ブラブラクリちょう、ツレもっていこら、レッツラ・ブー

愛♡(ラブ)和歌山ラブラ・ブラブラクリちょう、ツレもっていこら、レッツラ・ブー

登場人物
 ノリ 女
 ツダ  男
 スミ  女
 ポン  男
 紀州犬 男
 梅子  女

 
紀の川のほとり
バンカラな格好に水セッタ(ビーチサンダル)を履いた男(ツダ)が立っている。

ツダ この紀の川の流れの雄大さよ。俺の体を貫いて流れる血潮よ。時に荒々しく、時に雄大に流れるこの大河は、いつまでも俺の心を震わせ続ける。ああ、素晴らしきの紀ノ國和歌山。ああ、たまらない。あでぇ、あでぇ。

下手に二人の女(ノリとスミ)がやってくる。

スミ うわっ、ツダのやつ、本当にいた。
ノリ スミちゃん待ってよ。
スミ あいつなにやってるの、あれ。こんなとこで。
ノリ いつも学校終わりにここで紀の川を眺めて和歌山を全身で感じてるの。
スミ なんか、あでぇあでぇ叫んでるけど。
ノリ 紀の川の雄大さに郷土愛があふれだして、あでぇって叫んでるの。
スミ ヤバいでしょ。
ノリ そう、ヤバいくらい素敵でしょ。
スミ ヤバいくらいキモイ。
ノリ なんでよ。ほとばしる郷土愛、キュンキュンする。
スミ いや、ノリがいいならいいけど。で、どうするの。
ノリ やっぱり無理。
スミ ええー、ここまで来て?
ノリ でも。
スミ じゃあやめる?
ノリ それは……。
スミ 準備してきたんでしょ。
ノリ うん。いろいろ調べてきました。もう徹夜でヘイ・シリ、ヘイ・シリ。
スミ ヘイ、ノリ。勇気を出して告白する方法。
ノリ 「恋愛の神、愛の伝道師、ラブ師匠が厳選。告白する勇気を出す方法ベスト3。第三位は友人に相談する。一人で悩まず信頼する友人に客観的な意見も聞いてみよう」ねえスミちゃん。私、どうしよう。
スミ さっさとしろ。
ノリ 冷たい。「第二位。緊張して喋れなくならないように告白する言葉は決めておく。練習が大事。」ねえツダ君。
スミ どうもツダです。なんだいノリコさん。ボクになにか?
ノリ ツダ君。好き。
スミ いいんじゃない。
ノリ スミちゃんは告白しやすいねえ。
スミ なにそれ、ほめてる?
ノリ そして堂々の第一位は、
スミ 一位は?
ノリ 「続きが気になる方は、月々たったの一万円で恋愛指南書が見放題。ラブ師匠のラブラブノート。今なら一年まとめてで一割引き」
スミ 払ったの?
ノリ 払えるわけがない。大学受験を控えた高校三年生は色々物入り。貧乏人は恋もできないっていうの?
スミ そんなことないとおもうけどねえ。
ノリ どうしようどうしよう。一万円払えないばっかりに私は永遠に一人ぼっち。このまま、ずっと一人寂しく死んでいくんだ。もうそれを考えただけで死にそう。
スミ 死なないで。
ノリ 死なない。
スミ 大丈夫。私達ズッ友でしょ。なにがあろうが私たちの絆は永遠。
ノリ スミちゃん、好き。
スミ だから私に告白してどうするのよ。
ノリ 本当、スミちゃんは告白しやすい。しやすすぎる。
スミ ノリ、あんたはカワイイ。そして性格もいい。唯一の欠点は男の趣味がクソ悪いぐらい。
ノリ そんなあ、照れるよ。
スミ ほめてない。あんな変な男と付き合ってほしくないけど、ノリが振られるなんてあり得ない。私はどうしたらいいの?
ノリ 成功を祈ってよ。
スミ そう、私にできる事はノリの幸せを祈る事。ああ、神よ。なぜこのような試練を私に与えたもうのか。友人の幸せを願えば願うほど、友人が不幸になるのではないかという思いが増していく。この矛盾は神のイタズラでしょうか。神よ助けてください。ああ、ツラい、ツラいよ。あでぇ、あでぇ。
ノリ スミちゃん素敵。
スミ ツラさが、あでぇとなってあふれ出た。
ノリ まるでツダくんみたい。
スミ くっ。死にたい。
ノリ 死なないで。
スミ 死なない。
ノリ そんな重たいのじゃなくて、もっときゃっきゃウフフな感じな。
スミ 乙女の恋愛といえば恋占い。
ノリ ヘイ、スミ。今日の私の運勢は?
スミ 金運。わるし。出ていく。
ノリ くっ。いきなりキツイ。
スミ 失せ物探し物。よい。すぐに見つかる。
ノリ よしっ、いいよいいよ。
スミ 対人運。わるし。親友を失う。
ノリ くっ。そんなスミちゃん、ヒドイ。
スミ 占いだから。大事なのは次、恋愛運。
ノリ そう今は金よりもテストの点よりもスミちゃんよりも恋愛運。
スミ もうやめていい?
ノリ 駄目。
スミ 私と恋愛運どっちが大事なの。
ノリ 恋愛運。
スミ 即答しやがった、この恋愛ジャンキーが。いいよ、教えてやるよ。
ノリ どんとこい。
スミ あなたの恋愛運は、
ノリ 恋愛運さえよければ。
スミ 絶好調。あなたの恋愛運はここ10年間最高です。告白すれば成功間違いなし。
ノリ やったぁ。よかったよかった。よしよし、成功したも同然だ。よかったよかった。もうこれは成功か。てか成功した。やった。成功したかあ。じゃ帰って猫動画でも見ながらベッドの上でだらだらしよっと。
スミ 駄目。
ノリ 駄目か。
スミ まだ続きがあるよ。
ノリ それを早くいってよ。はやく続き続き。
スミ ラッキーアイテムさえあればなにもかもがあなたの思い通り。そんなあなたのラッキーアイテムは、
ノリ ラッキーアイテムは?
スミ ラッキーアイテムは。
ノリ ラッキーアイテムは。
スミ 続きが気になる方は、
ノリ いやな予感。
スミ 月々たったの一万円で恋愛占いの権化(ごんげ)、ラブ師匠の恋愛占いの全てが見放題。ラブ師匠のラブラブホロスコープ。今なら、一年まとめてで一割引き。
ノリ ラブ師匠めっ、払ってやるよ。大学進学の為の大事な模擬試験のお金使い込んでやるよ。
スミ ヤケになっちゃ駄目だよ。
ノリ 今は金よりもテストの点よりもスミちゃんよりも恋愛運なんだよ。てやんでい、もってけペイペイ! さあ、ラッキーアイテムはなんだ。
スミ 犬。
ノリ イヌ?
スミ 犬。
ノリ 犬って、わんわんの犬?
スミ ほら、ここに犬って。
ノリ それだけ?
スミ しか書いてないけど。
ノリ どうしよう。犬なんていないよ。
スミ 犬って言われてもねえ。
ノリ 犬を探さなきゃ。犬はどこ。

犬のお面をつけた者(紀州犬)が歩いてやってくる。

ノリ あ、犬だ。
犬 どうも犬です。
スミ 犬なの?
犬 わんわん。ほら犬ですよ。
スミ わんわんって鳴いてるし、犬って言ってるから犬だ。けど、なんでこんな所に急に犬が?
犬 わんわん。紀州犬ですよ。
ノリ なるほど、紀州犬なら和歌山にいるね。
犬 そうです。和歌山産の天然記念動物なので、紀州犬は和歌山にいます。
ノリ すごい。探し物すぐに見つかった。
スミ 失せ物探し物。よい。すぐに見つかる。
ノリ ラブ師匠すごすぎる。マジ神。
スミ これでばっちりでしょ。さあ、いっといで。
ノリ うん。ありがとう。私、行ってくる。成功を祈って見守っててね。
スミ それは無理。
ノリ えっ、なんで?
スミ 親友よりも恋愛なんでしょ。私を捨てたのはノリの方でしょ。
ノリ くっ友人を失った。
スミ 対人運。わるし。親友を失う。
ノリ さすがラブ師匠、嫌なほど当たるぜ。一万円の価値はある。
スミ あなたの恋愛運は絶好調!あなたの恋愛運はここ10年間最高です。告白すれば成功間違いなし。
ノリ 行くしかねえ。けど行けねえ。
スミ もう付き合ってらんない。私は帰るから、とっとと行けっ。ばいばーい。

スミ、ノリを押しだして去る。
ノリ、押された勢いでツダの前に来る。

ノリ あの。
ツダ なんや、敵襲か!
ノリ ツダくん。
ツダ おまん、都会人か!
ノリ 違うよ。和歌山県民です。
ツダ ウォーター!
ノリ え?
ツダ これがわからんのは、やっぱり都会人とちゃうか?
ノリ ごめんなさい、急だったんで。もう一回お願いします。
ツダ ウォーター!
ノリ たとえば水!
ツダ なんよ、紀州人やいしょ。初めましてでも紀州人はみんな友達、紀州のワ!
ノリ あ、あの、一応、同級生なんだけど。
ツダ ほんまけ。わりよぉ。覚えとらんで。
ノリ ノリコです。
ツダ ノリやんか。生きとるけ。
ノリ 生きてる。
ツダ ほうけ、ほな。
ノリ か、帰るの?
ツダ おう。一人で端っこで突っ立ってて、疲れたんよ。
ノリ 待って。ツダくんちょっといい?
ツダ なんよ。
ノリ ちょっと話が。
ツダ 話。大事な話か?
ノリ うん、結構。
ツダ ちょいまちぃ。
ノリ なに。
ツダ きぃつけや。奴らが聞いとるかもしれん。
ノリ やつら?
ツダ 都会人よ。都会人。てきゃ(やつら)こっち見下してみおる。水セッタ(ビーチサンダル)も理解できんくせに、都会ちゅう暴力ふるってこちらを観察しおる。
ノリ そうなの?
ツダ てきゃ、あがら(私達)の生活をねらっとるんや。所詮利権狙いのサル山のボスや。大事な話をする時はきぃつけや。
ノリ うん。気をつける。
ツダ で、なんよ大事な話て。
ノリ あの、あのね。私……ツダ君のことがね、
ツダ なんや。
ノリ す、す、
ツダ す?
ノリ すすす。
ツダ すすす?
ノリ 涼しくなったね。
ツダ せやなぁ。もう秋よ。
ノリ もうすぐ冬だね。
ツダ せや、あっちゅうまに冬よぉ。
ノリ やっぱり無理かも。助けてぇ。

ノリが振り返ると、もうスミはいなくなっている。

ノリ いないし!
ツダ なんよぉ。
ノリ ううん。テレビでもこれから寒くなるって。
ツダ いかん。テレビはいかんで。テレビはあいつらの陰謀よ。
ノリ 陰謀?
ツダ テレビっちゅうんは都会の人間が自分らの文化を押し付けるために垂れ流しとる洗脳装置よ。
ノリ 洗脳? 怖い。
ツダ せや。おかしい思わんか? 行くこともない都会のシャレこいたカフェら見てあがらになんの得があるんな。
ノリ もうテレビ見れない。
ツダ テレビらみんでも、あがらには、こん街があらあ。みてみぃ、歴史と伝統ちゅうんあるこん街、都会人にはわからへん、素晴らしい時間がながれちょる。あでぇ。
ノリ 郷土愛がすごいね。あのね、ツダくん。
ツダ なんよ。
ノリ ツダくんが、す、す、す、
ツダ すすす、
ノリ すすすすす
ツダ すすすすす
ノリ すー。スミちゃーん!
ツダ なん、スミはんがおるんけ?
ノリ あ、うん。知ってるの?
ツダ 同級生のスミやろ。なんやスミんツレ(友達)け?
ノリ かわいいし明るいしやさしいし人気あるもんねえ。ツダくんもスミちゃんみたいな人好き?
ツダ せやあ、しっかりしとって、男らしいと思たら、情にもあつい、まさに紀州娘(きしゅうむすめ)らしいてええスケ(女)や。
ノリ だよねえ、私とちがって。ツダくんも紀州人っぽくて素敵だね。
ツダ ほんまけ?
ノリ 郷土愛があふれてるところが素敵なだって。
ツダ ほうか? せやかて、アタリマエんことやいしょ。あがの生まれ育った街を愛する。そいが普通よ。それがあかんこととちゃうんけ?
ノリ ううん。素敵。二人はお似合いかも。
ツダ あんがっとう。そうけ?
ノリ 素敵すぎる。
ツダ ほな、用事ないんやったらもうええか。
ノリ え、
ツダ こんあと、用事があるんやけど。
ノリ そ、そうなんだ。
ツダ ええけ?
ノリ あ、そのう。うん。ごめんね。
ツダ ほな。

紀州犬が駆け寄ってくる。

犬 わんわん。
ツダ なんじょ。
犬 犬です。わんわん。
ツダ 犬?
犬 わんわん。ほら犬でしょ?
ツダ ほんまや。犬よ。わいは犬はすかん。
犬 わんわん。けど紀州犬ですよ。
ツダ あでぇ。紀州産の天然記念動物、紀州犬やいてぇ。
犬 イノシシ狩っちゃうぞ♪ わんわん。
ツダ あでぇ。イノシシがりに利用されるっちゅう、そん気性の荒さ。がいに(まさしく)天然記念物。紀州の誇り。あでぇ。かいらしよぉ。
犬 わんわん。彼女がなにかいいたいようですよ。
ツダ ほうけ?
ノリ あ、そのう。
犬 わんわん。
ツダ なんじょ?
ノリ あのう。忘れちゃった。
ツダ なんよぉ、それ。
ノリ ごめんね。
ツダ しゃあないな。
ノリ うん、ごめんね。
犬 わんわん。
ツダ かいらしよぉ。ほいたら。
ノリ うん。ありがとう。

ツダ、去る。

犬 わんわん。
ノリ かわいいなぁ。
犬 よく言われます。わんわん。
ノリ あーあ、私、だめだなぁ。
犬 そんなことないですよ。わんわん。
ノリ 慰めてくれてるの? かわいいなぁ。
犬 わんわん。
ノリ ああ、占いなんて当たらないんだ。
犬 当たるも当たらないも告白してないですからね。
ノリ そうだよねえ。告白もしてないもんねえ。
犬 そうです。告白さえすりゃ大成功間違いなしだったのに。
ノリ でもねえ。勇気がねえ。私にあの時一万円払う経済力さえあれば、ラブ師匠の告白する勇気の第一位を聞けたっていうのに。
犬 そのラブ師匠っていう人に聞けば勇気が出るのですか?
ノリ そう。けど、むりよ。だってさっき最期の一万円つかっちゃったもん。
犬 こうなりゃ本人に聞けばいいんですよ。
ノリ 本人って?
犬 ラブ師匠ですよ。
ノリ もっと無理よ。どこにいるか分からないんだもん。
犬 困るなあ。ボクを誰だと思ってるんですか。
ノリ 犬。
犬 いいえ、犬は犬でも紀州が誇る天然記念動物、紀州犬ですよ。紀州犬にかぎ分けられないものはない。
ノリ 分かるの?
犬 ええ、すぐ近くからものすごいラブがプンプンする。こんなものすごいラブ臭い人はそうほかにはいませんよ。
ノリ ラブ師匠が近くにいるの?
犬 さあ、行きましょう。愛の世界へ。
ノリ 素敵。愛って素敵。
犬 愛は盲目、目をつむったって、この愛の臭いさえわかりゃ簡単な事。さあ参りましょう。
ノリ レッツラ、ブー!!

暗転。


後ろを向いた女(梅子)が座っている。梅子は、グルグルビン底眼鏡をかけている。
ピンクの空手着のような服を着た男(ポン)が、正拳突きのような動きをしている。

ポン アイ! アイ! アイ!

ノリと紀州犬がやってくる。

ノリ ほんとにこんなところにラブ師匠がいるの?
犬 ええ、間違いありません。愛が溢れだして止まりませんよ。ただあまりに愛が充満しすぎて、どこから愛が出てるのかが、分かりづらいのです。
ノリ 愛が多すぎるのも困るものね。
犬 しかしこの河川敷にいるのはまちがいません。紀州半島を悠々と流れる母なる紀の川は広く広大ではありますが、地道に探しましょう。自分はひとっ走り対岸側をさがしてまいります。ノリさんはほら、あそこに人がいますから、聞き込み調査ですよ。
ノリ あの、へんな動きしてる人?
犬 ええ、捜査は足を使うって昔からの決まりです。では後ほど。

紀州犬、去る。
ノリ、ポンに話しかける。

ノリ あのう、ちょっといいですか?
ポン アイ?
ノリ あれ、同じクラスのちょっと下っ端ボーイ、ポンくんだ。
ポン アイ! 同じクラスの可もなく不可もなくガールのノリコさんだ。アイ!
ノリ あ、あい。こんにちわ。こんな紀の川の河川敷でなにしてるの?
ポン い、いえ。なんでも、そんなノリコさんこそなにを?
ノリ 私も別に散歩?
ポン 散歩ですか。アイ!
ノリ 一つ聞きたいんだけど。
ポン アイ、なんすか?
ノリ ここいらに、あのう、その、
ポン アイ。
ノリ すごい人がいるって聞いたんだけど。
ポン すごい人?
ノリ ラブ師匠っていう人が、
ポン アイ……。
ノリ なに?
ポン アイ……。ラブ師匠は亡くなりました。
ノリ そんなぁ。
ポン 実に偉大な方をなくしてしまいました。アイ。
ノリ どうしよう。
ポン アイ……。
梅子 なにサボってるの!
ポン アイ、梅子さん。

梅子がやってくる。手にはグリーンソフト。

ノリ あ、あなたは、
梅子 あ、あなたは、
ノリ 同じクラスで地味な存在のウメちゃん。
梅子 あなたは同じクラスの可もなく不可もなくガールのノリコさん。
ノリ なぜあなたがここに?
梅子 そ、それは……。
ノリ こんな寒いのにグリーンソフトを食べているなんてよっぽどの変人。
梅子 しょうがないでしょう。ちょっと高くてなかなか食べられないんだから。ポン君も食べる?
ポン アイ、いいんすか。
梅子 臨時収入があったの。
ポン ありがたい。
梅子 ノリコさんも食べる?
ノリ そんなのどうでもいいの。私は今、焦ってるの。
梅子 もったいない。抹茶風味で、甘ったるくなくてスッキリ爽やか。しかもこれはコンビニで売ってる凍らせたやつじゃなくて、お店で買ったソフトクリームタイプ。
ノリ くっ。ソフトクリームは美味しすぎる。
ポン アイ、グリーンソフトを我慢するだなんて。それほど大事なんですか。アイ!!
梅子 どうしたの?
ノリ それは……。
ポン アイ、ノリコさんは、ラブ師匠を探してるみたいなのです。
梅子 ラブ師匠? あなたも恋愛指南?
ノリ まあ、そんな感じ。
梅子 そんなのに頼るなんて終わってる。
ノリ うるさいなぁ。そもそも、もういないんじゃどうしようもないじゃない。
ポン アイ、大丈夫ですよ。
ノリ 大丈夫? どういうこと?
梅子 ちょっと、
ポン この梅子さんこそが、ラブ師匠を超える逸材と言われる師匠の孫。孫ラブなのです。
ノリ ウメちゃんが?
梅子 ちょっとやめてよ。それ。
ノリ うっそだぁ。そんなわけないでしょ。地味でオタクで、クラスの将来結婚できなそうな人アンケート、ナンバーワンのあのウメちゃんが?
梅子 ちょっとひどくない?
ノリ すいません。
ポン 確かに彼女は学校では地味な乙女。でもそれは世を忍ぶかりそめの姿。その実態は愛ゆえに愛を知る女、梅子さんなのです。アイ!
梅子 です。
ノリ 本当に?
ポン アイ、彼女はあの愛は世界を救うと言い続けて金を集め続けた「24時間テレビ」でさえなしとげなかった、世界を愛で救うという偉業をなしとげたラブ師匠をも愛情に溺れさせ、目に入れてもいたくないというほどの愛を注がせた人物。「なんでこんなにかわいいのかよ」というラブ師匠が彼女にこぼした名言は、流行語大賞にもあと一歩だったとか。それこそが師匠の孫。孫ラブ梅子さんなのです。ア~イ!
梅子 そんなそんな。
ノリ 嘘だぁ。
ポン アイ! 彼女のラブスキルは、宇宙を変えるともいわれているのです。みせてやりましょうよ。世界ラブコール!
梅子 やだってぇ、
ポン いきましょう。英語。アイ!
梅子 アイ ラブ ユー。
ポン 中国語。アイ!
梅子 ウォ アイ ニー。
ポン 韓国語。アイ!
梅子 サランヘヨ。
ポン ドイツ語。アイ!
梅子 イッヒ リーベ ディヒ。
ポン イタリア語。アイ!
梅子 ティ アーモ。
ポン フランス語。アイ!
梅子 ジュ テーム。
ポン ロシア語。アイ!
梅子 ヤー ティビャー リュブリュー。
ポン タガログ語。アイ!
梅子 マハール キタ。
ポン スワヒリ語。アイ!
梅子 ニナクペンダ。
ポン ヒンディー語。アイ!
梅子 メイン タムセ ピヤ カルティ フーン。
ポン アラビア語。アイ!
梅子 ウヒッブカ。
ノリ すげぇ。世界中の愛が網羅(もうら)された。
ポン アイ! すごいでしょ?
梅子 もう、やめてよ。
ノリ でもなぁ、なんかただの外国語オタクの可能性も高いな。そもそも、ウメちゃん、モテるの?
ポン アイ、なんてことを!
梅子 そ、それは……。
ポン アイ、くやしいです。
ノリ だって、モテナイ人に教えられてもね。
ポン 梅子さん、見せてやりましょう。アイ!
梅子 やだよ。やめて。
ポン 失礼します! アイ!

ポン、梅子のメガネを無理やりとる。
(梅子は後ろを向いて客席からは顔が見えない)
ノリ・ポン、梅子の顔を覗き込む。

ノリ ひやぁあ。結婚した過ぎる。
ポン アイ!
ノリ こ、これが梅ちゃんの真の姿。
ポン アイ! これこそが梅子さんの本来の力なのです。梅子さんはモテ力が凄まじすぎて大変なことになってしまう。なので、こうやってモテ力を抑えないと周りが大変なことになってしまうのです。アイ!
ノリ す、すごい。
ポン 梅子さんは変身をするたびにモテパワーがはるかに増す。その変身をあと2回も残している。その意味がわかりますか。
ノリ ぜ、絶望的なモテパワー。これが孫ラブのパワーだというのか。
梅子 もうやめてよぉ。よく見えない。
ポン アイ! 梅子さん! 好き。
梅子 ごめんなさい!
ポン アイ。駄目でした。
梅子 メガネ返せ。
ポン (眼鏡をかえす)あいすいません。
梅子 (眼鏡をかける)もう、ほんとにポン君は油断するとすぐ告白するんだから。
ノリ 師匠。
梅子 師匠って。
ノリ お願いします。そのラブパワー、私に少しでもお与えください。
梅子 なによラブパワーって。
ノリ 私はどうしても告白する勇気がほしいんです。
梅子 告白する勇気?
ノリ どうしても告白できないんです。
梅子 そんなの頑張ればいいんじゃないの。
ノリ 私、意気地なしな自分を変えたいんです。
梅子 そうは言われてもねえ。
ノリ なんでもします。
梅子 なんでも?
ノリ はい、軽いボディータッチまでなら笑顔で返してみせます。
ポン ほ、本当ですか?
ノリ お前はダメ。
ポン くそっ。修行だ。アイ、アイ、アイ!
梅子 まあ、そんなに難しい事じゃないけど。
ノリ お願いします。
梅子 そんなに知りたい?
ノリ アイ!
梅子 ラブ師匠秘伝の告白する勇気を出す方法ベスト3、第三位、友人に相談する。
ノリ イタタタタ。さきほど親友を失ったばかりの私には無理なんです。
梅子 じゃあ、第二位。緊張して喋れなくならないように告白する言葉は決めておく。
ノリ 好き。
梅子 いいじゃない、じゃあ堂々の第一位。
ノリ アイアイ! 知りたいです。
梅子 三つあるというその秘伝、第一位の秘密。どうしても知りたい?
ノリ アイアイアイ!
梅子 続きが気になる方は、
ノリ いやな予感。
梅子 月々たったの二万円で恋愛指南書が見放題。ラブ師匠のラブラブノート。今なら、一年まとめてで、5パーセント割引きっ!
ノリ ドチクショー! やっぱりか。値上がりまでしてやがる。
梅子 燃料費が高騰してるからね。
ノリ 燃料費って何だよアーーーイ!
ポン これが梅子さんの第二の姿。ゼニゲバ。
ノリ せちがれええよ。
梅子 世の中金でっせ。
ノリ そればっかりはどうにもならないんです。
梅子 あんさん、なんでもするいいましたがな。
ポン こうなった梅子はんは、愛の鬼、ひとよんで、キシュウの帝王。
梅子 愛ちゅうんはかなしいもんや。結局愛があっても金がないと幸せにはなれん。
ポン ウメはん、おうじょうでっせ。
梅子 女は愛嬌や、あんさん、ええ体してまんにゃあ。
ノリ あかん、あかん、ウメはん、かんにんや。
梅子 なんでもやるいいましたやろ。
ノリ かんにん、かんにんやでー。
梅子 ええか、ノリコはん、愛は待っとったってあかん、奪い取るもんなんや。わても鬼とよばれとるが、情がないわけやない。金がないもんには第一位の方法は教えられんが、一つ、ええことおしえたりましょ。
ノリ ウメはん!
ポン ええんでっか。ウメはん。
梅子 愛はヒトのためならずやで、ポンはん。
ポン ウメはん、好き。
梅子 ごめんなさい。
ポン アイ。やはり血も涙もない。
梅子 そこに愛はあるんか?
ポン ウメはん……。
梅子 ノリはん、あなたに耐えることができるかどうか。
ノリ なんでもやります。お願いします。
梅子 覚悟はあると?
ノリ はい。
梅子 じゃあポンさん。教えて差し上げて。
ポン はい。じゃあやりましょう。
ノリ は、はい。ってなにを?
梅子 音楽スタート。

BGM……ぶんだら節

ノリ これって。
梅子 さあ、踊って。
ノリ これって紀州の夏の風物詩、盆踊り「ぶんだら節」でしょ。
ポン やーれゆっけっ、そーれゆっけっ。
梅子 いいから踊ってみるの。
ノリ はい。

一番を踊り終わる。

ノリ これと告白はなにか関係が?
梅子 わからないの?
ノリ いや、普通に踊ってるだけだし。
梅子 しかたないわね。ポンくん。
ポン はい。
梅子 行くわよ。(メガネを外す)
ポン キュン。

梅子、踊りながら

梅子 まずは、相手へ自分を見てもらう。はいはーい。
ポン あ、梅子さんだ。
梅子 拍手のリズムで相手の懐へ近づいていく。
ポン なになに? ドキドキしちゃう。
梅子 と思ったら引いて相手の気持ちを引く。
ポン なんだろう。さみしくなっちゃう。
梅子 揺れる乙女心を表現っ。
ポン 揺れちゃう、心揺れちゃう!
梅子 もう一度拍手しながら、行きますよ行きますよで期待感を煽る!
ポン ドキドキしすぎて死んでしまう。
梅子 どんとどどんと、相手の気持ちをゆさぶる。ドン!
ポン ああ、気持ちが揺さぶられる。
梅子 それ、やーれいっけそーれいっけ。
ポン わー! なにがくるのドキドキするぅ。
梅子 シャンシャンシャンで、スキッ。
ポン 好きすぎる!

ポン、梅子に抱きつこうとするが、梅子に顔に平手打ちで返り討ちに合う。

ポン ひ、ひどい。私をもてあそんだのね。心が痛い。てか、顔が超痛い。
ノリ す、すごい。なんて効果。
梅子 どう、この動きには相手の気持ちを見事に動かす魔法のような踊りなの。
ノリ この踊りにこんな秘密があったなんて。
梅子 当たり前よ。
ノリ どういうこと?
梅子 この踊りを作ったのは誰か?
ノリ ま、まさか。
梅子 私のおばあちゃん。初代ラブ師匠よ。
ノリ そ、そんな。
梅子 そしてこの曲のリズムとメロディーは、祭りの雰囲気を作り出し相手は興奮してしまう。
ノリ 確かに祭りはエロい。
梅子 そう。祭りこそが日本古来の男女の出会いの場。そして現代人に通ずるこのノスタルジーさ。この踊りを見て聞いて、地元の人間は子供の頃の懐かしい記憶が刺激される。そうして温かな記憶を思い返すとともに、相手の心に深く入り込む。これぞ極意。
ノリ す、すごい。
梅子 そして、ぶんだらを逆から読んでみたら?
ノリ らだんぶ。
梅子 略して?
ノリ ああっ! ラブ!
梅子 そう、計算しつくされたラブダンス。それがこのぶんだら節なの。
ノリ 知らなかった。
梅子 さあ、これをあげるわ。
ノリ こ、これは。

梅子、ウチワを持ってきて、みんなに渡す。

梅子 さあ、踊るわよ。
ノリ はい!

BGM……ぶんだら節
踊ろうとしていたところへ、紀州犬が駆け込んでくる。

犬 大変です。ぐっぐはぁ。
梅子 わ~、わんちゃん♪ かわゆい。
ポン そんな犬と戯れる梅子さん、かわゆい。
犬 くーんくーん。なんだこの圧倒的モテパワーは。ついくーんといってしまう。くーん。
ノリ 犬さん、どうしたの? そんないあわてて。
犬 はっ、そうでした。わたくし、対岸でツダくんとばったり出くわしたのですが、そしたら、た、大変な。あ、あれを。
ノリ なに?

ツダが、やってくる。
しかし今風の東京で流行っている感じのファッションに身を包んでいる。

ツダ 紀の川なんかは、いつもかわらんから。一皮むけたぜオレは火の玉。咲かすぜ一花、一泡くらわす。オレの勢いにみんな白旗。オレはニコヤカに笑うぜピースっ。
ノリ ツダくん!
ツダ へーい、ツダ・イン・ザ・リバー。
ノリ どうしたの、ダジャレなんか言って。
ツダ ラップだから。ラップ。今、めっちゃ流行ってるの。
ノリ それにその格好。
ツダ この服、東京で流行りの最新ファッション。オレは選ぶぜ最新バージョン。地元の服屋で買うのは馬鹿チョン。もちろん買うのはアマゾーン。いえー。
ノリ 急にどうしたの?
ツダ 東京に進学決まったから。
ノリ そうなの?
ツダ 受かるわけわけないと思ったんだけど、意外と受かるもんだね。
ノリ それはもしかして。
ツダ 慶応大学。
ノリ ぐっ、パリピー大学っ。
ツダ 東京で青春エンジョイよ。
ノリ 郷土愛はどうしたの?
ツダ 和歌山大学より慶応のほうがいいでしょうがぁ!
ノリ ぐっ、言い返せない。
ツダ 和歌山なんかダメダメ。だってダサいもん。ファッションなんて10年遅れて流行ってんだぜ? このネット時代にやばくね? やっぱりさぁ、若いんだから東京のさぁ、最新のファッションがいいよねぇ。
ノリ ぐっぐふぁ。東京にかぶれておる。
ツダ 君もさぁ、そんな梅干し臭いファッションはやめれば?
ノリ 一体なにがあったっていうの?

でかいサングラスにギャルファッションのスミがやってくる。

スミ おくれてごめーん。
ツダ ハリアーップ。タイムイズマネー。ヤーマン?
スミ あ、ノリ。
ノリ え、なんで?
スミ あ、ヤバッ。
ツダ なに、どしたの?
スミ あ、ううん。
ツダ いやぁ、スミちゃんが慶応受けてみればって言ってくれて。マジスミちゃん神。
スミ 私も慶応受かったんだ。
ノリ くっ、バラ色の未来しか見えねえ。
スミ あんたも大学ちゃんと決めないから。
ノリ 息ができぬ。私達、親友でしょう?
スミ あんたが友達より愛をとったんでしょ。
ノリ なんも言い返せねえ。
犬 だ、大丈夫ですか?
ノリ だ、駄目。
スミ もう行こうよ。
ツダ だな。この後、ヒップホップイベントに行くんだ。
ノリ くっ。最後の高校生活を楽しんでやがる。
ツダ じゃあ。
スミ あんたも早く将来と愛を見つけなよ。
ノリ だめだぁ。ガクッ。
犬 ノリさん。
梅子 今こそ、修行の成果を見せる時でしょ。
ポン そうだ。みせてやれ。ラブを。
ノリ そ、そうね。私頑張る。
犬 いきますよ~~!
スミ なんなの?
ツダ お、このビートは?

BGM……ぶんだら節
力の限り、踊る三人。

梅子 さあ、これで効果があるはずよ。
ノリ 本当ですか?
梅子 ほら、見てみなさい?

と見ると、スミとツダは、スマホを観たり、あくびをしたりしている。

ノリ なぜだあ。
ツダ もう、オレ言っていい? 早くクラブゲートに行きたいんだけど。ヤーマン?
ポン 全然効いてないだと!
スミ バカねエ。そんな古臭い踊りが効くわけないでしょう?
梅子 そんなバカな。ラブ師匠のぶんだら節は和歌山を愛する者には絶大なる効果を発揮するというのに。
ツダ ケーポップまじかっけぇ。
ノリ どういうことなの?
スミ 今、時代はね、ケーポップなの。愛だ恋だよりかっこいいの時代。そんな盆踊りラブなんて古臭い。
梅子 古臭いなんて、伝統っていうものでしょう?
スミ ふん。伝統なんてただ昔のモノマネ、本当の文化っていうのは進化させるものなの。今を生きる私たちには、今の文化が必要なの。
梅子 くっ。なんてラブ力。お前、なにものなんだ。
スミ 忘れたの?
梅子 そんなへんなサングラスした人しりません。
スミ 私を忘れたの?
梅子 なに?
スミ お久しぶりね。梅子さん。

スミ、サングラスを外す。

梅子 あ、あんたは!
ノリ スミちゃんでしょ?
梅子 あいつは駄目だ。
ポン 師匠。どういうことなんですか?
梅子 やつは、やつだけは……。
スミ そう、私は梅子さん、あんたの従妹。
ノリ そうなの? 親戚?
ポン と、ということは!
スミ そう、私もラブ師匠の孫。
ノリ どうりで、告白しやすいと思った。
スミ あんたのラブパワーを私も持っているという事。ポンくん。そんな奴より、一緒に私達とクラブ行きましょうよ♪
ポン なんてパワーだ、吸い込まれていく。
ノリ ちょっとしっかりしなさいよ。
梅子 くっ。駄目だ。すごいパワーだ。
スミ あげぽよ~~♪

ポン、二人の間で引っ張られているように苦しんでいる。

ポン くぅ、二人に引っ張られて体がちぎれそうだ。
ノリ どういうこと?
犬 二人のモテパワーがすごすぎて、ポンさんが、どちらに引かれるかで勝負が決まるようですよ。
スミ ふふふ。やるわね。
梅子 あんたこそ。
ポン だあ、好きだぁ。二人とも好きだあ。
ノリ がんばって、梅子さん。
梅子 うっ、くそっ。
ポン あ、あ、あ、あ、
犬 アイだろ! アイだろ?
ポン あげぽよ~~~~!
ツダ ヘイメーン。アゲアゲ!
ポン アゲアゲ!
ノリ そんな、梅子さんが負けるだなんて。
犬 それほどの力を、なぜ?
梅子 くっ。
スミ 当たり前でしょう? 私があんたに負けるわけがないの。
ノリ どうして?
スミ 梅子さん、あなたは何月生まれ?
梅子 9月です。
スミ 私は4月。
ノリ それがどうしたっていうの?
スミ まだ分からないの? 私はあんたより生まれたのが半年早い! つまり、私はラブ師匠の初孫!
梅子 だめだぁ。ガクッ。
犬 梅子さん、しっかりしてくれ。
スミ ただの孫と初孫じゃあ、かわいさが全然違う。初孫が一番かわいい!
ポン アゲアゲ~~!
ツダ ハツマゴ、勝つだろ、これこそラブだろ~。あ~~い。
ノリ ひどいよ。スミちゃん。
スミ ひどいのはあなたよ。私はあなたを応援していたのに、そんな私より、こんなダサい男を選んだ。
ツダ あ~い?
スミ あんたに教えてあげる。いい、愛はね、待ってるだけじゃダメなの。奪うものなのよ!
ノリ アアアアアイ!
犬 ノリさん!
スミ さあ、クラブゲートへ、レッツラ・ブー。
ポン・ツダ アイア~~イ。

ツダ・スミ・ポン、去る。

犬 ど、どういうことですか?
梅子 いわゆる親友に男を取られたやつね。恋愛マンガのセオリーよ。
犬 おー、すげぇ、ぼく初めて見ました。
梅子 もう彼女、駄目かもね。
犬 そんな、頑張って告白するんでしょう? ノリコさん、立つんだ、立つんだノリー!
梅子 あなた、それでいいの?
ノリ 私、私……。
梅子 泣けばいい。きっと時間が解決してくれる。
ノリ 私、負けない。
犬 ノリコさん!
ノリ 私、このままじゃ終われない。このままじゃ、きっと後悔する。告白してもないのに、失恋なんかできない。
梅子 そう。あなたはまだ失恋すらしてない。
ノリ 私は、私は告白したい。振られたっていい。私はこの気持をツダくんに伝えたい。
梅子 あんた、いいガッツもってるわね。もう私に教えることはないかもしれない。
ノリ そんな、けど私、
梅子 勇気、まだない?
ノリ はっ、私、今ならできる気がする。
梅子 そう。答えはあんたの中にある。
犬 うわっ、うさんくさい。
梅子 けど、このまま告白しても、可能性は低い。相手が悪すぎる。
ノリ どうしたらいいの? 教えて。お願い。なんでもするから。
梅子 若いね。若くて青くてキュンとしちゃった。
ノリ 私達同級生だけど。
梅子 バカ。そうじゃないの。
ノリ すいません。
梅子 愛とは何か。
ノリ 愛とは。
梅子 愛とは何か?
犬 愛、あなたと一緒にいたい。
梅子 愛とは何か? 
犬 愛、それはエサをくれる。
梅子 愛、それは幸せそのもの。
犬 愛、未来への合言葉
梅子 愛があれば、世界は一つになる
梅子・犬 愛こそ全て!
ノリ 素敵。おひねりしちゃいそう。
梅子 してもいいよ。
ノリ すいません。お金はありません。
梅子 そうでした。
ノリ 結局どういうことですか?
梅子 最期の秘密、告白する勇気をだすベスト1。
ノリ 教えてくれるんですか?
梅子 は、有料なので教えられませんが。
ノリ このゼニゲバ。
梅子 愛とは何か。そして、最上級の愛を知ることができれば、あなたは最高の愛の伝道師になることができる。
ノリ 愛の伝道師。
梅子 そう。最上級の愛。
ノリ お願い教えて。私はもう前に進まないといけない。このままずっと後悔して生きる訳にはいかないの。
梅子 最上級の愛。それは、
ノリ それは、
梅子 神の愛。
ノリ 神の愛。
梅子 神が我々人類に残した最期の希望。無償の愛、無差別の愛。
犬 ウメさんが、つ、ついに神の領域に……!
ノリ ああ、これこそが最後の姿、シン・梅子さん。
梅子 わかりました。では行きましょう。
ノリ ど、どこへ?
梅子 愛を知る場所。
ノリ 愛を知る場所。
梅子 そうです。
犬 結局どこですか?
梅子 愛知県。
ノリ 愛知県?
犬 そんな、愛知県だなんて。
ノリ え、愛知ってあの愛知でしょ?
犬 大変なことになってきた。
ノリ そうなの?
梅子 あなたに愛知に行く勇気はあるかしら。
ノリ え、愛知でしょ。名古屋のある愛知県でしょ。
梅子 そうです。
ノリ 普通に行けると思うけど。
梅子 普通行かない。愛知はいかない。
ノリ え、そうなの?
梅子 あなたはある? 愛知に行った事。
ノリ 確かにないけど。
梅子 東京ならわかる。楽しいから。
犬 東京は楽しい! なんでもある!
梅子 けど遠い。東京には及ばないけども、大阪ならまだ近い。
犬 大阪かて、東京もんにはまけへんで!
梅子 けど、愛知に行く理由はない!
犬 愛知に行くなら、東京行っちゃう。愛知に行くなら、大阪でいい。
梅子 紀州和歌山県民が最も遠い場所。愛知。そこに愛がある。
ノリ さすがに怒られますよ。
梅子 ごめんなさい。そういうナンセンスギャグだと思って許してください。
犬 全てを許すこと、それが無償の愛。笑って許して!
梅子 さあ、愛を知りに行くよ。
ノリ まあ別にいいですけど。愛が分かるなら。
犬 すごい勇気だ。
ノリ 今さらですけど、これは恋愛ドラマではなかったんですね。
犬 犬が喋ってる時点でそれはないでしょう。
ノリ なるほど。
梅子 さあ、行きましょう。
ノリ あ、は、はい。
梅子 あなたはどうするの?
犬 ここで待ちます。
梅子 まさに忠犬紀州公。
犬 銅像はぶらくり丁によろしくおねがいします。
梅子 あんな寂れたシャッター街でいいなんて慎ましいその姿まさに天然記念物。
犬 うちてしやまん紀州魂。
ノリ あなたはなぜそこまで私を助けてくれるの?
犬 いいのです。ワタクシは所詮犬。この方を生涯の主人と決めたらなら、その忠誠を守り抜くだけなのです。
ノリ でも、私あなたの飼い主じゃないけど。
犬 あなたはおぼえていないかもしれませんが、昔私がこの紀の川の河川敷に捨てられて一匹で泣いているとき。ある方に拾われ、そしてこうやって生き延びたのです。その方は、とても可憐な女の子でした。
ノリ それ、私じゃないかも。
梅子 それ、私かも。
犬 そうなんですか?
ノリ 人違い?
犬 わおーーーーん。
梅子 じゃあ行くわよ。
ノリ ええ。

梅子・ノリ、去る。
紀州犬がそれを見送る。
紀州犬の吠え声が響いている。
溶暗。


ゆっくりと明るくなる。
そこへ、スーツ姿のツダがやってくる。

ツダ 十年ぶりか……。久しぶりにこの街に帰ってきて、その母のような大きな川のたゆたう流れを前にしてわかることがある気がします。静かに、時に荒々しく、この町の中心を流れ続ける紀の川は、遠く離れていても都会に汚れた私を洗うかのように血潮のように体の深い所を流れているのを感じる。ああ、あふれ出るこの思いは、あでぇ、あでぇ。ん?

ツダ、振り返る。

犬 わんわん。
ツダ この鳴き声は……。

ツダがふりかえると、紀州犬がいる。

ツダ 君は紀州犬じゃないか。懐かしいなぁ。
犬 わんわん。
ツダ なんだかひどくよれよれじゃないか。もう十年もたってしまったんだ。君ももう老犬なんだろうな。もしかしたらあの紀州犬の子供なのかい?
犬 わんわん。
ツダ 君ももう喋るのをやめてしまったのか。
犬 わんわん。
ツダ さて、本物の日常に戻るとしようか。この街の埋もれる日々を探すために新しい明日を探していこう。
犬 わんわん。
ツダ なに、邪魔しないでくれないか。

ピンク色の警察風の制服を着て、でかいサングラスをかけたポンがやってくる。

ポン はいそこ、なに勝手に愛(め)でちゃってんの、ダメだよ。

紀州犬、ポンのところへ駆け寄る。

ツダ あ、すいません。
ポン あと、立ち入り禁止の看板あったでしょ。だめだよ勝手に入っちゃ。
ツダ 立ち入り禁止? 紀の川はみんなのものでしょう?
ポン ああ、最近きた人? 紀の川はもうすぐ工事するからね。
ツダ 工事?
ポン そう。紀の川は新しく紀州ラブアンドドリームテーマパークにするのに地下に埋め立てるんだよ。工事するから一般人は立ち入り禁止なの。
ツダ 紀の川を埋めてしまう?
ポン そう。別に珍しくないでしょ。東京だって、地下に暗渠(あんきょ)作って川を埋めて道路作ったりしてるでしょ。ついにわが町愛の和歌山もそこまできたんだよねえ。うんうん。
ツダ そんな、母なる紀の川を潰してしまうだなんて。あでぇ、あでぇ。
ポン おや、よそ者には到底まねできない郷土愛に溢れたその、あでぇは、
ツダ すいません。つい、忘れかけていた郷土愛があふれ出て、あでえしてしまいました。
ポン ツダくん?
ツダ は、はい。どこかで。
ポン オレオレ。
ツダ すいません、ちょっと。
ポン 忘れちゃった? まあ、それもしかたがないかなあ。昔とは大分変わってしまったからね。(サングラスを外す)ほら、オレだよオレ。
ツダ ああっ。
ポン そう、懐かしいなあ。
ツダ クラスメイトの……。
ポン そうそう。元気そうじゃん。
ツダ 伊藤君?
ポン ちげえよ。あんな奴といっしょにすんなよ。オレだよオレ。
ツダ すいません。ちょっと……。
ポン しょうがないなあ。アイアイア~イ。
ツダ その、面白くないギャグは同じクラスのちょっと駄目ボーイ、ポンくん。
ポン なんだよそれ。
ツダ ごめんごめん。すっかり変わってて分からなかった。
ポン まあね、今はしがない税金泥棒ですから。
ツダ 税金泥棒?
ポン 公務員ってこと。見りゃわかるでしょ。
ツダ 見たら余計にわからない。
ポン なんでだよ。どっからどうみても
ツダ どうみても?
ポン 愛を取り締まる恋愛警察・ラブポリス。
ツダ ラブポリス?
ポン 捕まえちゃうぞ?
ツダ ああ、なるほど。
ポン そう、そういうこと。
ポン どういうこと?
ツダ 公務員ってストレス多いもんね。そういう趣味も悪くないと思うよ。
ポン なんだよその偏見。
ツダ 違うの?
ポン 違うよ。ほら。(恋愛警察手帳を見せる)
ツダ 本物?
ポン いや、だからいってんだろ。
ツダ なんなのそのラブポリスって。
ポン なにって知らないの?
ツダ 今日、こっちに引っ越して戻って来たばっかりで。あんまりよく分からないんだ。
ポン 嘘だろ。どこにいたんだよ。北極? 南極?
ツダ 普通に東京だけど。
ポン 東京なら、この町の噂ぐらい聞いてるだろ?
ツダ 噂?
ポン 今やこの町は愛の街として世界に向けて発信する愛ラブ和歌山として生まれ変わったんだぞ。東京にだって届いてるだろうが。
ツダ 初めて聞いたなあ。テレビでもネットニュースでも聞いたことないけど。
ポン SNSでも毎日のように愛ラブ和歌山がランキングにはいってるだろ?
ツダ みたことないけどなあ。
ポン マジかよ東京。やべえぜ。
ツダ あ、パンダが生まれたってのは聞いた。
ポン パンダ、ポンポンポン!
ツダ ポンポン? なんなのそれ。
ポン 気にするな。パンダは紀州の誇りだが、色々複雑なんだ。
ツダ そうなんだ。
ポン きっと君が情弱なだけだろ。これほど大規模な愛の街計画を世界中にアピールしてるのに、同じ日本人が知らないほうがおかしい。
ツダ そうなのかなあ。確かに仕事ばっかで、忙しくはあったけど。
ポン すっかりつまんねえ人間になったな。あの頃の紀州至上主義のツダ君はどこにいったんだよ。
ツダ あの頃は、若かったから。
ポン まあ、俺らももうアラサーだからな。
ツダ それよりなんなの、その愛ラブ和歌山って。
ポン 条例だよ。条例。
ツダ 条例?
ポン 愛の、愛による、愛のための条例、紀中御法度(きしゅうごはっと) 5箇条!
犬 わん!
ポン 一つ! 愛に背きまじきこと!
犬 わん!
ポン 一つ! 愛より脱するをゆるさず!
犬 わん!
ポン 一つ! 勝手に恋愛いたすべからず!
犬 わん!
ポン 一つ! 無断ノ愛を争うをゆるさず!
犬 わん!
ポン 一つ! 以上あいそむくもの切腹を申しべくそうろうなり!
ツダ せ、切腹?
ポン ちょっきんちょ♪ 愛の取り締まり及び放置車両確認事務を受託した違法愛確認機関の愛と放置車両の監視員、通称ラブポリス。一応みなし公務員です
ツダ 駐禁もやってるんだ。
ポン あの河川敷の駐車禁止に止めてる車、君の?
ツダ あ、うん。
ポン 駐禁貼っといたからね。
ツダ 急に現実味だしてくる。なんとかならない? 友達のよしみで。
ポン ダメダメ。そういうのやるとオレが捕まっちゃう。
ツダ ああ、信じられない。
ポン この犬を勝手に愛でようとしたの見逃したしてあげたろ。それだけでも感謝しろよ。
ツダ それも駄目なの?
ポン 当たり前だろ。本当に何も知らないんだな。紀州が誇る天然記念動物を愛でるだけでも大変なのに、こちらにおわすお犬様を愛でようなんて重罪だぞ。なあ?
犬 わ~ん。
ツダ あ、この犬君。有名になったの?
ポン パンダをしってて、この犬様をしらないなんて冗談だろ?
ツダ ごめん、まったく。
犬 わ~~ん。
ツダ 信じらんねえ。紀州ラブアンドドリームテーマパークのマスコットキャラクター及び、愛ラブ和歌山観光大使の紀州犬のきいちゃんだよ? テーマパークのど真ん中には、忠犬ハチ公もびっくりの、超どでかい「きいちゃん銅像」も建設予定だっていうのに。ああ、その銅像の前で恋人たちが待ち合わせして、愛を語らうそんな光景が見えるよう。ああ~~い。
犬 わん。
ツダ すごい出世っぷり。東京で大学出て、仕事仕事だったから、あんまりこっちの事しらなかったけど。そんなことになっていたなんて。
ポン こっちに戻ってくるんならそこらへんちゃんとしないと。
ツダ やだなあ、東京戻ろうかな。
ポン 素晴らしいだろ。愛が溢れるわが町和歌山。おかげで、魅力ある街ナンバー1を10連覇。そこれもこれも、あのお方が制定されたすばらしい愛の政治のおかげ。
ツダ あの方?
ポン この街、紀州和歌山を出て、都会で愛を研鑽して、この町の為に戻ってきてこの町を愛に替えたお方がいるんだよ。
ツダ すごいねえ。誰それ。
ポン ふふっ驚くぜ。お前の知ってるお方だよ。
ツダ ボクが知ってる?
ポン それは、
スミ それは私です!
ツダ 誰?

パリッとしたスーツ姿のスミが現れる。

スミ お久しぶりね。ツダ君。
ポン ああ、あなた様は!
ツダ 誰?
ポン おいっ。図が高いぞ。彼女は今やこの町の首長様ですぞ。
ツダ 首長様?
スミ よいよい。知った仲よ。私よ、私。
ツダ えっと、中本さん?
スミ ふざけるな。一緒に東京にいったろうが。
ツダ えっと……。
スミ くっ。「ツーくんのバーカ♪ にゃんにゃん♪」
ツダ その気持ち悪い猫なで声、スミちゃん!
スミ くっ。辛い。次に出てくる奴にはもっときつい目にあってほしいものね。
ツダ 久しぶり。
スミ お久しぶりね、ツダ君。相変わらずパッとしないわね。せっかく東京の大学を出たというのに。
ツダ スミちゃんこそ、東京の大学であっさりとボクを捨ててから、すごい出世っぷり。
スミ 女は男を踏み台にして成長していくもの。こんな地方の片隅では輝いて見えた男も、日本の中心にでれば、ド田舎のドテジャガイモ・ゴロゴロ・芋ボーイ。
ツダ ひどい。
スミ ひどいくて結構。東京に出て、私はいろんな事を経験した。あれやこれや。
ポン あれやこれや。
スミ 妄想するな。
ポン アイ!
スミ そこで私は自分の中に、あれほどキライだった地元、紀州の血が流れていることを嫌というほど知らされてしまった。
ツダ そうなの?
スミ あなたは逆だった。すっかり東京に飲み込まれてつまらない男になってしまった。けど私は逆、つまらない人生なんか送りたくない。こんな夢も希望もない街で一生を終えるなんてありえない。けど皮肉にも私が都会の人間と戦う武器。それはこの町、紀州和歌山であるということ。なら、私は選ぶ。この町をよりよく、最強にすること。
ツダ だからって、愛だとかなんだとかの条例はやりすぎじゃないかな。
スミ 少子化対策です。
ツダ 急にまとも。
スミ この町の一番の問題は少子化高齢化。若い人たちがドンドン街から出て行ってしまって残された大人はドンドン高齢化していってしまう。このままじゃ街ごと年老いて死んでしまう。
ツダ だからって、けど、切腹とかはやりすぎじゃ。
スミ 切腹? なにそれ。
ツダ えっ、そうなの?
ポン てへっ。盛っちゃった。
スミ 違反した人は、窓のない部屋に閉じ込めて、私が作った愛のポエムの朗読テープを一週間聞き続けてもらいます。
ツダ なにそれ。
スミ 切腹よりはいいでしょ?
ツダ 普通に怖いよ。
スミ とりあえず、あなたからやってみる?
ツダ 勘弁してください。そんなんじゃ怖くて恋愛なんてできないんじゃないでしょ。
スミ 逆よ。こうやって取り締まる人がいるから、みんなが安心して愛を語れる。
ポン この町の愛はオレが守る。ラブポリス!
スミ 誰もが臆病にならずに、公平に、思う存分、自由に愛を満喫できる街。
犬 わん!
ポン 愛、
スミ ラブ、
スミ・ポン 和歌山!
犬 わお~~~ん。
ツダ 結束力はすごいね。
ポン これがこの町の愛の絆の力だよ。
スミ あんたも大人しくこの町の愛の構成員の一人になりなさい。
ツダ やりすぎでしょ。そんなやり方じゃあ、ボクが好きだったこの町は、古来から続く伝統や風習は、そして、この大いなる悠久なる紀の川は、なくなってしまう。
スミ そんなものがあったって誰も幸せにならないじゃない。伝統や文化でお腹はいっぱいにならないでしょ。
ツダ そんなことは……。
スミ 子供にやさしい街が未来へ続くの。子供に一番必要なのはなに?
ツダ 子供に必要な物。それは……。
スミ それは?
ツダ 親の……。
スミ あ?
ポン あ?
ツダ あ、
スミ あ?
ポン あ?
スミ 愛情。
ポン 愛だよ愛、ア~~~イ!
スミ そう、愛よ、愛こそすべて。愛があればなんでもできる。愛があれば子供ができる。そして次に必要なのは、若い人が夢をもって働ける仕事。その為には雇用の産出。古臭い伝統や風土では若者は夢を見れない。そんなものよりも夢の国。愛と夢のつまったランドをつくればいいじゃない。そしたら、観光客がやってくる。観光客がやってきたら、観光都市として仕事が増える。夢と理想と現実、すべてがうまくまわる。愛こそすべて。そして私は圧倒的な支持を得ている。そう、この町の愛を受けている。ああ、なんて素敵な愛の街。街のみんなが私を愛し、私もこの町のみんなを愛している。過去なんてどうでもいい、今を生きるみんなの愛の為に、今私は生きている。
ツダ 君のエゴだろそれは。
スミ エゴでいいの! 私は私の為に生きている。この町の為に私がいるんじゃない! 私の為にこの町があるの。それがこの町のためでもある。
ポン 美しいほどの自己愛、エモすぎる自己憐憫(じこれんびん)、まさにエゴの固まり。エゴいエゴいよ! 政治家の鏡だ。
スミ 今や私は県知事。でもここがゴールではない。やがて国政へ、そしてこの国初の女性総理大臣になるのは誰か? そう、私です。こんにちわ。私の袖の下、まだ空いておりますよ。
ポン ア~~イ! 自然な賄賂要求が素敵。コネが欲しいー!
ツダ こんな人だったっけ?
スミ 都会で小さくまとまったあなたにはわからないかもしれないけど、私は大きな世界を見ているの。そう、この小さな町から、大きな世界へと私の理想は広がっている。もう近畿のおまけなんて言わせない。芸術の街パリ、美食の街スペイン・絶景の街アマルフィーそして、世界一の愛の街和歌山へつれもておいで!!
ポン ついに、この町が世界へと羽ばたくんですね。
スミ もう、すでに世界進出は進んでいるんです。
ツダ そうなの?
スミ 本日、愛の姉妹都市提携の視察として、ある国の大統領がやってきているのです。
ツダ ある国?
スミ ええ、ラブの愛で国とかいて愛国。
ポン 中国のどこかですか?
スミ バカねエ。全然違う。
ツダ アイルランドだよ。
スミ そう愛の国、アイルランド。
ポン さすが大卒。って、アイルランドってどこ?
ツダ 北欧にあるイギリスの横にある島国だよ。
スミ そう、愛国こと、アイルランドの大統領がやってきているのです。しかも、その人物はこの町出身の方なのです。それもあなた達もよく知っている。
ポン この町の人が大統領に?
ツダ なんだろう。デジャブ―を感じる。
スミ そう。この町をでて、愛知で愛を知る修行をおさめて、おられたのですが、
ポン 愛知で?
スミ そう。その愛知でその腕を買われて愛の国へヘッドハンティングされ、今や世界随一の愛の国をつくりあげ、大統領までなられた。
ポン まさかそれは……。
スミ それは、
ノリ それは私です!
ツダ 誰?
梅子 いや、あんたの出番はまだだから!
ノリ まだ?
スミ どうしました?
梅子 ちょっと待ってくださーい。
ノリ 私主人公じゃないの? 出番なさすぎでしょ!?
梅子 次だから、次!
ノリ なんでよぉ。これだからナンセンスギャグコメディーはキライなのよ! ねえ、今からでも恋愛純情青春ドラマにならないの?
梅子 どう考えてももう無理でしょ。ヒーローは遅れて現れる。ってやつでしょ。ここは私が出て、場を温めて、最期どおーんと出て。美味しい所もっていく感じ?
ノリ そう? じゃあいいけど。
梅子 では、改めまして、お待たせいたしました。それは私です!

ファンシーな緑のアイルランド風の衣装姿のスミが現れる。

梅子 お久しぶり。
ポン ああ、あなた様は!
ツダ ……誰?
スミ おいっ。図が高いぞ。彼女こそが愛国の大統領様ですよ。
梅子 ツダ君、久しぶりね。
ツダ えっと、井本さん?
ポン ふざけるな。梅子さんだよ。
スミ そう、覚えてないのならしょうがないね。例の奴やらないと。
ツダ 梅子さんねえ。ああ、同じクラスで地味な存在の梅子さん。
梅子 お久しぶり。
スミ なんで思い出すんだよ。なんでだよ。
梅子 何を怒ってるんですか?
スミ 失礼、取り乱しました。
ツダ なんか同窓会みたいになって来たなあ。
梅子 懐かしの愛しき故郷に帰ってまいりました。
ポン 師匠、すっかりご立派になられて。
梅子 誰?
ポン ボクですよボク。ずっと一緒にいたじゃないですか。
梅子 ああ、そうねそう。ああ、山本君?
ポン 違いますよ!
梅子 ああ、そうね。冗談冗談。えっと……。
ポン これ、またボクの番なんですか?
スミ みたいね。まあやってもらいましょうか。
ポン しょうがないなあ。アイアイ、ア~イ!
梅子 ああ、会田君だ。
ポン ちっげえよ。
梅子 冗談よ冗談。お久しぶり。
ポン もうやめてくださいよ。そんなことしてたら、結婚申し込みますよ?
梅子 ああ、あの、すぐ告白してくるうざい奴。
ポン ひどい。
梅子 ピン君だったっけ?
ポン ポンですよポン。本当に忘れてるじゃないですか。
梅子 ごめんね。日本にしばらくいなかったから。
スミ お久しぶりです。さあ、よくお越しいただきました。
梅子 親戚じゃないの。苦しいのはなしにしましょ。
スミ ええ。これほど固い絆はない。さあ、じゃあツダくん。さっそくのお仕事よ。
ツダ え、ボクですか?
スミ そう、あなたの最初の仕事はウメさんをアテンドする事。
ポン え、それならボクが。
スミ バカねぇ。あんたは取り締まりがあるでしょう。
ポン けどあいつは関係ありませんよ。
スミ そんなことないよ。ねえ?
ツダ ああ、まあ。そうなりますかね。
ポン どういうこと?
ツダ 自分、県庁に勤めることになりました。
ポン げっ、みなさない本物の公務員様?
ツダ まあ、そうですね。まさか本当に受かるとは思ってなかったんですけど。
スミ 私が合格させました。
ポン コネか。うらやましい。
スミ あなたもでしょ。この町ではコネがすべてよ。能力よりも、学力よりも、コネがすべて。それも人への愛。
ツダ ありがたい。
スミ それに、ゆくゆくは紀州ラブアンドドリームランドの管理も任せようかと考えている。
ツダ ぼ、ボクがですか?
スミ あなたの能力は私が良く知っている。東京じゃ役に立たなくても、あなたの卓越した郷愁は使える。それが一番この町に必要な愛。郷土愛!
梅子 郷土愛。すばらしい!
スミ さあ、今日から、ちょうど、郷土は、ちょう愛の街。郷土愛!
ポン あ~~い!
梅子 こうやってこの町を愛する同級生たちがみんな集まって一つの仕事まっとうしようとしている。とても素晴らしい事です。
ポン いいなあ。ボクだって郷土愛ありますよ。
スミ あなたのは、ただの性欲よ。
ポン あ~~~い。
梅子 その駄目な、あ~~い。ポン君!
ポン やっと思い出してくれたんですか。
梅子 変わってないわねえ。
ポン そうです、あなたに一途です。結婚してください。
梅子 嘘つくな。
ポン 駄目でした。
スミ さあ、みなの絆を記念して和歌山県歌を歌いましょう!

和歌山県歌のイントロが流れる。
ツダ以外は、胸に手を当てて天を仰いでいる。

スミ さあ、輝かしいわが町の未来に向かって、愛をこめてうたって、エンディングを迎えましょう。
ポン ああ、なんて素晴らしい。

ジャージ姿のノリが来る。

ノリ ちょっちょっちょっと。
スミ なに。今、いい所なんですけど。
ノリ エンディングとか言いました?
スミ ええ、これで大団円。
ノリ いや、私の出番は。
梅子 あっ、
ノリ あって言った。
梅子 一緒に歌う?
ノリ 歌わねえよ。
ポン なんだよこいつ。取り締まりますか?
スミ そうね。
ノリ ちょいちょいちょ~~い。いくらなんでもそれはないでしょうが。私が主人公なんだっていうのに。主人公の私の出番がまだでしょうが。
スミ そうなの?
梅子 主人公かどうかといわれたら、微妙に違うかもしれないです。
ノリ そうなの? 私の話じゃないの?
梅子 違う違う。ねえ?
スミ そうね。
ノリ じゃあなんなのよ。
スミ この話の主人公はこの町。この町の大いなる変化を面白おかしく風刺したりして住んでいる人に生まれた場所について考えてもらう感じです。
ポン それを言ったら台無しですよ。
スミ だって。主人公とか言い出すから。
ノリ そんなあ。街が主人公とかアリなの? ナンセンスギャグコメディーってホント最悪。
梅子 そういうことは本当に言っちゃダメ。
ノリ ごめんなさい。
スミ そもそもあなたは誰?
ノリ スミちゃん、ひどい。私を忘れたの?
ツダ またか。
スミ いいねえ、その感じ。この後、なんて言うんだっけ?
ツダ 適当な名前を言って。
スミ えっと、鈴木さん?
ノリ そう、鈴木ノリコ。
ポン 正解しちゃだめですよ。
スミ 難しいのよ。わざと間違えるのって。
ノリ そういうあなたこそ、本当にスミちゃんなの? 偽物でしょ?
ポン たしかに、本物かなあ。
スミ おや、いやな流れ。
ノリ 本当は後藤さんじゃないの?
スミ ちがうよ。あんな奴といっしょにしないでよ。私よ私。
ノリ すいません。ちょっと……。
スミ やらないと駄目?
ポン そこはしょうがないなあですよ。
スミ しょうがないなあ。◎◎先生のモノマネしま~す。「うお~~い。後藤、宿題やってきたか~~」
ノリ ……。
スミ なんか言ってよ。
ノリ ツダ君! あなたに用があるの!
スミ 無視かい!
ツダ ぼ、ボク?
スミ そう。
ノリ どうしても言いたいことがある。
ツダ あの、ボクは会った事ありましたっけ?
ノリ え?
スミ きたきたきた。ブーメラン。
ノリ 私です、私。
ツダ すいません、ちょっと。
ノリ 忘れちゃった? まあ、それもしかたがない。ほら昔、この紀の川の河川敷で。
ツダ ああっ。
ノリ そう、懐かしいなあ。
ツダ クラスメイトの……。
ノリ そうそう。元気そうじゃん。
ツダ 松尾さん?
ノリ ちげええよ。あんな奴といっしょにすんなよ。私よ、私。
ツダ すいません。ちょっと……。
スミ いいよいい。頑張って。
ノリ しょうがないなあ。◎◎さんが食べ過ぎた後にいう一言やります「甘いものならまだ入るけどねえ。」
スミ どう? 恥ずかしいでしょ。
ノリ そんなのどうでもいいから。ね、私、ノリコですよ。
ツダ ごめんなさい。本当に分からない。
ノリ ひ、ひどいぃ。
スミ しかたないわよ。あんた、喋ったって言っても河川敷で一回だけでしょ。さっすがにそれは覚えてないでしょ。
ツダ そうなんだ。
ノリ ラブ師匠~~。早くもくじけたんですけど~。
梅子 しらないよ。私は今、ラブ大統領。
ノリ ラブ大統領~~。なんとかしてよ。
梅子 無理よ。あなた、愛知でさっさと修行から逃げ出したじゃない。
ノリ だって~。
ポン なんだ、かっこ悪い。
ノリ 修行とかしんどし。てか、愛の修行とか言って、冷たい氷の上で暮らすなんて変よ。
梅子 愛だけに、アイスリンクの上で愛の上を優雅に滑る修行よ。
ノリ 意味わかんない。私は、そんなんじゃなくて、もっと乙女の軽いノリみたいなあ。
スミ 恋愛占いみたいな。
ノリ そう。手っ取り早く告白する勇気をつける方法が知りたかっただけだし。
スミ そういえばダメな人だったね。
ノリ 照れるよ。
スミ ほめてない。
梅子 しょうがない。じゃあ、最期の最期の最期、ラブ師匠の告白する勇気を出す方法ナンバー1を聞く?
ノリ いいんですか?
梅子 もちろん。
ノリ お願いします。
梅子 有料です。
ノリ いくらですか?
梅子 350ユーロです。
ノリ 350ユーロといいますと、日本円では?
梅子 5万円ぐらい。
ノリ また値上がりしてる。
梅子 原材料費の高騰で。
ノリ 占いに原材料とかないでしょ。
梅子 人件費があがってて。
ノリ ならしかたない。払います。
梅子 払えないか。
ノリ だから払いますって
梅子 払うの?
ノリ 払いますよ。
梅子 いいの?
ノリ はい。
梅子 払えるの?
ノリ はい、もう社会人なんで、痛い出費ですけど。払えます。
梅子 社会人すごい。
ノリ そうです。はい、ぺいぺい。
梅子 では、ラブ師匠の教える、告白する勇気の秘訣。ナンバー1それは、考えるの。
ノリ 考える?
梅子 告白しなかったときのことを。
ノリ 告白しなかったらどうなるか?
梅子 そう。しなかったらきっと後悔する。一生引きずってしまう。断られれば、その時は辛いかもしれな。けどそれは次の新しい恋への新しい旅立ち。その経験はお金には代えられない。
ノリ なるほど。
梅子 しない後悔よりも、した後悔のほうが、ずっといい。そのままずるずるとひきずって、あなたの大事で、貴重な時間をもっと有益なことにつかないと。乙女の10代、20代はお金には代えられない。
ノリ 痛い。痛すぎる。
梅子 ね、聞いてよかったでしょう?
ノリ もっと早く教えてくれればよかったのに。
梅子 タイムイズマネー。お金よりも時間が大事。
ノリ つらすぎる。アラサーになってしまった私にはダメージが大きすぎる。
梅子 告白するは一時の恥。しないは一生の恥。さあ、いってらっしゃい。
ノリ くぅ~。その後ろ向きな感じたまんねえぜ。
スミ さっさとしてよ。早く終わりたいんだから。
ノリ やってやるよ。
ツダ ボク、ずっといるんですけど。どうしたらいいですか?
ポン そこは察しろよ。
ツダ やだなあ、なんか。
ノリ ツダくん!
ツダ はい。
ノリ 大好き。
ツダ ごめんなさい。
ノリ ごめんなさい?
ツダ ボク、結婚したんだ。
ノリ け、結婚!?
ツダ 東京でできた彼女と結婚したのをきっかけに、もっと安定した仕事を探して一か八か受けた地方公務員試験に合格したんで、一緒に引っ越してきたんです。
ノリ そ、そうなんだ。
ツダ もうすぐ子供も生まれます。
ノリ あ、ああ~。おめでとう。
スミ すばらしい、まさに愛の結晶だ。
ノリ おめでとうだって、私。
梅子 いや、よかったよ?
ノリ よくない。告白さえすれば成功間違いなしって。
梅子 何の話?
ノリ 恋愛占い。
梅子 ああ、そんなのあったな。
スミ あなたの恋愛運は絶好調!あなたの恋愛運はここ10年間最高です。告白すれば成功間違いなし。
梅子 もう10年たってるし。
ノリ そんなあ。コメディーってハッピーエンドになるんじゃないの?
梅子 違う。コメディーに必要なのは、落ちだ! そして、散々告白するって前振りして振られたっていうのが落ちです。
ノリ 落ちる~~。
スミ さあ、本当のエンディングは、とりあえずみんなで踊りましょう。
ツダ なぜですか?
スミ そういうもんなの。最期は踊ってりゃいい感じに終わるの。
ツダ なるほど。
梅子 世界へ愛を届けるんです。
ポン 正調ぶんだら節だ。
ツダ これも仕事ですか?
スミ さあ、ツダ君、音楽をよろしく。
ツダ はい。

BGM ぶんだら節
犬・ノリ以外踊り始める。

スミ あんたも踊らないの?
ノリ そんな気分じゃない。
スミ そういう所よ!
ノリ 落ちこんでるんで。
ポン 楽しいですよ!
ノリ 全然楽しくない!
梅子 踊るアホウに見るアホウ、同じアホなあ踊りゃにゃそんそん。
ノリ あほで結構こけこっこー。
ツダ 踊ってみりゃ楽しくなりますよ。
ノリ 楽しくなんか、なりたくないの。なに、あんたは踊らないの?
犬 わん。
ノリ なによ。喋りなさいよ。
犬 わんわん。
ノリ なに、あんたまで私をバカにするの?
犬 バカにはしてませんよ。
ノリ してるじゃない。犬の癖に。
犬 ボクは犬じゃありませんよ。
ノリ 紀州犬だっていったじゃない。
犬 それは世を忍ぶ仮の姿。そもそも犬が喋りますか?
ノリ ナンセンスギャグコメディーなんでしょ?
犬 ナンセンスギャグコメディーだからって犬が喋るのはナンセンスですよ。
ノリ そうなの? でも今、喋ってるじゃない。
犬 なぜボクが喋っているか。それはボクは犬じゃなかったからですよ。
ノリ そうなの?
犬 犬じゃないので喋ります。
ノリ そうねえ。犬じゃなけりゃ喋るわね。
犬 そしてこれはナンセンスギャグコメディーじゃないんです!
ノリ そうなの? もしかして、一発逆転、青春キラキラ・ラブラブストーリーの可能性も?
犬 ないです。
ノリ ないんかい。期待させるなよ。
犬 がっかりさせて申し訳ありませんが、希望は持ってください。
ノリ 何の希望よ。もう私には夢も希望も愛もない。ついでにお金もない。ないないない、なんもない。ついでにもう生きる気力もない。
犬 そう言わないでください。
ノリ なによ、愚痴の一つも言っちゃダメなの? もういい。
犬 聞いてください。いいですか。今や、我々は宇宙時代を迎えているのです。世界を飛び越えて、人類は宇宙へ進出しようとしているのです。
ノリ そうなの? いつのまに。
犬 今、時代設定は未来だからです。
ノリ そうかあ。もう私もアラサーだもんねえ。ひねくれもする。
犬 この宇宙は広大すぎるほど広大なのです。人類には認識できないほど大きいのです。そしてその片隅の片隅のちっぽけな地球の、ほんの片隅の小さな小さな国、その隅っこの小さな小さな街に住んでいるはるか小さな小さな存在が我々なんです。
ノリ ああ、なんか失恋がどうにでもよくなってきた。
犬 そうです。そんな無限の宇宙に比べれば、失恋なんてちっぽけな悩み、忘れてしまいましょう。
ノリ 宇宙でっかいねえ。
犬 さあ、ノリさん。行きましょう。
ノリ どこに?
犬 宇宙。
ノリ 宇宙?
犬 あなたにはこの街は、国は、星は、小さすぎるのです。私と一緒に宇宙へと旅立ちましょう。
ノリ なんかめんどくさいなあ。
犬 そんなこと言わないでください。考えてください。世界には何億という男性がいます。そして、宇宙にはさらに性別を超えた無限の生命体が暮らしている。そこにノリさん、あなたの運命の人がいない方がおかしい。
ノリ なるほど、確かに。
犬 さあ、旅発ちましょう。愛のコスモゾーンへ。
ノリ あなた、いったい何者なの?
犬 そう、私は犬ではなく、宇宙人だったのです。
ノリ 宇宙人は喋るの?
犬 そう、喋るタイプの宇宙人なのです。
ノリ なるほど。じゃあ喋るのか。
犬 そうです。この物語は宇宙人が喋ってくるタイプのエスエフストーリーだったのです。だから宇宙人も喋るのです!
ノリ もうよくわからない。
犬 わからない。そう、それが宇宙の真理であり、未来への希望の一ページ。私たちは、まだみる未知の世界、宇宙へと飛び立つ時が来ているのです。母なる大地、そんな小さなことをいってる場合ではありません。小さな世界で、言い争いをしてもしょうがなくありませんか。この宇宙には数えきれないほどの星があり、そして無限の資源と、ありとあらゆる可能性に満ちているのです。宇宙のあまりにも無限のおおきさに比べれば私たちは、あまりにもちっぽけでほんの一瞬のささいな存在です。しかし、しかしです、私たちには宇宙にも負けない無限の可能性と、大いなる希望という名の想像力があるのです。さあ、ノリさん、行きましょう。

ノリ、少し考えるが、

ノリ いいや。
犬 えっ?
ノリ 帰る。
犬 帰るって。どこへ?
ノリ 家でしょ。
犬 そんな宇宙が待ってるんですよ。無限の愛がそこにあるんですよ。
ノリ いいや、しんどい。
犬 しんどいって。今やらなきゃいつやるの。
ノリ いつか。
犬 そんな駄目な答え。
ノリ 駄目でけっこう。こけっこっこ。帰って寝る。それで私にはそれが一番の幸せ。私の夢は布団の上一畳分の私の世界。そこがどこだろうとかまわない。外の世界は関係ない私だけの世界。そこがあれば私はいい。
犬 人間は一人では生きられないんですよ。
ノリ ごめんね。
犬 では、また。明日か、明日かその先のきっといつかのまた逢う日まで。今か未来か、現世か夢の世界か、来世でも。
ノリ ばいばーい。

ノリ、去る。

注釈

1 紀の川 和歌山市を横断する様に流れる一級河川。
2 水セッタ ビーチサンダルの事。和歌山県では小学校でも普通に使われており、水セッタが全国共通語だと思い込んでいる人がかなり多い。
3 グリーンソフト 玉林園が販売しているまっちゃ風味のソフトクリーム。コンビニなどでは、冷凍したものも販売されている。幼少期からのおやつとして、和歌山県民には定番。
4 ぶんだら節 和歌山県で定番の盆踊り。紀伊国屋文左衛門が蜜柑を和歌山から江戸に運んで大儲けした様子を歌っている。近年、ポップな「ニューバージョンぶんだら21」が生まれており。伝統的な物は「正調ぶんだら節」と呼ばれることもある。
5 和歌山大学 和歌山市にある公立大学。
6 クラブゲート 和歌山市内にあるクラブ
7 愛知が遠い 和歌山市から他県に行くには、ほぼほぼ大阪を経由することになり、かなり陸の孤島ともいえる。東京へは、直通の夜行バスが運行されている。
8 パンダ 和歌山県の白浜にあるアドベンチャーワールドで飼育されている。全国でも数少ないパンダが見れる場所で、飼育数は日本一。
9 きいちゃん 和歌山国体の時に生まれたマスコットキャラクター。その後も、色々なマスコットとしていまだに人気がある。

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?